CRoSs☤MiND ~ 背負いし咎の果てに ~ 第 四 部 源 太陽 編

DAN

冒 頭

 彼女の息子が僕の前に立っていた。生死の秤に対してよほど、この男は運がいいのだろう。その男が私へ向ける目は恨みとかではなかった。なら、どうして、僕の前に現れたというのだろう。僕が憎くないとでも言うのだろうか。いいや、そんな事があるはずない。人には感情があり、その中でも愛と憎しみという物はその繋がりが強く表裏一体で、僕の行いを辿れば、この男にとって僕へ向ける想念は限りなく憎しみで満ちているはず。

 だが・・・、・・・、・・・、だが、この男の双眸が宿す、輝きはいったい何だ・・・。八神慎治、一体何を考えているというのだろう・・・、八神慎治は私が今まで行ってきた断片のいくつかをまるで己が体験したかのように話し始める。そして、その途中で、その男とは違う、私が思う処の感情を持った男が現れたのだ。その凍てつく様に冷めた視線はまるで死神が冥途への旅立ち宣告を言い渡しに来たかの如く冷静で凛ともしていた。

 その男が僕の抱えた憎しみの更に先を、上を行く、逝きついた先の眼なのだろう。

 一度死んだはずの男、藤原龍一が死んだはずの男の妹、翔子と八神慎治の間を挟むようにして、今、私の目の前にいる。彼は鋭い視線と当たり前の様に銃口を私に並べ、その引き金に力を込めようとしていた。僕との間に居る者達等まるで見えないのかの様に平然とその拳銃の引き金を引こうとしていた。

 僕はこれを、この瞬間をずっと待ち望んでいたのかもしれない。僕自身では断ち切れない負の連鎖。愛しさから生み出された憎しみの二律背反。その鎖を断ち切れる者の登場を。咎を重ね過ぎた僕を裁く者を・・・。それは八神慎治ではなく、藤原龍一だったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る