第18話 イワケンのカブは空を逝く

 あのアルファード、インター降り始めたなぁー。


一気に距離を縮めてやる。


「なんでー。なんで、50CCのカブで80km/hrの普通車抜いてるのー。てっ言うかタイヤ浮いてない―――?」




インターの降り口に前の車が溜まり始めたし、ワゴン車行っちゃうし。


「飛んでるー。バイク飛んでるー。防音壁走ってる―――」


一般道に出たな、もう少しで追いつけるかな。


『卑怯ものどもめ。新田さん大丈夫だよ。こんな奴等の勝手にさせないよ』


ボコ、ドス、ゲシャ‼


『ギャー、イタタタタ』


『悲鳴をあげるな!陰茎が苛立つ』


ボコッ、ドスッ、ボギャゴキ。


『ねえ、ちょっと待って。ワタシラ謝るから。もう止めてたげて』


『そうだよ。ちゃんとコイツラに焼き入れたしもう良いかなって。だからお願い。もうやめよう』


ガスッ、ボクッ


『はっ、はじめっから輪姦す予定でダチ集めてるんだ。アイテテテ。今更やめられっかよう』


ドガシャーン、ボキュ


『嫌だよー。ワタシラそんなつもりじゃなかったんだよー。お願いだからやめてー』


『痛てー。テメーラ。向こうについたらフクロにしてやんよー』


ボッコ、ゲコッ、ドンガラガッシャーン。


あいつら手を出しやがって。


アンナ、ニッチホントに無事でいて。


あのヤカラども絶対許さないからね。


廃工場の門をアルファードがくぐって敷地の中に入って行ったぞー。


軽四やバイクが何台か集まってるじゃん。


「あっーあぇーー。漏れる。てっ言うか漏れた―――」


「汚ねぇーなあー。そばに寄んなー。腰引くなー。」


「蹴らないでー。落ちるから蹴らないで―――」


イワケンはもう駄目だ。


廃工場の前でバイクから棄てて行く事にしよう。


『クッソー。オマエそれ以上暴れたらこの二人ぶっ殺すぞ』


『その二人からも手を放せ! 卑怯者! 僕の正義のコブシは怒りに満ちている!』


『お前ら最低だよ。ナギサもミユキもお前らかばって岡部に謝ってくれたんじゃないか』


『うるせーよ。もう着いちまったんだ。後戻りできないんだよ』


バゴチーン!!


アルファードが止まって轟音と共にスライドドアが歪んで半開きになるのが見えた。


ドガッ。


白いタイツをはいた黒いエナメルの靴が見えて、半開きのドアからヤカラが一人吹き飛んでゆく。


そして頭を鷲摑みにされたヤカラが二人と白い両腕が現れた。


ゆっくりとアルファードからヤカラをぶら下げたゴスロリ少女が、アンナが降り立った。


薄暗がりにターミネーターの様に赤い光を一つだけポツンと光らせて。


なんでー?


勢いをつけて左手を振ると、ヤカラが一人吹き飛ばされて行く。


続いて右手のヤカラも放り投げられた。


その後ろに縋り付くようにナギサとミユキの二人が転げ出てきた。


ニッチがナギサとミユキの手を引いて立ち上がらせる。


先に空き地に溜まっていたヤカラ達が呆然とその光景を見ていた。


『テメッ! ザッケンナコラー! 俺の車になんてことしやがるんだコッラー! ダッテメーオッラー! ドグサレッガー! スッゾコラー!!』


先輩とか言うヤカラのボスが特殊警棒を伸ばすと、真っ赤な顔で青筋を立てて運転席から降りてくる。


『ワドルナッケングラー! この落とし前はキッチリつけさせてやるからなオッラー! お前らコイツラをぶちのめせコッラー! タマッタルケンノー!』


空き地にたむろしていたヤカラ子分たちがその声に気を取り直してバールや鉄パイプ・チェーンなどを握り締める。


「イワケン。警察に電話してすぐに来てもらって。ミス〇で拉致られた女の子がここにいるって言えばわかるから。わかったね!」


放心状態のイワケンはコクコクと首を縦に振る。


ウチはそれだけ告げると門の前にイワケンを蹴り落としてカブごと宙に舞う。


「イヤー。落ちるー。死ぬる―――」


風の魔法でイワケンのお尻にホバークッションをかけたので、イワケンの身体は地面すれすれを滑って行く。


何故か水滴の飛沫をまき散らしながら。


そして廃工場の壁の手前で水溜まりを作りながら停止した。


早めに蹴り落しておいて正解だったと思う。


その頃イキリ立ったヤカラ先輩とその子分達がアンナに迫っていた。


さっき投げられた二人を見ているので直ぐには襲いかからない。


様子を窺いながらジリジリと安奈たちに近づいて行く。


ナギサとミユキは腰砕け状態でニッチにしがみついている。


ニッチはその二人を抱きかかえるように中腰で二人の頭を抱いていた。


その前に両手を広げたアンナがアルファードの左横で立ちふさがっている。


ウチはそのアルファードのルーフにカブごと着地を決める。


ルーフの上でワンバンすると前輪はそのままボンネットにめり込んで、後輪はフロントガラスを突き破って停止した。


フロントに突き刺さったまま起立するカブを降りてウチは周りを一瞥。


ゆっくりとカブから降りるとボンネットの上に仁王立ちになった。


呆然としてこっちを見上げるヤカラどもを前に決めポーズ。


(ちゃんと名乗りは上げないと、フルヘル被ってるから誰だかわかんないもんね。)


「ピンクのハートは愛あるしるし! ぎたてフレッシュ、ピグレ〇ト仮面!」

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