第14話やっと生えたね…翼

「長かったね、ここまでくるのに」

「そうだね、香純かすみ

顔に吐息が掛かり、わずかにくすぐったくなって声が若干震えた。

長かった、私らからすると……って意味だ。

周囲からみれば、きっと短いのだろう……

感慨深そうに発せられた言葉に頷くしかない。

実際に、そうなのだから。

ハリがあって潤いのある彼女の顔を見つめながら、微笑む。

カーテンの隙間から漏れる淡い月明かりでも彼女の顔がわかる。

ベッドに横たわり、彼女と向かい合うこの瞬間ひとときがとても愛おしい。

行為の後だというのに、シたりないと思ってしまう。

ムラムラ、というのではないけど……彼女の唇が視界に入るとつい、キスをしたくなる。


背を向きあって、ついに、翼が生えた。

翼は生えたのに、飛び立つ場所はドコにもない。

楽園エデンにたどり着いた、私らには翼は要らなくなった。



交際に至るまでの期間、多くの壁にぶち当たった。

お互いに両想いなのに、些細なことで喧嘩したのだって何度あっただろう。

なんだかんだあったが、今は柔らかく絡みあって幾度も裸の身体を重ねている。

お互いに曝けだし、手を取り合い柔らかい笑顔が——二人だけの空間を満たしている。


交際以前の刺激的な想い出に浸ると絶頂けてしまう。

あの頃から手折香純は——大胆で積極的な娘だった。

高校二年の秋、文化祭の最中にされた背徳感と刺激が一緒くたに感じさせられたあのキスは、昇天しそうなほど生々しく、身体中が火照り全身の力が抜けるほど気持ちよかった。

アソコが濡れて、カンじられずにはいられない濃厚なキスだった。

場所も相俟って最高だった。



「あのときの……キスって、いつシてくれる?香純ぃ」

甘い声で彼女にねだる私。

「ヤったばかりじゃん、碧。もうぅ〜断れないようなそんなしてねだるってずるい……」

そう言いながらも、器用に身体を寄せて唇を重ねる香純。


「んっ、うぅんっ、んぅっ……」

私の口内でこもる喘ぎは続く。




愛してるよ、香純。

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