佐藤さんは構ってちゃん

一本橋

佐藤さんは構ってちゃん

クラスの人気者、佐藤さんはいつも友達の女子に囲まれている。

いわゆる陽キャグループだ。


明るい茶色の髪が背中まで伸びており、くっきりした二重のまぶた。

彼女はいつも笑顔が絶えず、愛想が良いことから人に好かれやすいと思う。


それに比べて僕はチビで、地味な見た目だ。

友達ゼロ人、コミュ障な僕に喋る相手もおらず、一人席に座って本を読むのが当たり前。

なので、陰キャの僕と佐藤さんは真反対の人だ。


そんな佐藤さんと、たまたま目が合う。


そして、僕と佐藤さんにはちょっとした関係がある。

昼休み、図書室で椅子に座り、本を読んでいる。


「なんの本読んでるの?」


佐藤さんがさりげなく隣に座る。


「え、あ……これは、獣医治療学辞典っていうので……」

「う~ん、難しそうでよく分かんないや」


佐藤さんは親身になって腕を組み、頭を悩ませている。


話は続かず、僕は再び本に視線を向ける。

とてもじゃないけど、佐藤さんの方は恥ずかしくて向けない。

話す時も顔を見るのがやっと。


すると、何かいいたげに佐藤さんが、僕の顔を覗き込むように、じっ~と見つめてくる。

尚更、恥ずかしくなり、本に集中する。


今度は顔を近付けてきた。

まじまじと見てくる。


続けて、これでもかと寄りかかって、肩をくっつけてくる。


しまいには無言のまま、お腹周りをこちょこちょしてきた。

くすぐったくて我慢できずに笑ってしまう。


「あっ、笑った~」


満足そうに微笑む佐藤さん。

思惑通りに笑ってしまった事が少し悔しく、笑うのを堪えて平然を装う。


すると、佐藤さんは覆い被さるように、本の上に顔を出して、不満げそうに口を開ける。


「ねえ、私とそれ、どっちが大事なの?」


ムスッとした態度で、目を細めている。

本気のようだ。


こうして佐藤さんは、普段から僕に構っちゃんをしてくる。

さしずめ、飼い主が作業するパソコンに猫が嫉妬するように、佐藤さんもまた本に嫉妬しているのだろう。


「そ、そ……れは……佐藤さんの方が」


コミュ障というのと、口に出して言うのが恥ずかしくて小さな声になってしまう。


「え~、聞こえない。もう一回、言ってよ」


そういう佐藤さんの顔は笑っている。

聞こえていてわざと言っているのだろう。


「それで、どうしてさっきは見てくれなかったの?」

「それは恥ずかしかったから……」

「どう恥ずかしいの?」


佐藤さんはからかいつつも、僕の返事を楽しみそうにして待っている。


「そ、それは……佐藤さんの事、意識しちゃうから……」

「んっ!」


佐藤さんは瞬時に反応して、照れくさそうに赤面する。

互いに恥ずかしくなり、もじもじしていると、


「もお、女の子をからかっちゃダメだよ」


佐藤さんがほくそ笑んで、こちょこちょをしてきた。

僕は抵抗虚しく、佐藤さんの気が済むまで、くすぐられ尽くされてしまった。


けど、その後に佐藤さんがポツリと呟く。


「でも、嬉しかった」


照れて頬を掻くように人差し指でなぞるしぐさも相まって、キュンとしてしまった。


その後、佐藤さんは僕の肩に寄りかかると、そのまま寝てしまった。


いつとニコニコしている雰囲気とはうって変わって、凛として落ち着いた感じ。

つい見惚れてしまい、気付けば授業が始まる十分前になっていた。


「さ、佐藤さん、起きて。そろそろ時間になるんだけど」


佐藤さんはハッとして、慌てて体を起こす。


「見た? 寝顔……」

「え、あ……う、うん」


佐藤さんの顔がみるみる赤くなる。

寝顔を見られたのが嫌だったのかな?

気にする僕とは裏腹に、佐藤さんは頬を赤く染めたまま、ムスッとした顔で見てくる。


「原田のも見して」

「えっ、何で!?」

「私の寝顔だけ見られたのはズルい」


駄々をこねるように言い返す佐藤さん。

続けて、佐藤さんは膝をポンポン叩く。

膝枕を誘っているみたいだ。


けど、佐藤さんに膝枕してもらうなんて、恥ずかしくてできない。


渋っていると、佐藤さんが「あっ」という顔をする。


「もしかして枕がないと寝られない派?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「なら、おいでよ。ほら」


佐藤さんがニコッと膝を叩く。


断るのも失礼はのではと、空気に流される形で佐藤さんの膝に頭を乗せる。

温かくて、柔らかい。


考えているだけで僕の心が持たない。

そう判断した僕は、母の顔をここぞとばかりに思い浮かべて、高揚する気持ちを押さえる。


そうこうしていると、そっと佐藤さんに頭を撫でられる。

何故だか、心が落ち着く。

こうして頭を撫でられたのは、小学生の頃以来だろう。


体の芯が温まり、眠気がやってきた時だった。

パシャっとシャッターの音が鳴る。

佐藤さんを見ると、僕にスマホを向けていた。

もしかして、撮られた?


佐藤さんは満足そうに微笑むと、スマホをポケットにしまった。


「佐藤さんは、いま……」

「えっ、なんのこと~?」


佐藤さんは笑って誤魔化した。

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