ブラッディライン 街の探偵

松藤 保麻(マツフジ ヤスマ)

第1話 静まりかえった明け方の街にいつもの朝陽が上がる!

 静かで真っ暗な状況は生物達も寝静まった時刻となり、この季節は微かに脳裏に残っていた。


樹々達が風に揺らいでいる音だけが『パサパサ・・・パサパサ・・・』とだけ軽やかな囁き声が流れていた。


暗闇に包まれた高速道路を1台の車がスピードを上げて走り去って行く。


珍しく対向車も先行車両もバックミラーにも後方から続く車も無いミッドナイトのハイウェイ!


そんな真夜中の闇の中にいつもは目にしていた点滅するレッドテールが見つからない!

仕事が終わり、家路や会社へ戻るラッシュ時刻を遥かに過ぎた静かな夜更け時!


周りの景色も昼間は緑に囲まれた様々な生物が生きている森林地帯を闇夜が真っ暗にして眠りに付かせる!


その場を抜けて次第に黒一色のブルーバードがこのパワーロードを包み込んでいる!

月明かりとオレンジ色の道路表示版以外には視線に入る明かりは無く、闇夜に白く路面を照らすのはヘッドライトの光だけ!


時々、道路ジョイント部を超える時に感じる振動とその時に響く低い振動音だけの無口で表情を隠した車体はスピードを上げ走り抜けていく!


乾いた路面を低空で滑るかの様に光に導かれ風の抵抗を受け進み続けるブラックシャドウ!


真夜中でも宝石の様に光輝くビルの立ち並ぶ眠らない都市部へと真っ赤なテールランプだけが次第に小さくなって吸い込まれて行く。

 

 

古き良き時代の記憶を懐かしそうに語る、先に逝かれた祖父や祖母そして多くの先輩方の話を思い出していた。


いずれも白黒で『カタカタカタカタ・・・』と映写機がまわる音を奏でながら古いフィルム画像が現れる。


アコーディオンの響き渡る高音の音色が中心となるムーディーな音楽が流れ出す。

そこに居る人達は隣に並ぶ家族やお仲間、そして共に働く人達と笑顔で談笑していたり、歩きながらでもにこやかに微笑みながら語らう映像が続いている。


そんなゆっくりと幸せを感じられる光景が昔は日常的にあった。


現在はと言うと頭デッカチの大人達が作り上げた、お気づきの通りお勉強ばかりして来た世間での苦労を知らない官僚やさまざまなトラブルを金と権力でもみ消して貰い無責任が常識な親の後を次いで政治家になった2世・3世議員が作り出した街や世間のルールが原因となり、夜は色鮮やかな風景が都会の彩りを作り上げている。


・・・がその反面、生活は苦しくなり、人と人の間に多くの壁を作ってしまい、人間関係を破りさり消しさって行った結果、心が壊れて行き、笑顔が消えて来ていた!


スマートフォンなどが全ての生活を賄う便利な時代、体の一部にはなって来ている。


もしも通信障害や故障やそれを無くした時、何処かに忘れた場合には現代人は身動きが出来なくなりパニック状態となってしまう。


知らず知らずの内に便利さだけを追求して来ている結果、人々は周りの声や音を感じなくなっている。 


それが分かるのが仲間と居ながらもイヤホンで音楽などを聞いている若者達!


スマホを覗き込みながら人とぶつかりそうになりながら歩いている人波!


その状況は自転車走行中にも自動車運転中にも危険極まりなく「ハッ!」と心臓の上部から鋭く細い杭で貫かれた感覚を体が!脳が!記憶している。


街中だけではなく隣にどんな人が住んでいるのか!

生活しているのか!

周りにいる人を気にもせずに!

どんな人が居るのかも気にせず!

見もせず!

興味もなく!

関わりを持たない!持ちたくない!

それが普通な世の中、時代になってしまっている。


だから、表沙汰にはなっていない様々な問題が聞こえて来ない!

見えて来ない!

救いの声も発せない!

相談する相手もいない!だから聞こえずに!分からない!

助けられない!

そして最後には抱えきれなくなったあげくに爆発して、事件や事故が起こっている。


毎日の様にニュースで悲惨で悲しい映像となり流されている。


そしてネットで噂が広まる怪事件なども数えきれなくなっていた。 


 

ザワザワと人のすれ違う音や話し声が無くなり、通勤ラッシュから解放された人達の流れが終わって暫く時間が経過した夜明け前の時。


街並みには早朝、会社前で社員が出勤前に掃除を始める業者の人達が少し目立ち始める。

時間の経過と共に溢れ出すかの様に足音が聞こえ出し、いつも通りの人の流れが現れ始める。 


あらためて東京の都心らしさを感じられる時間になっていた。


何も起こらない平和な街並みが一転し、車が突然と周りの静止も聞かずに唸りをあげて車道から飛び出して歩道を歩く人達をなぎ倒して行く。


そして簡単に生命を奪って行く。


そんな事がこの池袋でも多発し出した。


ニュースにも上げられる事のない合法ドラッグ!違法ドラッグ!真夜中でも眠らない街が、様々な事件や犯罪に染められている。


若者達もその香りに誘われて、狂わされ、脱け出せなくなっている。


今日も知らないところで助けを叫ぶ声が騒がしい街のざわめきにかき消されていた。



2017年3月3日              


 身体の痛みと頭痛とで目を覚まし 、首筋を掻き毟りながら立ち上がった。


カーテンの隙間から街を覗き込む。


一瞬触れたガラス窓も結露で濡れていてとても冷たかった。


明け方のダークブルーに染められたビル街、まだ肌寒い空気が街を包んでいる4時過ぎ。

そんな静まり還った道路を響き渡る真っ赤なサイレン!殺気だち駆け抜ける車両が2台続いた。 


スクランブル交差点もまだ歩く人がいない淋しい歩行者天国の様だった。


そして振り返るとベッドにはシーツに包まれ横たわる細身の女性がいた。


なぜ女性か分かるかと言えば黒く長い髪がそこから微かに流れていた。


あともう一つ言える事はその隣に居たのが健康体な男だった事だった。


右の首筋を肩にかけて「ツゥーッ。」と伝わる感覚に自然と左手を伸ばした。


液体を触った感覚だった。


人差指と中指が真っ黒に見えた。


動揺した動きのまま、無意識に壁のスイッチを右手で着け洗面所へ駆け込む。


鏡に写って居たのは傷だらけの身体と首筋から流れ落ちる真っ赤な血液。


身体の傷よりも何処から出ているのかを確かめたくてタオルで首筋を拭き取り鏡に近づいてみると切れたものでは無くまた「ジワッ」と5mm程度の穴が2つ並んでいた。


シャワーで固まった血を流し取り、バスタオルを腰に巻き、バスルームを出ると枕に左半分顔を埋めて眠っている身体のラインと髪の艶で若い女性だと思った。


少し見えていた顔から首筋までの姿だけだがとても綺麗だった。


心と目を奪われながらベッドにもどると血痕が残っているかを確認しようと近づいて行く。


そこには甘い香りが誘いかけて来た。


ベッドのシーツには確かに自分が眠っていた形跡がシーツのシワなどから伺える。


「いったい誰だ!」では無く、昨夜の記憶を巡らせてみた。


久しぶりに古い仲間から誘われ、待ち合わせた7時を過ぎて店に入る。


「お一人様ですか?」と女性店員に声を掛けられた。


そこからの記憶が曖昧になり、忘れかけてたイメージが繰り返し、目の前を通り越し、また繰り返された。


 子供の頃、山や森の中で楽しそうに走り回る自分とその他に2人の子供たちの姿。

パンツ一枚で縁側に座りスイカを頬張りはしゃいでいる姿。


少し成長した3人が大きな屋敷の庭でテーブルに並び宿題や勉強している姿。


夕日が綺麗な海を見つめる3人の後ろ姿。

そして誰かとの別れを見送る2人に手を振る姿が映っていた。


・・途中からの記憶が消えている。


酔い潰れたのか!眠ってしまったのかで、不思議に思っている事があった。


どんなにお酒を飲んでも眠ってしまう事はあるが酔った勢いでの行動が記憶に無い事などは無かった。


今まで1回もだ!・・・。


「そうだ!桜井だ!」昨夜の誘いはあいつだ!やはり気が動転している。


彼女を起こさない様に静かに、ゆっくりとベッドから後ずさりする様におりる。


細い足首がシーツからはだけて見えた。


携帯電話を探す。


「上着、上着は何処だ!」しばらく探すと着メロが入口の方で鳴り出した。


「クロークの中か!」左ポケットのスマホを取り出すと「桜井 健」とでていた。

「ハイ!俺だ!」


「俺だ!じゃねぇだろ!・・・お前!昨日から何回も電話してたんだぞ!トイレにでも行ったんだろうと思って待ってれば帰って来ないで!何処に行ったんだよ!」


「すまない。・・・・俺もよく分からないんだ。だから今お前に電話を掛け様としたところで、ちょうど電話がなったんだ!」


「どうしたんだ!お前!」


「それを教えてれ!・・何か分からないか? 」


「はぁ〜!あの後、トイレや他の席で酔い潰れて寝てるんじゃないかとしばらく探したよ。・・・結局何処にも居ないし、携帯は出ない!店の人にも聞いてみたし、探してもくれた。でも見つからなかった。」


「すまなかったな!」


「そうだ!1人だけ若い店員がもしかしたらと変な事言っている奴がいたな。・・・」


「教えてくれ!」


「何か、最近入ったアルバイトの2人がいて。男女1名づつでマキちゃんだかユキちゃんだかの方が男の人に何か言われていたんで帰りに聞いたんですよ。

 

そうしたら、『昔の知り合いに似ているとしつこくされただけです。』と言ってもう1人と帰って行きました。」って言ってたかな?」


「もしかしてひつこくしてたのって、お前なのか?」


頭をゆっくりと上げながら目を塞ぎ記憶の回路を巡らせていると何か聞こえてくる。


「もうあの頃とは違う!二度と戻れないよ!忘れて下さい!さようなら・・・!」の声と共にトイレの前で俺は誰かと話している。


と次の瞬間、目の前が真っ暗になった。


「もしもし・・・お前聞いてんのかよ!おーい!」


「ごめん !今回の借りはそのうちに返すから!またな。」と電話を切り目の前のテーブルに置いた。


「ピピピピ!ピピピピ!ピピビ!・・・」ベッドに近づきさっきの傷と首筋から流れた血がついていないか戻ってみた。


枕周辺には血痕は見当たらない。


そして隣で眠っている女の顔を覗き込んだ。下唇の右下に小さなホクロがあった。


枕側の口元が赤い。


「ピピピビ!ピピピピ!」と携帯が鳴ってまた桜井からの電話だろうと、ほっておいた。


「よく眠っているな!」と見つめていた。


「えっ!うぅー!まじか!」なぜかその顔や体から正気!気配を感じなかった。


寝息が無い。シーツの上からも体温を感じない。


身体を揺さぶり細い肩を持ち上げ抱きかかえた。


血の気が引いた青白い顔、ハッキリとした記憶には無いがとても綺麗な顔をしていた。


状況が少しづつ理解出来てきたが、それと同時に急に震えが止まらなくなって来た。


細い手首を握り脈を取ったが反応は無かった。


テーブルの上に口を開いたままの彼女のバックがある。


震えを抑え抱きかかえた腕をそっと下ろし元の様に寝かせた後、もう一度綺麗なその顔を見届けた。


ズボンを履きベルトを締めるといつもの通りに進めた。


バックの中には携帯電話と手帳、真っ黒なサングラスと折りたたんだ帽子、そしてカルチェの財布が入っていた。


携帯はロックがかかっていて見る事が出来ない。


手帳を取り出すと隙間から足元に何かが落ちた。


拾い上げて見ると古い写真に何処かで見かけた事がある景色と家族3人が写っていた。


真ん中の女の子がまだ幼い頃の彼女なんだろう。


彼女が誰なのかを探る手掛かりになる物!財布の中に身分証がある筈だ!免許証や保険証は見当たらない。


銀行のキャッシュカードがある。名前を見ると「マエダ アカネ」とあった。


その名前にも何処か懐かしさを感じた。


このままだと間違い無く「殺害犯」扱いされる。自分の居た痕跡を消す為の出来る事を全て行い顔がばれない様に彼女の帽子とサングラスを拝借した。


後は携帯電話と手帳も預かる事にした。


部屋を出る前にクロークに整頓されて綺麗に掛かっている洋服 ・コートも確認した。


コートのポケットに定期ケースなのかカードケースなのか分からないが入っていた。


室内で電話がなった。


フロントからの内線コールだ!指先に触れた紙くずの様な物も一緒に掴み取りジャケットの右ポケットに入れ部屋を出た。


廊下を歩きエレベーターホールに着くと下から上がって来るエレベーターが1台 。


ホールの横にベッドメーキング中の部屋があった。


エレベーターからは数名のスーツ姿の男達が早足で歩き出した。


「ガチャン!」


「すいません!忘れ物したみたいで。」


女性の声で「ト・ウ・ゾ」


しめた!アジア系の外国人だ!サイフから1,000円札を1枚渡し「サンキュー!プリーズ!チップ!」と手渡すと

「ア・リ・カ ・トウ・コ・サ・イ・マス」と言う彼女に笑顔で口元に人差し指1本たて「シィー!」分かった様だ。


そして、ドアに手をかけた。


「ピンポンピンポン」


「ドンドンドン!ドンドンドン!ピンポンピンポン」


1人がエレベーターの方へ戻り走り出した。エレベーターホールに着くと何かを予感し考え直した顔で振り返り向いのベッドメーキング中の部屋を見て歩き出した。


 テレビ中継「警察官に頭からコートを掛けられた男がホテルから出て来ました。」


「果たしてこの男が怪盗ゾロなのでしょうか?」


「連続女性殺害の容疑で逮捕され連行されます。」


「現在、年齢や名前は明かされていません。ホテル側からの情報で緊急逮捕に至った模様です。」


「この事件は昨年10月から都内で5件発生しています薬物による女性殺害事件。」


「殺害事件が起きたのが昨年の10月10日、11月11日 、12月12日、今年1月1日、2月2日 、今日が3月3日と計画的に実行しているかの様にゾロ目に揃えられた事と誰にも見られず証拠も残さずに命を盗む事から噂となりその犯人に「怪盗ゾロ」などと言う名前がつけられてきました。」


「何なんだ!この人集りは!」 パトカーに護送車。


そしてこんなに多くのマスコミが集まっている。


「朝早くからご苦労さんな事です。政治家の汚職?またタレントかスポーツ選手の大麻?薬物使用者の逮捕なのか?」


「ガチャッ!」ドアが開いた音がして話す声がした。


「誰か来なかったか?」


「ワ・カ・リ ・マ・セ・ン!」

「ワ・タ・シ・ニ・ホ・ン・ゴ ・ス・コ・シ・ダ・ケ 」

「ス・コ・シ・ダ・ケ」


「分かった!分かった!」


「ガチャガチャッ」ドアに手が掛かった。


その時「すいません。寝坊しちゃって!まだチェックアウトまで時間ありますよね!」とシャンプーしながら顔中泡だらけで髭を剃っている男が顔を出した。


その隙間から黒服の男にもシャワーのお湯と湯気が飛び散っていた 。


「分かりました!分かりましたから!もう閉めて結構です。」と言うとしばらく部屋の中を探り、出て行ったみたいだ。


またドアが「トントン」となった。


ドアの隙間から手が出て来た。


「どうもありがとうございました。」とチャッカリしている。


追加で1,000円を渡すと


「毎度あり!」ときた。


その後はドライヤーでシッカリと髪の毛を乾かして、正面口から堂々と普通に出て行った。


少し歩いたらさっきの大捕物。正面口にカメラがあったから映ってはいるだろうがメイドから3,000円で買ったスカートとシャツ。


後はさっきの帽子とサングラス。全部で5,000円も掛かった。


しっかし!「あの黒服2人は警視庁の人間。


それもあんなに早く駆けつけるところを見るとあの娘が何かで張り付かれていた。


多分、間違いなく公安の人間だ!」「だとすると麻薬か!政治家がらみの特殊案件か!テロリスト!」


何れにしても現時点では誰がどう考えても犯人は俺だ!無実の罪で捕まるのはまっぴらだ!だから何が起こっているかを探って見る事にした。


「何だかすーすーするな!」

さっきからジロジロ見られてる気はしていた。ガラスに映る自分の姿を見ても不気味に見えた。


「おー!恥かしい!さっさと着替えよー!」と駅のトイレへ男?女?少し考え、駆け込んだ。


 それが1ヶ月たった今でも何もなかったかの様に事件として公表されない。


警察官に姿を変えてあのホテルに聞き込みに行って見ても3月2日から3日 に掛けて起きた事件の事は明らかになっていなかった。


居酒屋の店員2人もあの日以来出勤していない。


その2人も偽名を使い他人に成りすまし働いていた様であった 。


履歴書の顔写真で家出人捜索者や行方不明者に該当者が居ないかを探って見た。



2017年5月3日


 後ろから声を掛けられ振り向くとあの時のベッドメイキングのメイドであった。


「コンニチワ」・・・


喫茶店でコーヒーを飲みながら「話ってなんですか?」


「ミマシタ!ワタシ!ミマシタ!」

「アナタヲサガシテイマシタ!」


「それで、一体何を見たんですか?」


「・・・・・・。」急に黙ったまま。

おもむろに財布を出すと目を見開き、1,000円札をテーブルに1枚置きスーッと前に出した。


「奥の部屋から男2人が女を抱えて出て来た。」


「それで!その後は?」


「・・・・・・!。」


またか、また財布を出し1枚置きスーッと前に出す。


「女が片方の男に話かけていた。」


「・・・・・・。」


「分かった!分かった!」財布を前にポンッと放り出した。

「全部やるよ!」


「ドアを少しだけ開けていたから聞こえたんですよ。」

「吉野、ポリプが何とかメデウサとか!」「その後、男のどちらかがアカネさま!と声を掛けていた。」


「・・・?」


「その後は?」 


「下に待たせてあった黒い大きな車に乗せられて出て行ったところまで。ナンバーは覚えてないけど山梨と書いてあった。」


「何か繋がって来たな! 」


「そうそう!」


町野は首をひねりながら手を女の口の前に出して話を止めた。


「ん・・・」


「ちょっと待て!さっきから聞いてるけどお前日本語ペラペラじゃないか?」


口を押さえ、人差し指1本口の前に立て「しぃーっ!」

「毎度あり!」


財布を開けると1,000円札が1枚だけ入っていた。


目を見開きこちらを睨んでいる 。


「古くなったから財布もあげるわ!」


「嘘つき!警察のくせに!嘘つきはドロボーになると言うでしょ!」


「やっぱりお前の日本語変だな!それを言うならドロボーの始まり。だから!」

「それに元だから!元!」


「何言ってるの!この間、制服着てホテルに来てたじゃない!」 


「あんなの今頃はどこにでも売ってるじゃないか。元警官してた頃があったけど。」


「ポリプとメデウサ?」


「また何か分かったらここへ連絡してくれ!」と名刺の裏に電話番号とアルファベットでMACHINOと書いた物を渡した。


「あんたの名前は?」


「SOPHIAソフィア」


「じゃあ、またなソフィア!」と右手の人差し指と中指を立て額に斜めにあて敬礼の様に挨拶すると先に席を立ち「コレ払っておいてな!」と出て行った。


ソフィアが伝票を持ちレジで会計をしようとすると


「お客さま!あの人いつも○○○カードでお支払いしてますよ!さっきもいつものカード渡してあるからと言われてましたよ。」


財布を開けて見ると1枚だけカードが入っていた。


それを渡すと「ブレンドコーヒー2つで800円になります。」「レシートです。」と渡された物を見ると残金10,000円とあった。


「あのヤロー!」とソフィアはニヤリと笑みを浮かべた。



 山々に囲まれ人里離れ突如として現れる街?町?村?余り開けてはいない。

その地方に古くからある旧家についてある怪しげな情報が警察庁に広がっていた。

地方の土地成金が宗教にはまり全財産をつぎ込んでしまった。


と言う話は珍しくはないが若者達がそのお屋敷内で働き、この街で姿を消し、家族の元に哀れな屍シカバネの姿となり帰って来る被害者、10代の娘達が発見される事件が連続して起きている。 


遺体として発見されたのは関東を中心とする繁華街付近の宿泊施設、いわゆるラブホテルという場所であった。


監察官の検視結果から同様のドラッグ反応が確認された。


周辺で行方不明者は益々増えている。


その因果関係を公安が探っているしい。


それとは別に民間の探偵に、侵入調査の依頼を駆けたらしい。


この手の話には必ず裏に暴力団や中国系のマフィアが絡んでいて、そこに入り込むだけで命掛けとなり、中途半端な考えが身を滅ぼす。


それ程の危険極まりない潜入捜索となる ・・・・・

この事を今井にだけは報告した。

「何て巡り合わせだ!あれから15年!お前が彼女と子供と家族を作り、幸せに生活を始めてからこの話は俺一人で墓場まで持って行くつもりだった。

娘も大きくなり、あの人も亡くなってしまった今・・・

・・・ついにパンドラの箱、その鍵を開ける時が来たのか?」 

 


2017年5月4日

 

 僕は学校をサボリいつも池袋をフラフラしながらオヤジ達を引っ掛け小銭を稼いで遊んでいた。


特に仲間は作らず1人夜中まで池袋の街を流していた。


そこには世間の裏側を垣間見る事が出来、何回も危ない橋を渡ってきた。


その日は昼間っから酒に酔い公園近くで座りこんでいるおっさんに声をかけて見た。


「おじさん。こんなとこにいると車が通るから危ないよ。


「公園にベンチがあるからそっちで寝た方がいいよ。」


「お兄ちゃん!ありがとう、う、う、おぇ〜。」


「あぶねぇ!ゲロかけんなよ。」と肩を貸してベンチに向かう時に内ポケットの財布を抜いてと ・・・。


「よいしょっと!おじさんダメだよ!ちゃんと働かないと。」


「ありがとよ!ボウズ!」と手を掴み

「千円やるから後の財布はかえせ!」


振り切ろうとするがその手は力強く、逆に引き寄せられた。


「いいか!よく聞け!周りは警官だらけだ。逃げられないぞ!」

「それよりこんな時間に何やってんだ!お前この辺の情報に詳しいのか?」


「あんたデカか?」


「デカ!デカイ声じゃ言えないが俺はマル暴でも公安でも無い。」


「じゃあ!何なんだてめぇーは!」


「歳上に向かって何て口を聞きやがるんだ!このクソガキが!」

「俺はなぁー!町野だ!」

「ただの探偵だ!」


「探偵ぇ!」


慌てて小声で「声がでかい!」

「事件に巻き込まれる前にさっさと分かったら消えろ!」と財布を受け取り肩を押し離した。


少し長めの髪をかき上げながら「何があったんだよ!教えろよ!」


町野は少年の口を手の平で抑えて「うるせー奴だな!まずは座れ!」とその少年をベンチに座らせた。


するとポケットから取り出した写真をスポーツ新聞に包んで見せた。


「お前もこの街に長いのであれば知ってる事を教えろ!」


「わかったよ。」

「あれ!このコ・・・確か「キラリ」のリサだ!多分、間違いない。 

そういえば最近見ないな!」


「その店は何処にある。」


「北口の方だから!引っ張るなよ!」と制服の紺色ブレザーの肩をはじいた。


「じゃあこのコは分かるか?」


「ああ!同じ店の涼子だよ。」


町野は足元からゆっくりとその少年を見回して「お前高校生だろ!よくそんな店に行ける金があるな!」


「店には行ってないよ。ただの友達!」

「それに俺はこう見えても・・・。」


「分かった分かった大学生か!それとも予備校生か!」


「違うよ!中学生。今3年だよ!」


「中坊!お前な!何でこんなトコうろついてるんだ!」


「いいだろ!俺の勝手だろ!」


「まあいい。もう1人このコはどうだ!」「見た事あるか!」


「知らない。」といきなり目を背けた。


「よく見てくれ!」


「知らないよ!そんな女!」写真を近づける。「もうイイだろ!」


「このガキ、何か隠したな!急に苛立った様子に慌てていやがる!」

「そうか!」立ち上がり行きかける少年に向い話しかけた。

「このコこの辺で夜な夜な客引きしてるって情報があるんだが!」


急に振り返り、顔色を変えて言った。


「違うよ!」


「声がデカイ!」とまた口を手の平で「しぃー!」と塞ぎ「周りは公安のデカ達だらけって言ったろ!」とベンチに座り直し、声を静めて言った。


「そんな事する訳がないだろ!」


引っかかりやがった!もう一言で落ちる!


「でもな何度か同じ容疑でパクられてるんだ。」


バッと立ち上がるのを押さえ口元に人差し指1本をたて、町野は少年を座らせた 。


「パクられるって姉ちゃんはまだ16(歳)だからな!」と言った後、少年は口を手で塞いだ。


「お前の姉ちゃんなのか!」


「悪かった!さっきのはでまかせだ!」


「チェッ!」とそっぽを向いた。


「お前もその姉ちゃんを探してるのか?」


「まあ!」


「そうか!」

「だったら、あんたの持っている情報と俺の持っている情報を交換しないか?」

「ここでは無理だから後でここに来い!」と町野は名刺に場所を書いて渡した。

「1時間後だ。後を付けられるから撒いて来い!」

「無理だったらそこまでだ!」


「了解。」と少年は親指を立てた 。


「分かったら60分後だ!俺にはまだやる事があるから、先に行け!」と言うと町野はしばらく公園周辺でフラフラと酔っ払いのサラリーマンを装い、公安に話しかけた。


うっとうしがられながらその場から抜け出した。


また公園には捜査に混乱を招く様な仕掛けを及ぼし時間稼ぎを幾つか置いて来た。


「ソフィアの情報はなかなかあてになる。

もう一つ確かめる為にあの坊主におトリになってもらおう!」 


 集合場所は池袋の西口から歩いて3分ぐらいのところに『純喫茶 蔵王』という喫茶店。


「どこの事だよ!オッさん」


【池袋は西武デパートがある東口 、東武デパートがある西口。この蔵王だが、俺が17〜20歳の頃に週1位で良く行っていた喫茶店だった。

小さなビルの地下に薄暗く怪しい店内。だがメニューはコーヒーとか紅茶とかごく普通。値段はコーヒー1杯400円ぐらいだった。

その当時、ルノアールやコロラドその後に珈琲館などが出来てモーニングのトースト・ゆで卵・サラダとコーヒー付きで300円、長居した事はあったが今はドトールや外資系が増えた。

またコンビニなどセルフサービスの店に比べると高いが当時はそういう店はなく、これが標準的値段。

普通じゃないのは席のテーブルにお冷と皿とゆで卵が置かれる。

オーダーすると、店員が店内を巡り「トーストいかがですか?」と尋ねてくる。

1人当たり2枚(1枚の半分)、皿には結構厚みがあるトーストを置いていく。

4枚切り位の厚さにバターが塗ってありなかなかうまい。これがこの店、最大の売りで 、蔵王池袋店はトースト食べ放題(15~20分に1回位でトーストを配る)で店員が回ってくる。

客が多いと、最後の方には無くなる為、僕達はなるべく厨房から近い席を狙い座る。

腹いっぱいトーストを食べ最後はなぜか昆布茶でしめる。

もう一つのたのしみが店内のテレビには映画がかかっていたり、夏場は高校野球がやっていたりした。

雑誌や漫画も豊富にあった。

その上24時間営業で、学生のころは終電を逃すと朝までここにいた。

初めて蔵王に行ったのは高校生の時で上野や渋谷の次に御茶ノ水と池袋が授業終わりの遊び場だった。

その後、浪人中や大学や専門学校などバラバラに進学して、行かなくなってしまった。

最近は漫画喫茶などが増え、その影響もあり2004年ごろ閉店したらしいと最近知った。

町野の行きつけの一つだったらしい。

 

集合場所に店はなく騙されたと思った時に背中を叩かれた。


「すいません。」と女性の声に振り返ると女子大生風の女の人が立っていて香水の良い香りがした。


「これ忘れ物ですか?」と言って名刺とハンバーガーショップの紙袋を渡された。


良くみるとそのハンバーガーショップの店員さんのユニホームを着ていた。


先程電話を頂いたと言う事から町野の仕業だと僕は直ぐに気付いた。


今、この状況をどこからか眺めているんだろう。


「わざわざすいません。ありがとうございました。」と僕なりの精一杯の御礼で頭を下げて少し道を進んだ。


少し先のビルに入り袋を開けると紙ナフキンと「ハンバーガ1個 、ポテトフライ1個」お買上げのレシートが入っていた。


それにしては重いなと思った瞬間携帯の着信音がなった。


とっさにポケットを探り自分の携帯を握った。


僕の携帯は着メロがback number『光の街』だからこの音は 袋の中だ!袋の中の紙ナフキンの下にガラケイがあった 。


「もしもし!」と電話に出ると


「中坊か!待ちくたびれてトイレ行こうかと思ったよ。」


「何だよ、これ!」


「見張られている!聞かれている!だから、黙って聞け!そしてリズムをとって踊れ!」


「分かったら手を上げて1回フィンガースナップ。」


「何、それ!」


「知らないのかよ!指パッチん!ポール牧。」


「はぁ?」


「じゃあ、ダンディー坂野!黄色いスーツの!」


「知らないよ!」


「じぁ、マイケルジャクソン」


「親指と中指をコスル!パッチン!」


「クリッカー?」


「そう呼ぶのか?今は!そう呼ぶのか?今は!」

「まあ、いい!分かったか?」


「パッチン!」


「池袋駅からJR山の手線で次の大塚駅で降りる。」


「パッチン!」


「駅前の交番に入り、ストーカーに付けられていると伝える。」


「パッチン!」


「そして親と待合わせしている大塚駅まで送って欲しいとお巡りさんに頼む。」


「パッチン!」


「改札を入ったら急いでトイレに駆け込み、個室に入り鍵は閉めず10分待機しろ!」


「パッチン!」


「後はマナーモードにして待機しろ!」


「パッチン!」


僕は町野に言われる通りに池袋からJR山の手線で大塚に向かった。


案の定それらしい人が後ろを追って来ていろ気付かれない様に走らず、逃げずにわざと迷った振りをして何人いるのかを探った。


そして知らない娘に話し掛け、写メを撮り後方の奴らを確認した。 


電車に乗るとついて来れた奴は2人だと思う。


大塚駅を降りると言われた通りの交番に駆け込みお巡りさんに事情を話し駅まで送ってもらう事になった。


あまり覚えていないが家族の事を親身に聞かれた様な気がした。


改札口でペコンと頭を下げて小走りで階段に向かった。 


後を追う公安が一定の距離を置き走って改札に入った。


電車が来たので走ってホームに向かうが少年は居ない。


一旦電車に乗りこむ。ドアが閉まる直前に飛び降りて来た。


そしてホームから改札に向かう階段を凄い勢いで降りて行く。


トイレに向かう。 


入り口で止まり息を整えネクタイを緩めた。中を除き込み人が居ない事を確認し、個室の鍵が全て青になっていて、鍵がかかっていない事を確認すると戻って入口の鏡を見ながら髪型を整え、手を洗いトイレを出掛けた。


その時着メロが鳴った。


慌てて止めたが気付かれた。


バタバタと走り駆け込んで来て、4つある内の手前から「バタン!・・・バタン!」と来た。


後一つとなり震えながらドアを押さえた。


「すいません。この辺に高校生くらいの子いませんでしたか?」


何処かで聞いた事のある声だ!


「どうしたんですか?お巡りさん!」


「さっき落し物をしたと交番に来て、変な事言ってたんですよ。ストーカーに追われているって!細身で背丈は175cmくらい、黒っぽい背広にグレーのネクタイ。」


じろじろとわざと眺めると


「私を疑っているんですか?」とその男が苛立ち始めた。


「失礼しました。その子に似た捜索願いが見つかったので探しているんですよ。」


「この辺で見かけませんでしたか?」


「知らないよ!そんな特徴も無い少年の事なんか分からないよ!」


「そうですか?でも確かにあなたは今「少年」と言いました。」


「私は一度として少年とは言っていない!だからあなたはよく知っている筈です。」


「署までご同行願います。」


「何を言うんですか?根も葉もない事を!」


「バカバカしい!」


「ガタン!」1番奥のドアが開いた。


「お巡りさん!そいつが僕の事を追いかけて付きまとうストーカーだよ!」と僕が出て行くと胸に手を入れ後ずさりし、トイレを出て走り去って行った。 


警官の姿をした町野もわざとらしく「待てー!」と後を追う振りをした。


入口付近に置いてあった紙袋の中にもう一つ警官の制服が入っていた 。


「それに着替えろ!」


「おっさん、ちゃんとクリーニング出してんだろうな!」


「こんな時に贅沢言うな!あと、おっさんて言うな!こう見えても俺は42(歳)だからな!」ズボンの片方に足を突っ込みながら


「十分おっさんだよ!町野さん!」


「ベルト無いのかよ!ブカブカ過ぎてこれじゃあ、腰パンになっちゃうよ!シャツも上着も袖がなが!」


町野が自分のベルトを外そうとすると

「自分の使うから!」と内側に履いたままのズボンからベルトを抜いて、制服のズボンにベルトを通した。


「直ぐに着替えられるから少しぐらい我慢しろ!」ネクタイを閉め、帽子をかぶり、革靴に履き変え、スニーカーと紺のブレザーを紙袋にしまった。


「これから急いで改札を出る!後をついて来い!それだけだ!」「行くぞ!」と言うとトイレを出ると走り出した。


改札手前で駅員に向かい敬礼し走り抜けた。


僕もマネをして走り抜けた。


 駅を出ると車が待っていた。


「ボウズ 、反対側から後ろに乗れ!」


真っ黒なゴツイ車がタイヤを擦りながら走り抜けた。


町野は警帽を脱ぎ頭を掻きながら「ピー!サンキューな!」と言うと左指でピースサインだけ。


運転席には黒い皮のコートを着て黒いサングラスを掛けた細身の男がハンドルを握っていた。


なぜだか女性の付ける香水の香りが漂っていた。


「そしたら、いつものブルーのところ分かるよな!ぴぃー!」 

「それとな、ぴぃー!この坊主、こう見えて中坊なんだけどな!」無視を続けられた。「熱っつい!ぴぃー!少しクーラー付けてくれ!」と言って制服を脱ぎ着替え出した。


「ジジィ!テメーさっきから、ぴぃー!ぴぃー!ぴぃー!ぴぃー!うるセーんだよ!」


「あ・・・!女だ!」


「それとな!人が黙って我慢してりゃー調子こきやがって!何分待ったと思ってんだ!」「いつも、いつもおせぇーんだよ!」

「それといつになったら後ろのバンパー直すんだよ!恥かしいだろ!」


「いいんだよ!」と言うと町野は「ボウズも早く着替えろ!」と紙袋から服を取り渡された。 


その後は耳を穿りながら外を眺めぴぃーと呼ばれている女が怒っているのを何時もの事の様に聞く耳をそらしていた。


その姿をバックミラー後しに、ぴぃーも見ていたのだろう。


あたるところが無かったのか「うぅーっ!」と奥歯を噛み締めたのが後部座席から痩せた首元と肩の揺れで想像出来た。


その瞬間「プップゥー!」とハンドルの中心部を叩きクラクションを鳴らした 。


それからしばらく車内は静まりかえっていた。


いつの間にか高速道路の下を走っていた。山手通りと通り沿いに看板が出ていた。


町野は目を閉じているが眠っているのかどうかは分からない。


座席の間から顔を覗かせフロントガラスから見える風景で向かっている方向を確認しようとした。


「何!」とバックミラーに映ったぴぃーがサングラス越しに僕を睨んだ様に思えた。


「何でもない!」というと噛みつかれそうだったので目を逸らした。


「はぁ〜!」 

「この坊主もタメ口か〜!なんでもありません。だろ!」


環七を右折し、しばらく走り北区に入った。「今日は道が空いてるな!」と眠っていたと思っていたオッさんが話し出した。


「ボウズ!お前の家はどこなんだ!」

「そうだ、名前も聞いてなかったな!どうせありきたりの山田か田中あたりだろ!」

「俺もいつまでもオヤジ呼ばわりは嫌だから名乗っておく。」

「町野 公平、男、42歳独身、職業は探偵、娘1人」


「ハァーイ!」と前から手を上げる。

「娘、桃子、女の子、18歳、独身、家事手伝い、先月運転免許取得、青葉マーク。完璧!」

「ジジイは抜けてるよ。」


「何が!」と前のめりになり運転席側のシートの方に手を付いた。


「裏切者、バツ×1、変態、ウンコ漏らし、スケベ、貧乏人 、・・・人殺し!」最後の言葉で車内の空気が凍りつき、息が出来なくなって終わった。


少しして僕は話し出した 。


「シンドウヨウヘイ、男、15歳、地元は川口!中学2年生!今年3年で1年ダブり!以上。」


「何が以上だ!男!まだ童貞!だろ!」と町野が冷やかすと


「うるせーな!」


「そうだよ。このスケベオヤジ!」


「ピー!止まれ!」と町野が大声を出した。


「怒ったのかよ!冗談だよ!」


「冗談じゃない。車を止めろ!」左側へ車が止まる。

「2人とも絶対に後ろを振り返るな!真後ろと1台挟んだ後ろの車2台!今、横を通り過ぎた黒のクラウンだ。さっきからずっとついて来ている。」


僕が無意識に振り返ろうとした瞬間。


「見るな!って言っただろ!洋平!」

「やっぱり、この事件思ったより根が深い。お前達も巻き込んでしまった。」


「俺はネーちゃんを探して、自分から飛び込んだんだから関係ない。」


「いいか!ピー!ここから15分〜20分で西新井警察署がある。

そこへ飛び込む。

お前は走って入り口の交通課で「あおられて車をぶつけられ、まだ追ってくる!助けて〜!」ととにかく叫べ!そこに刑事課の山元が現れるから、奴から離れるな!分かったな!」


少しビビったのか、さっきまで勇ましかったピーも「分かった。」と答えた。


「洋平は俺について来い。遅れるな!ピー!後でブルーの店に集合だ!念の為に、ブルーの店の一つ手前の駅周辺のパーキングに車は停めて来い。」


「面倒くせーな!」


また前のめりに運転席に近づき耳元で言った。


「いーから、言う事を聞け。いいな!」携帯電話を取り出し、話し出した。


「町野さん。久しぶりです。元気ですか?」


「ああ!山元!また頼みがある。」


「やだなー!あの一件も、あの後の後片付けで店からの請求や訴えを取り下げるのに一苦労だったんですよ!課長にも大目玉喰らわされ始末書ですよ。」


「それは悪かった。迷惑掛けたな!」


「冗談ですよ〜!」


「今井とは最近何回か会ったよ!あいつにも迷惑ばかり掛けている。」


「課長はシコシコ目立たず地味に出世してますよ。それでまた先輩、今度は何があったんですか。」


「話せば長くなる。これから娘がそっちに逃げ込む。」


「内(西警)にですか桃子ちゃんでしたっけ?」


「良く聞け!警察署だ!どうもチンピラに車で追われてるらしい。後は頼んだぞ!じゃあな!」


「先輩、先輩・・・」


「ピー!車出せ!そしてその前を走る都営バスの前を制限速度で走れ!」


「何でそんな面どーくせー事するんだよ!」


「いいからいう通りにしろ!」


「バス停はどうするんだよ!」


「バスが止まったらその前に停車して待て!そして動き出したらまた進め!」


「何がしたいんだよ!まったく!」 


尾行していた車2台は後ろと前で蛇行運転を繰り返し始めた。


1台は後方からの車に煽られ仕方なく左折して行った。


信号に差し掛かって後ろを走るバスをバックミラー越しに見ていたピーが町野を呼んだ!


「ジジィ!どうする。」


後ろを振り返り確認しつつ電話で誰かと話をしている「・・・あとは任せた!周りは住宅街だから余り騒がしくするなよ!」と電話を切る。


「・・・この先にガソリンスタンドがある。まずそこへ入れ!中を突っ切ってまた右折してまた環七に出て予定通りに進め!」


「了解!」


信号が青に変わり交差点を直進した。

指示通りスタンドに入り店員の誘導を無視して通り抜け、少し強引気味に右折し、タイミングよく信号が変わり環七を左折した。


さすがに1台目はついて来れずに途中の他の車に阻まれ店員に囲まれ注意を受けている。もう1台はスタンドに入りかけて事に気付き強引にバックして環七に戻ったが信号が変わり前に進めなかった。


「ピー!もうすぐだから分るよな!西警!西新井警察だよ!」


「知らねーよ!どこだよ!」


「さっきから話してただろ!分からなかったら聞けよ!」


「お前こそシッカリ教えておけよ!」


「お二人とも親子喧嘩はそれぐらいにして後ろを見てよ!」


「さっきの2台また張り付いて来たな!」


「ピー!次の陸橋を上らず、左の道へ入れ。ウインカーはギリギリまで出すな!そして真っ直ぐ行って突き当たりを右折し、Uターンしてくれ。直ぐに警察署の駐車場へ突っ込める。そこからはさっきの通りだ!」


「了解!」


「なんか楽しくなって来た!」と桃子は音楽のボリュームを上げアクセルを思い切り踏んだ。


「ピー!テンションあげるな。普通に安全運転。事故起こすな!」と肩を掴んだ。


ビビっていたのは僕の方だった。


駐車場に車を停めて走り出したピーの後を紙袋を2つ持ち、普通に歩いて警察署内へ入っていく。

制服警官の人だかりが出来ていた。


その横を通り過ぎいつも通っている慣れ親しんだ場所かの様に奥に進み、周囲を見回しトイレに入った。


「洋平!着替えろ!」


「またこのヨレヨレの着なくちゃならないの!」


「着替えたら帽子を深くかぶり、警察署の人間とすれ違うときは「お疲れ様です。」と低い声で言え!」

「また着替えを紙袋に入れて置いておけばピーがピックアップする。着替えたら行くぞ!」出てくると


「上等だ!」と言うと帽子のツバを掴み深く押し付けられた。


受付付近はまだ人だかり状態で椅子に座った状態で山元がピーの横で話を聞いていた。

その周りを囲む様に数人しゃがみ込んで話をしていた。


その横を通り過ぎる時、洋平の余りにブカブカな制服を見て事務所内で立ち上がった年配の婦警さんが怪しそうに見つめ歩き出した。


「あの〜!そこの・・・」とその瞬間、事務所の外側の窓に向かって


「あの車、アイツらだ!」


とピーが叫んだ瞬間、周りのみんなは立ち上がり、年配の婦警越しに外を眺め事務所内にいた数人は窓の近くまで走って行った。


一斉に自分の方を見る幾つもの目線に耐え兼ねた婦警も窓に向かって歩き出した。


町野と洋平は正面玄関を堂々と出て来て駅に向う途中の公園で足を止めた。


「ピーの奴、上手くやりやがった!さすが俺の娘だ!」


「オヤジ!こんな格好でどうするんだよ!電車になんか乗れねーよ!」


町野は500m位離れた環状7号線方向を向いて何かを考えている様子でいた!


「おっせーなぁ!」


その公園には小さな子供達を連れたお母さん達が集まり優しい眼差しで見守っていた。


公園にある木の枝にはスズメが数匹歌声を響かせ会話を楽しんでいるかの様に聞こえていた。


そのスズメ達が一斉に飛び立って行った。


遠くの方から何か地鳴りの様な音が近づいて来ていた。

 

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