第7話 おうちのじじょう



《結衣side》


今日は、高校の始業式。入学式だったかな?


どっちでも良いか。


晴美と一緒に話しながら学校に向かい、

中庭まで向かう。


クラスが発表されているからだ。


すると、じゃれあっている

男子二人が目に入った。


片やスポーツ得意そうなイケメン、

片やイケメンというより“綺麗”な細身の男子。


一緒のクラスだった様で、喜んでいる。


何組かはわからなかったけど…


近くにそれを見てか

恍惚の表情な人が居たので、

さすがに少し引いた。


そういうのは隠してから

存分にしてほしい。


二人とも三組だったので、

喜びながら教室に入る、


と。


先程の二人が目に入る。


うっそ、いや嫌なわけじゃないけど。


寧ろ少し、少しよ?眼福というか...

両方ともイケメン君だしね。


自己紹介で聞いた彼らの名前。


細身君が「渡辺 蓮」くんで

スポーツ君(?)は

「鶴崎 遥希」くんだった。


そして衝撃だったのが、


蓮君は元関西人だったという事。


食い倒れの街、大阪の人だった。


遥希くんの方は学校内で

何度か見かけたことがあるし、

寧ろそうじゃない人なんて

編入生なんだろうなー

って思ってたから、まぁ当たったと言える。


関西弁ってなんか憧れるよね。

会ってみたかったんだ。


休み時間は蓮くんに人が集まりすぎて


話しかけられず逃げられた。


同じ穴の狢だったってことだ。




放課後、やっとチャンスが

訪れたので話してみる。


予想以上に良い人達だった。


結果友達になれて、

NINEまで交換できた。


そして何と、私は晴美と一緒に蓮君が

家に呼んでくれたのだ。

さらには手料理まで。


ご飯はどうしようかなって

迷ってたところだったし、

すごく優しそうな蓮君の雰囲気に押されて

ご馳走になる事になった。


下校中、学校からそう遠くない場所では

あるのだけれど、

蓮君はとても辛そうにしていた。


息は荒いし、汗も沢山かいている。


蓮君の家らしき所の前で

自転車を降りた遥希くんは、

自転車を降りて

ふっと倒れそうになった蓮君を

さっと支えていた。


この見た目だし自己紹介で

体が弱い的な発言してたし

ある程度はこうなんだろうなっ

ていうのはあったけど

予想以上に深刻そうで心配になった。


蓮くんは無理して笑ってるのが

丸わかりな笑顔で

胸を押さえてなんでもない、大丈夫と言う。


大丈夫じゃなさそうなんだけど、

それ以上強く言えず…


蓮くんの大きい家に入る。


家に入るなり駆けてきた女の子。


蓮くんの妹さんで、

美幸ちゃんと言うらしい。


蓮くんによく似た可愛い顔だった。


ご飯を作ってくれている間、

四人でゲームしながら会話した。


「にぃに、こっちにきてから

 めっちゃ楽しそう。

 ハルにぃたちのおかげやねん」


「…ねぇ、大阪からなんで越して来たの?

 大阪も都会だし、

 全然理由がわかんないんだ」


些細な事で大阪に不満持つ様には見えない。

優しそうだし。


「……それは、…お母さんの所為」


「「「っ」」」



雰囲気が一瞬にして重くなった気がする。


「お母さんがにぃにいじめて…私の代わりにも

 いじめられて…それで美幸つれて

 いっしょににげてくれた」


「「「…………」」」


「ごめん、やな事聞いちゃったね」


「ううん、さっきも言ったけど

 にぃにこっちきてたのしそうやし。

 美幸もうれしいし、全然ええねん」


「そっか、ありがと美幸ちゃん」


そこからはまた楽しく

ゲームをすることができた。


「ご飯の用意出来たよ〜」


蓮くんがそう呼びにくるまでそれは続いた。


テーブルに座るには場所がないので、

リビングの低いテーブルに

並べられてあった。


丁寧にクッションまで置いてあった。


綺麗に盛られたチャーハンに手をつける。


「美味しい…!」


「それは良かったわぁ」


本当に美味しい。


店のチャーハンの美味しさではなく

お家の優しい味。


いくらでも食べられそう。


でもふと、美幸ちゃんの言葉を思い出して、

美味しいとわかっているのに

味がしない様に感じてしまった。







《主人公side》


美味しいと言うて食べてくれて一安心。


舌に合わんかったらどうしようと

内心不安やってん。


ハルくんと美幸がお代わりして、

お昼ご飯を食べ終える。


美幸は友達と約束していた様で、

家の前の道路で遊ぶと言って

外で待つ友達の元へ

行ってしまった。


「何しよか」



「あの…さ、蓮」


「なんや?ハルくん」


「実はな、意図せず美幸ちゃんに

 聞いちゃったんだ。

 蓮が…こっちに来た理由」


金の話じゃなさそうやな…

この深刻そうな雰囲気からして、


「…母さんのことか?」


「そうなんだ」


後ろで二人は黙っている。


「今日友達になってくれたばっかりの二人には

 悪いんだけど、そんな事聞いてほっとけない!

 聞かせてくれよ!」


「……わかった。別に、

 隠してた訳でもないねんけどね。

 まぁ、…座ってぇな」


俺も座った。


「まぁ…な。何から話すか……せやな、

 母さんは、いわゆるお金もった男達に体で

 金貢いでもらってた…まぁ、よく聞く話や」


ハルくんは何も言わない。

一通り話してくれという事やろう。


「そんで…避妊できずに産んでしまったんが

 この俺と美幸や、父親は違う。

 そんで、男おらん時の母さんは常に何かに

 当たり散らしてた。主にまぁ…

 うん、俺にやな。

 おかげで体は後遺症で動かし辛い」


後ろを向いて背中を見せる。


でこぼこに歪んでしまった俺の肌。


まぁ、殴った痣とか

ライターで炙った火傷とか

カッターナイフの切り傷とか、あると思う。

そう簡単に消えるもんでもないし。


見えん所にだけつけるあたり、

あの人もある意味冷静やったんやな。


「「「っ...」」」


「美幸にまで手ぇ出しそうになってって。

 必死に庇って美幸に

 傷がつくことはなかった…幸いにも。

 でも、それもだんだん限界に

 近づいていったんよね。

 そんな時やな。

 俺が偶然に宝くじで大金掴んで。

 それで、半ば無理矢理一億円つかまして

 縁切って携帯解約してこっち来たんよ」


「ついでに言うと、

 俺の体がこんなにも弱いのは…

 体質やとか言っとったけど、ほんまは

 小さい頃に飯をしこたま抜かれて

 少ししか食いもん

 胃が受け付けへんくなっただけ。

 これでもだいぶ回復した方なんやよ」


「蓮…っそんな…そんな事…許され…」


「…てたんが現状やねん、…

 まぁ、今は楽しいし幸せよ?

 幸せを何を持って幸せと言うのかは

 ようしらんけどね」


「…でも、蓮くんが幸せなのは…良かった」


「そうです、ね」


「そうそう、俺もそう言ってくれんのが一番

 嬉しいんよ。皆優しいからこないに

 親身やけど、俺のことなんやから。

 皆がそない気ぃ落としても

 俺にとってただの損やで」


「ふ…は、はは…損か、…そっか、なら…

 俺が…こんなに気ぃ落とすわけには

 いかないよな」


「そういうことや」


「よし。落ち着いたよ。

 …蓮、これから長い時間かかるかも

 しんねぇけど。俺らと、

 お前も忘れられるくらい、

 充実した毎日送ってやろうぜ」


「...!」


「安心しろよ蓮。

 今はお前だけじゃねえ。な」


「うん」


「はい」


「蓮が美幸ちゃんを支えて来たみたいに、

 こんどはお前が支えられる番だ」


「………みん、な…

 あり、がどっ…」


話をしていて我慢していた涙が溢れ出す。


母さんにとって

俺は邪魔なだけやったんやとか、

もっと愛して欲しかったとか、

もっと家族らしく過ごしたかったとかーー


「おう、泣け。泣いて忘れてしまえ」


「そうですよ。

 泣けてスッキリできれば万々歳です」


「蓮くんと友達になれて本当によかった。

 蓮くん、頑張ってたんだね」


「う、うぅぅぅうぁぁぁ…」


その時、久しぶりに俺は、静かに、

でも確かに泣いた。




キャラクターファイル

No.7 寺浜 結衣

女性 15歳 高校一年生

ギャルではありません。陽キャです。

幼馴染の晴美と常に行動を共にしている。

人の心配が出来る。

毎朝ウォーキングは欠かさない。

ロングで、何がとは言わないがD。

蓮と遥希のペアに興味津々。

友達になりたいと思い、

即座に行動に起こした。

将来の夢は美容師。

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