第24話 暗い部屋で
仕事をしなくなって二日が経った。
今日も俺は部屋で何もせずに天井を見上げている。食事もあまり喉を通らない始末だ。
後悔してもすでに遅い事は分かっている。主人公との対立は自分の責任だ。
脇役である俺が親友ではなく本人の意思でイラついた感情をぶつけてしまった。
ランクAではなく脇役としても最低だ。物語に混乱を招くなどあってはならない。
脇役は与えられた役を与えられた命令に従って行われるべきだ。自分の感情に身を任せていい訳がない。このようなルールは脇役の新人でも順守する。
責任を持って脇役を引退するべきなのかもしれない。物語も上手くいかず、さらには不満を主人公にぶつけるなんて愚かな行為。もう覚悟を決めて諦めるしかない。
このまま続けたって無意味だが決して辞めたいからといって物語が終るわけではない。
定められた期間まで何もしなくても終了の時まで待たなくてはならなかった。
もう誰にも会いたくはかった。俺は部屋に閉じこもって終わりを待つ。
「落ちぶれたものね。アユトが暗い部屋で泣きながら引きこもりをする場面なんて台本には無かったはずなのだけれど?」
すると一番に会いたくない人物が訪れた。俺はベッドの上で寝転がりながら呟く。
「出て行ってくれ。お前と喋ることなんてない」
事前に誰も家へ入れるなと母親役に伝えていたがマユミはランクA。どうやら母親役の演者もマユミには逆らえないようだ。
ただ、マユミが冷やかしに訪れるのは予期していた。俺に皮肉を投げつける為なら宇宙にだって出向きそうな奴だ。本当に最悪だ。
「アユトはこんな所で何をしているのかしら?」
「……何をって……別に何もしていない」
「脇役の仕事もせずに何をしているのかって聞いているのだけれど?」
「……もう何もしたくない。手遅れだ。この物語は破綻している。俺なんてランクAの器じゃなかった。すでに結果が出ているじゃないか」
「じゃあこれから何もしないのかしら?」
「……もう俺は降りる」
「自分が情けないとは思わないの?」
「うるさい。俺はお前と違って才能なんてないからな……」
「私は情けないとは思わないのと聞いているのだけれど?」
「……そりゃ情けないだろ……ランクAの仕事も上手くいかず、主人公と不要な対立をする脇役なんて情けないというより無能だ」
「じゃあアユトはいったいこんな所で何をしているのかしら?」
「……さっきから何が言いたいんだ? 俺を笑いに来たんじゃないのか?」
「情けないと思うのならなぜ行動しないのかしら。まだ全てが終ったわけではないのだけれど?」
「もう手遅れだって言ってるだろ! さっさと帰れ!」
「何が手遅れなのかしら。まだ物語は一ヶ月間あるじゃない。可能性は残っているわ」
「もう終っている。現に俺の言う事なんて誰も信じないじゃないか!」
「じゃあ勝負で白黒つけるというのはどうかしら?」
「勝負?」
「そうね。ジャンルに沿って学園物らしく球技大会で勝った方が勝者に従う、ということにしましょう。物語も盛り上がりそうだし」
「勝手に決めるな。俺は参加しないからな。もうお前とフウキさんで勝手にやってくれ。ランクAの権限をフウキさんに譲ってもいい」
「本気で言っているのかしら……仕方がない。アユト。こちらを向きなさい」
寝そべった俺にマユミが近寄ってくる。観察するような瞳は怒りで燃え上がっているようだ。マユミはなぜか悔しそうに奥歯を噛み締めている。
「アユト。歯を食いしばりなさい」
マユミの振り上げられた右手は勢いをつけて俺の頬をとらえた。
いきなりビンタされ、驚いた俺はジンジンする頬に手を置く。
「諦めたら殺すから!」
マユミが俺の胸元を鷲づかみにする。必死な姿はひどく懐かしかった。
「約束を忘れてはいないでしょうね。あなたは私に言ったはずよ。二人で最高のランクAになろうって!」
小さい頃の記憶を蘇らせる。幼馴染のマユミをこの世界に連れ込んだのは俺だった。今となってはすでにマユミの方が先に約束を守った形となっていた。
「……たしかに言った」
俺は劣等感からマユミと距離を置く事が多くなっていた。
目の前のマユミはしばらく動きを止める。俯いているので表情までは見えない。
「先に学校に行っているわ。来なかったら殺すから」
「俺は……」
「……馬鹿」
それだけ言い残すとマユミは部屋を出て行った。
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