影のひとりあるき

単三スイ

村の焼失編

第1話 成人の儀

9/18 加筆修正

4/11 加筆修正

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 この世に生を受けてから十五年目の早朝の出来事だった。


「君のスキルは【存在削除エアー】じゃ。」


 石板に名前とスキルが浮かび上がる。それと共に、頭に直接声が語りかけてくる。


「このスキルは、対象の存在意義を削除するスキルじゃ。お主にもわかるじゃろうが、名前だけ聞けば、このスキルがシンプルかつ非常に凡庸性の高い能力であるのは間違いない。しかしながらスキルの使用には少なからず精神力を伴う。もちろん、発動する規模や時間によっても使用する精神力は変わってくる。つまり一歩間違えれば、自らの精神を傷つけるリスクにもなり兼ねないということじゃ。それはゆめゆめ忘れるでないぞ。後は…まあ、あまり細かいことを言ってもつまらんからの、なんとかなるじゃろう。では…汝の可能性に限りがあらんことを!」


細かいことを言ってもつまらない。そのわりに丁寧な説明をしてくれていた気がする。案外人?のいい神様だったのかもしれない。


 ともあれ無事スキルを獲得することができた。神様もおっしゃっていたが、そこそこ有用なスキルを賜ったのではないだろうか。ましてやスキルの効果の『対象』に生き物でも含まれていたりした暁には、そこそこなんてレベルの問題じゃない。まあできたとしても精神力の限界もあるし、人としてもやるつもりは毛頭ないが。


何より『周りにバレたら面倒くさい』。こんなに小さな村だ。有用なスキル持ちとなれば、事あるごとに駆り出されるに違いない。しかしそれだけは避けたい。


なにせ俺は一生涯この村でのんびりと暮らしていくと決めている。


「そろそろ野菜の収穫時期だね。」

「ソウダネタノシミダネ。」


こ ん な 生 活 が し た い !


この決意は世界一硬度の高いとされているアダマンタイト鉱より固い。それがこんなスキル一つで楽しい楽しいマイライフが揺らいでよいものか。否、断じて許されない。許されてはいけない。


安息なる我が生活のためには考えるまでもない。答えは一択。


よし、隠そう。


もともとあまり目立ちたくない性分でもあったため、決断を下すのにはあまり時間を要さなかった。


 意識を木版の文字に傾け、頭の中で念じてみる。


存在削除エアー スキル


すると【存在削除】がみるみるうちに【】へと変わっていく。


スキル名を限定しないと空白になるようだ。神様が言っていた可能性に限りが…という言葉に納得がいった。概ね己の想像が続く限りスキルの使い方は無限大といった意味だろう。何にせよいろいろと試す必要がある。ひとまずは無難なスキル名に変えて「君のスキルは何だったのかね? 」...おこう。


 まずい、非常にまずいことになった。


 十五歳を迎えた少年少女は、スキルを神から受け取った後、神父によってそのスキル名が公表される。割り振られたスキルによってその後の道が分かれるのだ。


村でずっと暮らしたいとは言っても、スキルなしは何となく憚られる。なぜなら格好が悪い。


僕が渋ってなかなか木版を渡さないからか、神父が半ばひったくる形で木版を取り、スキル名を読み上げた。 


「名はアンブラ、スキルは...空白⁈ どういうことだ。こんなことは過去に一度としてなかったはずだが。神よ、これは真ですか?」


『・・・・・・』


なぜ答えない。そんな心の声は完全にシカトされたのか、神は無言を貫いた。


 すると、神父の俺を見る目が憐憫の目に変わった。


「なに、気に病むことはない。ただでさえ働き手が少ない村だ、有用なスキル持ちは皆そろって村から出て行ってしまうからね。君は村の働き手としてさぞ重宝されることだろう。期待しておる、精進するのだぞ。」


気まずくて仕方がないのか、早口にフォローとも言えないフォローを頂戴する。こちらだって気まずくて仕方がない。だが村に留まることが出来るという事実に対する嬉しさも少なからずある。複雑な気持ちだ。


 そしてもちろん、一部始終は他の村人たちによっても見られているわけで。いわゆる公開処刑だ。


自分の番が終わったにもかかわらず視線が痛い。しょうがないので早速試してみよう。


存在削除エアー アンブラ

 

なにかが大きく変わった様子はないが、周りからの視線は感じなくなった。断じて恥ずかしかった訳ではない。そう、実験のため...実験のためだ。

 

 しばらくすると、同い年ぐらいの少年が真っ直ぐにこちらへと近づいてくる。知り合いではなかった。こちらに気づいて避けてくれるだろう。当然のようにそう考えた。だが、その少年は歩みを止めることなく距離を詰めてくる。


ぶつかる!そう思い反射的に目をつぶった。しかし何時まで待っても、体に衝撃が伝わってくることはなかった。


「ぶつから、ない?」


 恐る恐る目を開くと不可解なことが起こっていた。するとどうだろう。周りを通る人々が皆一様に自分を避けて動いているではないか。


新手の虐めだろうか。


冗談はさておき、まるで今自分が立っている場所にはなにもかのように、空間の一部が切り取られたかのようになっているのだ。


試しに自分から近づいてみる。すると、驚いたことに近づいて行っても周りが避ける。やはり虐めにしか見えない。


解除


頭でスキルを解くよう念じると、先の出来事が嘘のように周りの人々は自分を認識し始めた。ふと、とんでもないことに気づいてしまった。この能力なら、女性の湯あみだって見ることができるかもしれない…チートだ、チートスキルだ!この後数分間、実行しもしない計画を一人懸命に考えていた。


 そして儀式は滞りなく進んでいった。そんな中、ざわざわと人が集まる一角があった。


「これは、『守護者』⁈ 150年前以来、このスキルを持つものは出ていなかったはずだが。ああ、これも運命なのでしょうか。主よ、我らが世界に災いが訪れぬようどうかお導きを...」


先程とは違う神父が、驚き混じりにスキルを説明をしていた。そんな神父も目を見張るようなスキルを受け取った少女。幼馴染のイブである。


 教会のステンドグラスから差しこむ光に反射して、彼女の長く美しいブロンドヘアが輝いている。壁に描かれた天使も、さながら彼女を祝福しているかのように見える。


加えて彼女の病的なほどに白い肌が、教会にこれ以上にないほど映えている。中には彼女を見て拝んでいる者までいる。もう彼女が天使でいい気がする。


 そんな彼女はといえば、自らのスキルへの反応もほどほどにこちら見て面白いものを見つけたといわんばかりにニヤリと微笑み、そして近づいてきた。


「そんなに嫌な顔しなくてもいいではありませんか。かわいい幼馴染がせっかく会いに来たというのですから。」

「現在進行形で皆の視線を集めている人に近づかれたらこんな顔もするさ。目立ちたくないんだよ、俺は。あと、自分でかわいいって言うな。」

「あら、かわいくないんですか?それとも不細工とでも言うので?」

「そうは言ってないでしょ。」

「じゃあかわいい?」

「ぐっ、そ、それは…」


痛いところを突かれる。実際容姿が整っていることには間違いないので否定しようにも否定できない。だからといって面と向かってかわいいというのも何だか気恥ずかしい。


「ふふっ、冗談ですよ。少々虐めすぎました。いい反応が見られたので満足です♪」

「…勘弁してくれ。」


この女!


「ところで、そちらはどうでしたか?」


少し顔を引き締めて、恐らくこっちが本題であろう、話題を振ってくる。


「ああ、スキル無しだそうだ。おまけに前例にないことらしい。そっちとはまた違った視線を浴びることになったよ、ははは。まあそれはいいとして。結論だけ言わせてもらうと、俺は晴れて一生涯この村で暮らすことになった。」


それを聞くや否や、途端にイブはぱあっと顔をほころばせた。そうかそうか、そんなに幼馴染の不幸が嬉しいか。


「へ、へ~。私も【守護者】なので、村の守り人としての使命を全うするため村から離れられないのですよ。アンブラくんと離れた生活も新鮮だと思っていたのですが。そうですか、また代わり映えのない毎日が続くんですね。」


どこか感慨深そうに発した彼女のその言葉に黙って相槌を打った。


 こんな他愛のない話をしているところに、邪魔者が若干一名。


「おいおい。前例無しのスキル無しが守護者様のイブと話しをするなんて、身の程を弁えた方がいいんじゃないかねえ?それよりも…ねえ、イブ。そろそろ心を決めてくれたかい?忘れたとは言わせないさ。僕との結婚の話だよ、結婚。へへへっ、安心しなよ。イブならたとえ卑しい妖精族だったとしても俺の所に来れば後悔はさせないからさ、へっへっへっ。」


 緑のもじゃもじゃ頭に脂ぎった顔、太った体に不釣り合いな豪華な服。人族の領主の三男カリフ・ラワー。通称素揚げのブロッコリー。因みに命名者は俺である。毎度鬱陶しい奴だ。何を言おうこいつ、すでに十回はイブに振られている。しかもかなり強い語調で。普通のやつなら強く拒絶されたら嫌でもわかると思うんだけどな。よほどこいつは図太い神経をしているらしい。


「何度もお断りしていますが、あなたのもとに行くことはありません。私は生涯アンブ、守護者として村に勤める義務がありますので。」


「ん? 呼んだか?」


どこぞのオフロ〇キーよろしく反応してしまった。しかし、虚しくもスルーされて会話は何もなかったかのように続行される。ん、オフロ○キーってなんだ?


「っっ、言わせておけばつけあがりやがって!大体お前は150年前に人族に敗れ、惨めにも翼を失って地に落ちた、あの薄汚い妖精族が。地を這いつくばって人間様に従っておけばいいものを。こっちは自分より身分の低い雑種に結婚してやると言ってやっているんだぞ‼それなのに、何故そいつなんだ。俺は栄誉あるカリフ家の魔法師だぞお。そんな無能は僕ので一発だ‼」


イブを指さし額に青筋をうかべ、カリフは大声でまくし立てた。その時だった。起きてはいけないことが起こってしまった。


 基本的に、魔法は術者が意識的に言霊に魔力を乗せることで発動する。つまり普段会話の中などでスキル名を口にする分には何の問題もない。しかし、カリフは激高するあまり無意識に魔力を乗せてしまったのだ。


カリフの目の前に魔方陣が現れ、ファイヤーボールが射出される。


そして不幸にも、その火球が向かう先には...イブがいた。


 周りの誰かが叫び声をあげるよりも先に、体は動いていた。失敗したときの保険として、背中でかばうように彼女に覆いかぶさり、スキルを発動させる。


存在削除エアー イブ アンブラ


同時の削除が不可能であった場合、イブに被害が及ばないように彼女の名前を先に唱えておいた。結果的には、発動にはわずかながらタイムラグがあったため、自らの背中にやけどを負ったが、スキルが発動して火球が避けていったため軽傷で済んだ。このくらい、名誉の負傷といえよう。そのままイブを押し倒す形で地面へと倒れこむ。


「だだだ、大丈夫ですか。きゃあっ、 火傷?! 私のせいで、私のせいで怪我を!!! 」


赤面したと思えば今度は急に泣き出すイブ。忙しないな。軽傷のはずだが。どうやらよほど驚かせてしまったらしい。


「へっへっへっへっ。ほ、ほれみろ。やはりお前は女一人ですらろくに守ることができない無能なんだ。わざと狙いを外してやった俺に感謝するんだな。」


素揚げのブロッコリーは逃げ出した。経験値upの音はなしのようだ。

しばらくすすり泣くイブをその場でなだめていると、だんだんと辺りで傍観していた人々がまばらになってきた。そして、泣き止んだイブに連れられ教会の医務室へと向かった。


「さっきはその、驚かしてすまなかった。」

「どうしてアンブラ君が謝るのですか。助けてくれたのでしょう。それと、さっき守ってくれたときの。スキルなしなんて嘘ですよね? 」


すべてお見通しといわんばかりの目でイブは見つめてきた。


「神様が嘘をついたって?」


苦し紛れに、精一杯の抵抗で返す。


「むぅ、仕方がないですね。これ以上は追及しないであげましょう。」


どうやら神はいたようだ。


「今回はアンブラ君が、かっこよかったので許してあげます。まるで物語に出てくる王子さまのような...ごにょごにょ。」


なにやら興奮ぎみに話しており最後の方は聞き取りづらかった。因みに最初の方はばっちりと聞こえていた。やったぜ。


「不覚にも、お嫁さんになってあげてもよいと感じてしまった自分もいましたしね ///」

「は、素揚げのブロッコリーの?!」

「何言ってるんですか。もういいです。先に帰ってますからね。」


急に冷めた目になると彼女は先に帰っていった。あんな冷めた目をした彼女は初めて見た。


「女心はわからないものだな。」


そうしぶしぶと思うのだった。


 さて、今日は激動の一日だった。それでも無事?成人の儀を終えることができた。この先村で何をして暮らそうか。どんなことが待ち受けているのか。


きっと、今までとあまり変わらない生活が待っているのだろう。


話の締め時がわからなくなってきたので、適当な一言で締め括らせてもらう。


そうして俺は一人、思いに耽っていた



_______________________________


 初めまして、単三スイです。

まず、この作品を開いてくださった方に感謝を。そして、処女作ということや自分の力不足のせいで、何かと文章がひどいことになっている箇所も多々あるとは思いますが、どうか引き続き読んでいただけると嬉しいです。


一話目はかなりギャグ要素多めの内容になってしまった感がありますが、ここからどんどんシリアスになる予定です。Maybe。


 感想やアドバイス、フォローや評価をしてくださると死ぬほど喜びます。ぜひよろしくお願いします。





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