我等、はみだしテイカーズ!
えいみー
プロローグ
平和。
それが、どのような定義で定められるかは解らない。
が、今のような………大国や先進国に目立った事件はないが、一度海外に出れば紛争や海賊等の問題がある。
にも関わらず、大国は概念的な社会正義に倒錯し、山積みの問題を他人事だと片付ける。
そのような状況でも「平和」だと言えるのなら、少なくとも言った当人にとっては平和なのだろう。
「平和だなぁ」
この、国際宇宙ステーションで、眼下の地球を眺めながらチューブ式のコーヒーを飲む、この宇宙飛行士のように。
アメリカの進める宇宙開発の目的で建造されたこの宇宙ステーションには、様々な人種・職業の人間が集められ、地球や宇宙を監視している。
彼の仕事も、センサー類を用いてスペースデブリ………宇宙開発の仮定で出た様々な「ごみ」を、監視する事だ。
地上の活動家が「宇宙の環境まで破壊するのは、地球の恥だ」として騒いだ結果、彼はこの役職についた。
………しかし、現在の技術では、宇宙空間に出てデブリを回収するような事はできない。
彼の仕事も宇宙の環境がどうのこうのというよりは、人工衛星の打ち上げ等の際に邪魔にならないよう、デブリの流れを監視する。
そうした側面の方が強い。
件の活動家達も、彼の役職が出来た途端、その内容に関わらず、満足して黙ってしまった。
ようは騒ぎたかっただけであり、それを考えると呆れてしまう。
が、そのお陰で、デブリの流れを監視するだけの楽な仕事につけた事を考えると、活動家達への感謝の気持ちも沸いてくる。
彼は今日も、適当にデブリを監視して、チューブ式のコーヒーを飲みながら趣味の携帯ゲームをする。
そんな、いつも通りのローテーションをこなす………はずだった。
「んっ?」
センサーに映るスペースデブリの起動が、変になった。
いつも適当に見ている彼からしても、異常な程に。
渦巻いているのだ。
まるで、一点の座標に引き寄せられるかのように 。
「な………なあっ?!」
異変が起きたのは、次の瞬間だ。
三回ほど何かが光ったかと思うと、突然光が広がった。
と、言うよりは「現れた」と言った方が良いだろうか。
工場排水が揺らめくようなその光は、彼が小さい頃に見た特撮番組のオープニングの演出に、どこか似ていた。
「何だっ?!何なんだアレは!?」
緊急事態を知らせるブザーとアナウンスが響き、宇宙ステーション内が慌ただしくなる。
当然だ。
「あれ」はどう見ても、異常事態なのだから。
「うわあっ?!」
そして、彼は見た。
宇宙ステーションの前に現れた「あれ」の中から、地球目掛けて落ちてゆく、
無数の「いきもの」の姿を。
………………
西暦1999年。
かの、ノストラダムスの予言は当たった。
突如、地球全土を覆った謎のオーロラと、磁気嵐。
それは、地球の衛星軌道上に出現した「穴」………時空の裂け目とでも言える場所から、地球に広がった「
後に「アンゴルモア・ショック」と呼ばれる大異変。
それにより、地球は変貌した。
魔力と共に地球に現れた、「モンスター」と俗称される、異世界を由来とする狂暴な不明生物達。
魔力による汚染により、異世界の環境が再現されてしまった領域「ダンジョン」。
突如現れた恐るべき「敵」により、多くの人々が犠牲になり、人類は危機に立たされた。
だが、もたらされたのは「敵」ばかりではなかった。
それから一年して、いくつかのモンスターのように、魔力を自らの力「魔法」として行使する人間が現れだしたのだ。
それはやがて人類全体に広がり、モンスターに対する対抗策として重宝された。
モンスターへの対抗策が生まれると同時に、様々な事が明らかになってきた。
それは魔力が、ダンジョン発生の媒体になる汚染物質や、魔法という超能力の元という以外に、
使い用によっては石油や原子力をも上回る、新しいエネルギー資源としての側面を持っていた事。
やがて、モンスターの討伐やダンジョンの調査。
ダンジョン内部に発生した、様々な資源の採掘を生業にする人々が現れた。
かつてのファンタジーRPGの勇者達のような活躍を見せる彼等は、いつしか「ダンジョンテイカー」………略して「テイカー」とも呼ばれるようになった。
それに続くように、テイカーの育成の為の機関や、専用の武器や防具を作る会社も生まれた。
やがて、世界の危機はイベントと仕事に変わった。
いくつかの危険度の低いダンジョンは、テイカー入門の為の訓練所や、テイカーを疑似体験する為のベンチャー施設に変わった。
恐れられていたモンスター達も何種類かは捕獲され、動物園や水族館で………厳重な注意の元ではあるが、見る事が出来る。
テイカー達も、トップクラスの者達はロックミュージシャンやトップアスリート並みの人気を博し、称賛を浴びた。
世界がモンスターに、ダンジョンに、テイカー達に熱狂していた。
………こういう物が一番好きそうな、ある国を除いて。
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