席替え

政(まつり)

席替え

 確かにその日は朝からあまり気持ちのいい日ではなかった。電車を使うほどではないが雨具を着ないと確実に濡れる雨、集合時間になっても現れない友達、思うように変わらない信号機の色。そんな中々に憂鬱な道のりを何時も通り自転車で45分かけて登校しきった。雨具を着ていったせいで学校に着くまでに雨で濡れた位には汗でびちょ濡れになってしまっていた。恥ずかしい。僕はタオルでひとしきり汗を拭いてから教室に向かった。

 その最中、そういえば今日は帰りのホームルームで席替えがある事を思い出した。高校に入ってから初めての席替え。出席番号の関係で入学してからずっと教卓の前の席だった僕にとっては有難いものだったし、今以外の席ならどこでもいいと思っていた。実際に席が決まるまでは。

 教室に入り朝のホームルームが始まってからは、金曜日で移動教室も少なかったため大きなことは起きずに一日が流れていった。強いて言うならいつもより少しだけ眠かった気がするけど、きっと 登校がいつもより大変だったからだろう。                               何とか6時間目の化学を乗り切って、ホームルームの時間になった。HR委員が前に立って席替えの仕切りを始めたどうやらうちのクラスの席は男女関係なく引いた番号で決めるらしい。成る程と思っているうちに、くじを引く順番が決まっていた。今回は男子から引くことになった。早く帰りたかった僕はぱっと引いてぱっと場所を伝えた。真ん中の列の前から二番目。決して良い席ではないが教卓の真ん前よりはましだろう。そんなことを考えながらボーっとみんなの新しい席が決まっていくのを見ていた。数秒見つめていると僕はある異変に気づいた。 

「あれ?俺の周り全然うまってなくね?」

もう女子がくじを引き始めているのに僕の周りがほとんど埋まってなかった。かろうじて埋まっていた左隣も班での活動になってしまうと関係のない席だった。徐々にみんなも異変に気付き、全員が埋まるとある男子が

「14番やばくない?だれだっけ?」

僕です・・・

「田中か!」

「そうだよ」

高校に入ってからは目立ちすぎず孤立しすぎず品行方正をモットーにしてきたのに何故僕はこんなに席に恵まれないのだろうか。僕がもう高校生で男だったからよかったもののこれがもし女子中学生だったら。

男子かたまる→嬉しい→一人女子入る→泣いちゃう→気まずい空気→折角かたまれた男子の一番優しい奴泣いちゃった子の仲良い子と席交換→ハッピーエンド って感じだったんだろう。

一応先生に

「大丈夫?」

と聞かれたがこれは何と答えればいいのだろう大丈夫すぎても気持ち悪いし拒否しすぎたらちょっと女の子たちに悪い気がする。取り敢えず

「まぁ、頑張ります。」

と答えた。  

無難な回答だろう。 

 こうして僕の高校最初の席替えが終わった。明日からは例え授業中に隣の席の子のしゃっくりが止まらなくても気にすることはできないだろう。

「はぁ、」

楽しい高校生活になりそうだ。

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席替え 政(まつり) @maturi7311

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