漂流トイレ

まわたふとん

第1話「飛ぶ便所」

 朝から調子が悪かった、2日目のカレーならぬ3日目のカレーは、どうやらまずかったらしい。

 味はチャントカレーの味がしたのだが、3時間目が始まった時にはトイレから出れなく成っていた、初めて授業をサボったのがトイレだってのが笑えない。


 同中からこのド田舎に有る伏見高校に進学したのは俺だけだ、だからクラスメイトとの距離感もイマイチつかめないでいる、まだ学校が始まってから1週間も経たないんだけど。


なんでこんな辺鄙な場所に有る高校に入学する事になったのか、それは俺が高校進学と同時に、親が買った家がど田舎だった為、通えそうな高校がフシ校しか無かったから。今でこそ普通の高校だが、一昔前は荒れに荒れ伏見ならぬ不死身高校と呼ばれて居たとか、居ないとか。


田舎の高校だから、ヤンキーくらいは居るんだろうなと考えて居たら、案の定クラスメイトの半分くらいは陽キャかマイルドヤンキーだった。俺はオタクと言う程陰キャでも無かったけど、誰とでも仲良く成れるタイプの人間では無い、テーブルトークに青春を捧げた何処にでも居る変哲の無い高校生だ。



  流石に今日の所は早退しないとヤバイだろうと思い始め、親に携帯から迎えのSOSメールを作成中、視界が金色の光に包まれた。それは僅か数秒の事だったと思う、訳も解らないまま取り敢えずメールを完成させると送信した。


・・・・?


送信マークがクルクルと回り続けて、電波が届かない為接続が切れてしまったようだ、いくらフシ高が田舎に有るとは言え携帯の電波くらいは繋がっている筈なのだが。


「また回線が落ちたか」


 最近、多分ここ10日程、4月に成って新年度が始まってからかな、携帯の基地局の不具合が何度も起こっていた、試しにメールでは無く電話を掛けて見たがやはりつながらない。

 仕方ない恥を忍んで職員室の電話を借りるかと、尻を拭いてからトイレの外に出ようとした。


「えっ何で?」


 訳が解らない、トイレの個室を出て洗面台で手を洗って廊下に出たら、そこは大草原だった。

 サバンナかと見紛うばかりの大草原は、地平線の彼方まで続いている、回れ右してトイレに入ると落ち着く為に再び個室に入った。



 個室にこもる事30分、携帯の時間を確認すると、既に4時間目の授業が始まっている時間に成っている。しかし授業終了のチャイムも開始のチャイムも鳴っては居ない、この状況で聞き逃すような事は流石に無いだろう。


携帯を再度確認するも、電波はつながっていない、意を決して個室から出て窓を覗く。良かった、サバンナよりは100倍見覚えの有る光景だった、でも俺が入っていた職員トイレから中庭は見えない筈なのだけど。


念の為もう一度トイレの入口のドアの鍵を開け、そっと扉を開いて外を覗く、やっぱりサバンナだったのでドアを締めて鍵を掛け直した。窓へと移動すると窓から外へ出る、今どきトイレでこんな人が出来る出来るような窓は無いが、学校の窓なので万一の避難経路にでも成っているのか、窓から中庭に出る事は出来た。


この中庭も俺の知ってる学校の物とはだいぶ様子が変だ、まず四方を見渡す限り出入り口が1ヶ所しか無かった。トイレの直ぐ隣の部屋の扉で、恐らく保健室の物だと思う、窓から覗く部屋の中が保険室の物だったから。

 1周ぐるっと周ってみるかと壁に沿って歩き出す、職員室の辺りは窓すら無く壁が上まで続いている。学校は4階建てだったが、見上げた感じもっと高いようにも思えた。

 職員室と当直室を過ぎた辺りで、渡り廊下にぶち当たるのだが、掃き出し窓が有る筈の渡り廊下もはやり、上まで続く壁に阻まれて居る。渡り廊下の中庭側には池が有る、これは記憶に有る中庭と同じで、校長が寄付したと言う鯉が群れをなして泳いでいた。

 渡り廊下の壁沿いを進んでいくと、1年生の教室と廊下が有る筈なのだがやっぱり壁しか無い。90度折れ曲がって今度は昇降口目指して進んでいく。

 昇降口前も、本来で有れば掃き出し窓がズラッと並んでいる筈だったのだが、壁しか無い、せめて上靴から下靴に履き替えたかったのだが、できそうになかった。


 1周回ってきて元のトイレの前に到着した、ここまで来たらやることは一つ、保健室の扉を開けるしかない。鍵が掛かっていない事を祈り、保健室の扉に手を掛ける、さあ扉を開けようとした時にスマホからけたたましい音が鳴り響いた。


 咄嗟にスマホをポケットから取り出して確認する、そう言えば中庭で出てから電波を確認していなかった、そう期待を抱きながらスマホの画面に目を落とすと、見知らぬアプリから、『保健室を開放しますか?』と言うメッセージが入っていた。


メッセージをタップすると『はい』『YES』の2つの選択肢が出てきた、頭を抱えながらどちらを選べば正解なのか真剣に悩んでしまった。


「どっちを選んでも同じやないかーーい」


 一人ツッコミの声が中庭を木霊する、選択しないとメッセージが消せないようなので『はい』を選択すた。


『カチャリ』


そんなはっきりと鍵の開く音がするのかと何度も扉の様子を伺う、見た目では全く解らないし、扉の上半分はガラスなので中に人が居れば一目瞭然だ、恐る恐る扉のノブを握ってドアを開けた。


何処にでも有る普通の保健室、高校の保健室に入ったのはこれが初めてだったけど、中学の保健室と大差は無いように感じた。

当然中に入って最初にやる事は、廊下に出る扉を開ける作業だ、これで元の学校に帰れて居るなら万々歳、摩訶不思議な旅は終了と言う事になる。意を決して扉に向き合い、開けようとするのだが鍵が掛かっているようで開かない、解錠しようと鍵がありそうな所を探すのだが何処にも無い。扉が外れないかとアチコチ探してみて、最後の方には壊しても出る覚悟で扉を叩いて見たが、壊れる予兆すら無かった。



廊下に出る事は一旦諦め、保健の先生つまり養護教諭の机に座って、スマホを確認する事にした。

電波は来てない、保健室も中庭もそれは同じで、ネットに繋ぐことも親に連絡する事も不可能だ。問題な見知らぬアプリは救済システムと言う名のアプリで、俺はこんな物をインストールした覚えは一切無い。


アプリをタップすると通信が繋がっていないにも関わらず立ち上がり、画面にはログインボーナスの文字が現れて居る。何の設定もしていないのに自動的にログインされてしまったようだ、こんなの普段なら速攻削除する対象なのだが、今は事態が事態だけにログインボーナスの内容を確認した。


おにぎり3個にペットボトルのお茶が1本、ゲームのログインボーナスなたシケてるな、と思うような内容だ。しかし目の前の机の上にコンビニおにぎり3個と、ペットボトルのお茶が置かれて居る光景を見ると、異常事態に巻き込まれたことを否でも応でも自覚させられた。


 救済システムのコンテンツは現在の所2つ、ステータスとミッションで、他にもコンテンツは有りそうだがまだ開放されていない。ただ生存日数1日目と書かれて居る表示が世紀末感を倍増させている、こういう時、お約束のステータス画面を見る。


名前:黒田夏雨

年齢:16歳

SEX:童貞(♂)

職業:学生

レベル:0

スキル:

EXスキル:トイレ召喚

状態:中毒(弱)


 性別に態々童貞なんて書き込まなくても良いんじゃないのか、そんな事言われなくとも解ってるっつーの。状態異常の中毒は食あたりなんだろうな、今は落ち着いているが薬を飲みたいところだ。


安全は確保されているようなので、保身室の中を物色する、沢山の物品が置かれて居るが役に立つかは解らない。薬棚を探すと傷薬や包帯、湿布なんかが並べれて居るが薬局で見かけるような薬は無い、有ったのは富山の置き薬タイプの薬箱だけ。    

 その薬箱から正露丸を抜き出すと蓋を開け、薬を取り出す、臭いを我慢しつつ口に含んで水で流し込んだ。

水はウォーターサーバーの物を使った、何故か電気が来ているようで、冷水とお湯はタンクの水が無くなるまでは使いたい放題だ。


薬品棚の次に手を着けたのはタンス、保健室に何故タンスと思わないでも無いが、中からは真新しい下着とジャージが出てきた。これが小学生ならおもらしした替えかなと思うのだが、何故高校の保健室に着替えがと疑問に思いながらもありがたく使わせてもらおう。


タンスの横の棚には大人用の紙おむつ、女性用の生理用品、粉ミルクが保管されてあった、使うことが無いように願うばかりだ。



 期待出来ないが、期待せずには居られない物に、冷蔵庫の存在が有る。冷蔵室を開けると水とお茶、それにスポーツ飲料水が入っていたが、他は冷やして置かなければならない薬や湿布の類しかない。冷凍庫はもっとシンプルにアイスノンと氷しか入って居ない、患部を冷やすのは当然の物品だろうと納得しか無い。


1番重要そうな棚が最後に控えて居る、防災マークが入ったそれは、今1番欲しい物が入っていると願うばかりだ。棚の1番上に並んでいた物は炊飯器、カセット式のガスコンロ、にガスボンベ、中段には真空パックされた米と缶詰、下段には防災カバンが5セット有る。


防災カバンの中身を確認すると、非常食が3食分、水500mlが3本、懐中電灯、ろうそく、ライター、ラジオ、万能ハサミ、軍手、毛抜、消毒液、脱脂綿、ガーゼ、絆創膏、包帯、三角巾、マスク、レジャーシート、ブランケット、タオル、ウェットティッシュ、ガムテーム、油性マジック、筆記用具、10円玉25枚。


役に立ちそうな物から、ただの重しだろうと思う物まで様々だ、この非常食に手を着けるように成ったらもうお終いだと考えた方が良いな。こんな場所に救助が来るとは思えなかった。


保健室の設備としてはシングルベットが3台、4人掛けのテーブルが1つ、椅子4脚、身長体重を測る器具、養護教諭用の机、パソコン、それと養護教諭の私物が入っていると思われるロッカー。


廊下に出る以外の扉が2ヶ所、1ヶ所は施錠されていて出入り出来ない、扉の位置から考えると倉庫だと思われる。もう1ヶ所の方の扉はすんなり空いて、中は洗面脱衣場になっていて、洗濯機と乾燥機が置かれている。脱衣室が有ると言うことは当然奥に浴室が有った、シャワーも有るから風呂の心配をする必要はこれで無くなったと一安心だ。


再び養護教諭用の机に座り、引き出しの中身を確認する、1番大きな引き出しの中からはあふれるばかりの駄菓子が詰まっていた。中でも1番ありがたいのは徳用チョコレートだろう、いざと言う時の保存食にも成る。他の引き出しは筆記用具と書類しか入ってなかった、今直ぐには必要の無い物ばかりだ。


1ヶ所鍵が掛かった引き出しが有る、強引に開ければ開かない事も無いのだろうけど、ひとまず後回しにして、養護教諭の私物の入ったロッカーの開封作業に移る。こんな時にも背徳感でドキドキしてくる、最初に手にかけたのはカバンで養護教諭の私物カバンに違いないだろう。


カバンの中には財布とスマホ、車の鍵、小さなメモ帳、家の鍵やロッカーの鍵なんかがごちゃまぜにされたキーホルダー、折りたたみの傘、カロリーメイト、歯ブラシに歯磨き粉、最後にコンドームの箱が出てきた。

・・・現物を見たのは初めてって訳では無いが、使いかけのコンドームの箱に思わず股間が熱くなる。


スマホはロックが掛かっていたから中を見る事は出来ない、メモ帳も流石に物色する気には成れなかった、鍵の束とカロリーメイトだけは使えるかも知れないと机の上に置いて残りのものはカバンに入れて元の場所に戻した。


私服が垂れ下がった下には折りたたまれて居たタオルが有る、これは使えるなとタオルを手に取っていると、タオルの下からは下着が目に入ってくる。もちろん、当然の事として下着を手に取る、洗濯した物のようで匂いや汚れは無い。何で下着がこんな所にと驚きつつも、下着の横に有った小さなポーチの中身も確認すると、生理用品が入ったポーチだった。


ロッカーの下段にはダンボールが入っていて、下着に続いて何がと期待て箱を開ける。カップ麺が入って居た、養護教諭の非常食だろうか、ありがたい事には間違い無いが、期待していた物とは若干違う。


下着とポーチは元の場所に戻し、カップ麺のダンボールだけは外にだした、他に何か無いかと探すのだが、出てきたのは写真立てくらいの物しか無い。写真はどうと言う事の無い風景の物で、なんでこんな物をロッカーに思い、写真を写真立てから取り出すと、中から全裸の女性の写真が出て来た。


写真の裏には京都にてと言う文字と2017夏休みと言う文字が見える、これが養護教諭の写真なら実物に会って見たかった物だと思った。写真はありがたく使わせて頂く事にした。


カバンから取り出した鍵の束、倉庫に合う物が有るかと一本一本確かめたがどれも合わない、他に鍵が掛かっているのは机の引き出しくらいの物だろうか。念の為机の鍵も確かめてみると、一本の鍵がすっと入って何の抵抗も無く回った。


 引き出しに鍵が掛けれた居た理由は中に現金が入っていた為だろう、銀行の封筒の中には5万円が入っていたが、だからどうしたのかとがっかりした。

他にはコンドームの箱も有ったが二回目だし驚きは無い、写真の類に期待したが残念ながらこの机には入っていないようだ。引き出しを引き抜いて中身をじっくり観察する、ナイフの一本でも入ってないかと期待していたのだが、そう云う系統の物は無かった。


引き出しを元の位置に戻そうとした時、引き出しの天板側にガムテームで何かが貼り付けて有った、剥がして確かめて見ると小型のUSBメモリーだった。


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