港区女子のレイ子さん

@mitsuki-c

第1話 青山霊園

深夜0時、青山通りを走るタクシー。

道路脇で白い服の若い女が細い手を挙げているのを確認し、運転手はハザードランプをつけながら減速し路肩に停車した。

無言で乗り込んできた女にミラー越しに尋ねる。と同時に、やけに色の白い女だ、と運転手は思う。


「お客さん、どちらまで。」

「青山霊園のほうまで向かってください。」


青山霊園と聞いてなんとなく背筋が寒くなったような気がしたが、女は青山霊園の“ほう”と言ったので、本当の目的地は別にあるのだろうと、とりあえず車を走らせる。


大抵の客は、だいたいタクシーに乗り込むとスマホを見始めるものだが、女は視線を落としてただうつむいている。気のせいか、女が乗り込んできてから車内が寒い。

昔からある怪談の類が頭を過ぎったがそれを思考の隅に追いやって運転に集中する。

そろそろ青山霊園だ。次の目印を聞かなければ。

「お客さん、すぐそこ青山霊園ですが、次は―」

ミラー越しに目をやった瞬間、言葉を失う。


そこに女はいなかった。


女が座っていたところが、しっとりと冷たく濡れていた。


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