第6話 猫猫通信
「うちらの情報が早いのは、比較的霊感ってやつがあるのが多いんだよね。初恋情報はお前のひぃじいちゃんに聞いたってわけ」
「俺が生まれた時には既に死んでいたひぃじいちゃんが……?」
千代が二コリと微笑みつつとんでもない事を言った。さらに千代が言うには、ひぃじいちゃんと初恋の子――トモリというらしい――のばあちゃんとマブダチだと言う。
ただマブダチになったのは俺たちが、幼稚園児だった頃――つまり千代は霊感があり、常にひぃじいちゃんたちとコミュニケーションとってるって事なのか……。
情報が早いのは猫ットワークじゃなくて霊界通信だったのかよ。
「そもそも化け猫って妖怪だもんな……。もう驚かないよ。トモリ……さん、って何で俺覚えてないんだろう……」
男は初恋の人を忘れられないってよく聞くのに。
「それはな。お前がそこらへんに咲いてる花を渡してプロポーズみたいな事を言った瞬間に、トモリにボコボコに殴られたショックで一週間押し入れに引きこもった後遺症だ」
千代がそう言い、長老もニコニコと微笑む。
「当時生きてた猫的には常識なのか?」
二人の様子に、俺が呟くと千代は「俺の家の情報は基本的に共有されてるからな」ととんでもないことを言った。
プライバシーを尊重してほしいものだ。
しばらくして顔合わせの為に来ていた年若い猫や、飼い猫たちが家に帰っていった。残ったのは長老、若頭、千代、俺と数匹の猫だけだった。
今日はとんでもない話ばかり聞いて少し疲れてしまった。
「そういえば、ひぃじいちゃんって今もいるのか?」
「ひ孫が可愛いらしくて、基本的にお前ら姉弟を見守ってるぞ」
「へぇ」
霊感がある人間は信用できないけど、霊が見えるって妖怪が言うなら信じてみようかな。
「でもお前がスカートはいてる時は見守りつつも目をそらしてるぞ」
「姉ちゃんがストーカーしてるのは看過できるのに?」
千代と長老が、俺の方を見て――だけど全く視線が合わない。俺の頭の横を見ているような……、恐ろしく思いつつ他の猫を見ると若頭とはばっちり目が合う。こいつは俺に喧嘩を売っているんだな、というのは伝わってきた。
「お前らに聞こえてはないけど、注意はしてるっぽいな。ただ、お前の趣味は……あれだ……、直視できないらしい」
「今時、俺みたいなのは普通だと思うけどな」
「にゃぁ」
長老がまるで慰めるかのように鳴いた。そうだ、誰にも迷惑を掛けずに、犯罪もおかしていない。かわいいものじゃないか、それに常にクオリティを上げようと色々と工夫している努力家だ。
むしろ誇りに思ってほしいのだが――。
そんな面白く思いつつも実のない話をしていたら、結局、家に帰るのは朝になってしまった。さすがに両親にバレて怒られた。姉ちゃんにも呆れられるし、散々だ。
「お千代さんがついてるから良かったものの……子供が夜遊びするんじゃありません!」
特に母には長いお説教をされてしまった。俺より千代の方が信用されているらしい、なんてことだ。
猫集会のせいで眠ることが出来ずに、ついにショッピング当日だ。
冷静に買い物が出来るだろうか……、緊張と睡眠不足からくる負荷でドキドキと心臓が音を立てている。
千代はすやすやと定位置の座布団で寝息を立てていた。毛並みが上下する。こうしてみると普通の猫と変わらず、とても可愛い。
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