化け猫お千代

夏伐

第1話 千代バレ

 うちではお千代という猫を飼っている。


 祖母が飼っていた猫で、生まれてすぐ死んだ祖母の姉の名前をつけたらしい。『千代』はだんだんと年を取り、千代さん、お千代、などと呼ばれるようになっていた。


 ずいぶんと年を食った猫で毛皮もボロボロ、尾はもうとっくに二本なんじゃないか? もう一本は見えないけど。


 祖母が死んでからは俺たち家族が千代と暮らすようになった。


 母は不気味がり、父は姉弟のように思っている。姉は猫なら何でも良いようだ。俺は、この間まで同居人くらいに思ってた。


 中学の友達に、猫を可愛がっている姿を見られるのは少し恥ずかしい。学校ではクールキャラだから。


 しかしそれもほんの数か月前まで。


 千代は俺に可愛がられるほど可愛い猫じゃない。


 今はお互いの秘密を共有するよく言えば理解者だ。


 俺は秘密をバラされたくない。お千代は高い餌を食べたい。お互いに利害が一致したってわけだ。



 俺の趣味はダンス。

 たまに動画投稿サイトにも上げている。そっちは問題ない。むしろ拡散したい。

 問題は投稿するまでの行動にあった。



「おい千代。今日、姉ちゃんの予定わかるか?」


「あ? 下部尿路結石に気を使ったパウチの飯は用意してるのか? 腎臓ケアでも良いがな」


 千代の野太いおっさん声を聞きながら賄賂を取り出した。


 餌皿に60円くらいで購入したパウチの餌を入れる。ちゃんと十歳以上の猫ちゃん用のものだ。


「健康に気を使ってるんですね……」


「当たり前だ。お前こそ気を付けないとあんな恰好で死ぬなど、この家始まって以来の恥だぞ」


「そんな生きてんのかよ?」


「お前よか年上だ。で、お前みたいな馬鹿、そうはいなかった」


 悔しいが反論はできない。


「現にこの町の猫に聞いたがこの町にお前みたいなハイブリットでアクティブな変人はいないそうだ」


 通りで最近、野良猫とすれ違う時『あ、あいつ……』みたいな顔で見られていたのか。全てはこいつが原因か。


「人間関係でストレスがたまるんだよ! わかるか!? 多感な思春期は一体何がきっかけで奈落につき落とされるか分からないんだ!」


 千代はペロリと餌を平らげて、ぼそりと何か呟いた。どうせ「なんでこんなのが母ちゃんの孫なんだろうな」とかそんな所だ。


 千代は祖母ちゃんのことを『母ちゃん』と呼んでいる。


 よく考えたらこの化け猫、俺たち家族の中で一番年食ってるな。そりゃ母ちゃんも不気味がるわ。

 ――まあそんなことは些細な問題だ。


「で―――姉ちゃんの予定は?」


「ああ、今日は学校帰りはいつもの写真撮影だ。夕飯時に戻ってくるからそれまでは大丈夫だ」


「よし……。また頼むぜ」

 

 


 俺は千代から情報を得て、安心して姉ちゃんの部屋に忍び込む。

 ある物を借りる。ちゃんと洗って返してるから問題ないよな。


 俺は千代に向かって言った。


「行ってくる」


「近所の人には見られるんじゃねえぞ」


 千代はそれだけ言うと昼寝に戻ってしまった。




 近所の人でもめったに行かない山奥にそれはあった。


 ボロボロの廃墟、――そこでCDをセットオン!

 流れてくるのはロックでポッピンなお経メドレー。

 それに合わせて体の動くままダンスを踊る。

 やはりスカートは開放感が違う……! 


 俺がお千代にばれてしまった趣味は『心霊スポットで女装してお経に合わせて踊る』こと。


 あいつにばれて以来、趣味ははかどるが猫の観客が増えてしまった。


 猫ットワークには今日も俺の噂話が流れてるようだ。

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