変わった殺人鬼

吐瀉丸

在りし日の言葉

不思議な女がいる。

そいつは売れない小説家で、いつも誰かが死ぬ物語ばかり書いていた。


「何故そんなものばかり書くんだ?もっと明るいものを書けばいいのに。」


こいつの家で紅茶を飲みながらそう問えば、この変わり者は少し古い万年筆を持っている手を止めて顔を上げた。また徹夜で書いていたのだろう、少し隈がある。あいつは俺の顔を見て少し驚いたようにした後、静かに笑った。


「劇的な死は素敵でしょう?自己犠牲は美しいでしょう?たとえそれは自己満足でも、物語をより面白くさせる。あぁ、だけど。」


そこで言葉を切ると、少し切なげに目を細めて窓の外へ視線を向けた。青い瞳が陽の光できらりと反射して、まるで涙を流しているように見えて少し胸がドキリと脈打つ。


「私の書いた物語は、私が作った世界だわ。その中で、何人も死んでしまった。私が殺したも同然ね。」


そう答えた後、あいつは紙に目を向けてまた書き始る。カリカリと紙に文字が綴られる音がなんとも眠気を誘ってくる。あぁ、やっぱりこいつは変わり者だ。所詮物語の中の話なのに。


俺は一冊の本を片手に持って席を立った。

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