〜破邪の剣の舞姫〜 時を越えて。4

向こうでそんなやり取りがある中、私は街に出て来た。


辺りを見回すと、大きな道にもこれといって舗装も全く無く、土で整備されている。



道の至る所には、窪みが出来ていて、そこには水溜りが出来ていた。



それを気にする事も無く歩く人々。



そして、見渡すと街並みには、木造の質素な造りで出来た家屋が建ち並ぶ。



その家々は、木を簡単に削って出来た様な屋根で出来ていて、風に飛ばされない様に大きな石で押さえ付けられてる。



そして、街中には色々な場所で薄着で野菜や魚を売る人や、丸裸の子供達が走り回る姿が有った。




で、でも……。



『やっぱり、ここって……。』




何とか追手から逃げられて、一息ついたのも束の間、私の眼の前には拭えきれない現実が在った。



城山公園や須賀神社の時から、何となく分かっていたけど、建物も人の格好も目に入るもの何もかも現代的な物など一つも無い。




信じられないけど、きっとそうなのだろう……。






タイムスリップ。



私、過去の時代に来ちゃったんだ……。




『こんな事が実際に有るのね……。』



でも何故私が……。



須佐之男命が言っていた、また逢えたと言う事と何か関係があるのかな?


ともかく、何とかして未来へ帰らないと。


でも未来に帰った所で私には自分で決められる未来などは無い……。



未来に未来が無いなんて皮肉でしかないな。




『あはは……。』



私は自分を皮肉る様に天を仰いで笑った。


自由と孤独が一緒に訪れた。


隆くんや華子やお姉ちゃんに会いたい。


掛けがけの無い、私の大切な人達……。


私がいなくなって、きっと心配してるだろうな。


でも私はどうすれば帰れるの?


もしかして、一生この時代で生きて行かないといけないの?


もう皆んなには会えないの?


もう、何が何だか分からない。


色々な事が頭の中で回っていて、涙がこみ上げて来る……。




私は、俯いて何処へ行く訳でも無くただ呆然と歩いた。




こんな時こそ上を向かないと、って思うけど上を向くなんて出来ないよ……。





その時だった。





どんっ!!





俯いて歩いていたら人にぶつかってしまった。




『アンタ、大丈夫かい??』



ぶっかってしまったその女性は心配そうに私を見つめた。



『えっ、あっ……、はい。ゴメンなさい。』



『ったく……。こんな物に当たったらどうするんだい? 美人が台無しになるよ?』




その女性は抜身の薙刀を担いでいた。



そしてまじまじと顔を見つめると、びっくりする程の美人だ。



衣は桃色がかった紅を少しはだけて纏い、美しく紅く長い髪を前髪をざっくりと切って結いもせずに、後ろ髪を靡かせる。


そして、燃える様な真っ紅な瞳……。


周りの取り巻く空気までもが艶やかに美しく感じる。



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『ん? どーーしたんだい??

アタシの顔に何かついてるかい?』



『あ、びっくりする程美人だったから、思わず見とれちゃって……。』




『あははははははっ!!』



その女性は途端に屈託無い顔で豪快に笑った。


きっと、飾りっ気の無いの無い人なんだろうなぁ。




『アンタ何さね? 何言うのかと思えば人の顔見て途端に美人なんてさ! 面白い子だね?』



『あ、うん。だってそう思ったから。』



『そうかい、そりゃ有難うよ。

ところで人の事は言えたもんじゃ無いけどアンタも女だてらに刀なんて挿して一体……。』




私は気配を感じ、その人の言葉を遮る様に辺りを見回した。



やっぱりさっきの人達が私の事を探している!!



『ふーーん……。

アンタも色々有りそうだね。早くこっちへ来な。』



『えっ??』



『良いから、悪い様にはしないよ。』


私はその人の言う通りに後をついて行った。




そして私達は路地から路地へ逃げて行った。



どうやらさっきの連中がまだ私の事を血眼になって探してる様だ。



ったく、しつっこいなぁ。



本当に何なの??



私、何もして無いし!!





『まあ、取り敢えずここまで来れば何とかなるかね。』



『あ、有難う。』



『しかしアンタぁ一体何をしたんだい?

ありゃ小山の武士達だよ??』



『小山の武士?』



って事は、ここはやっぱり昔の小山市って事の様ね。



『私にも分からないの。気が付いたらここに居て、気が付いたらあの人達に囲まれてて……。』



『なんだい? そりゃ??

アンタ、記憶が無いのかい??』



『ねえっ!!

お願い教えて! 今の元号は何年なの!?』



私は、タイムスリップしたという決定的な確証が欲しくて聞いてみた。


でも多分、この時代の人に西暦なんて言っても分からないのだろう。



だから元号なら分かる筈。




『え? 何そんな事聞くんだい??

ええっと、確か今は康歴の二年の筈よ?』



間違い無く、私はずっとずっと昔の小山市にいるんだ。



でも康歴って、いつの時代なのか検討もつかない。




『あの……。

今、この国で一番偉い人は誰なの?』



この質問が一番手っ取り早いと思った。



『ああ、天朝様がこの国で一番偉いけど、この国の政は京の居る三代室町殿の、足利義満様が執り行ってるよ。

しかしアンタ、何でそんな事聞くのさ??

本当に記憶が無いのかい?』





あ、足利義満って……。



あの金閣寺で有名な!?



ここは、足利義満の時代の小山市って事なのね。



私の生まれた時代よりも何百年も前……。




『記憶は有るけど……。

私、何も知らなくて……。』



『知らない? アンタ、何か訳ありな感じだね……??』



『う、うん。変な子だと思うかもしれないけど、私は……。』






『いたぞ~~!』




いけない!


小山の武士達に見つかった!



『しまった!!

アンタ、早く逃げるよ!』



『うっ、うん!』



『ちっ! 前からもかっ!!』



前方からも小山の武士達がやって来る!


囲まれてしまった!



『早くこっちへ!! あの路地から逃げるよっ!』



『う、うんっ!』




『あそこから逃げるつもりだぞ!

追えぇっ!! 逃すなっ!!』



前後から大勢の武士達が押し寄せて来る!


街の人達は何事かと慌てふためいて、散り散りに逃げて行った!!



『ええいっ! 邪魔だ! この婆がっ!!』




『ううっ……。』




『あっ!!』


蹲る様な声の方へ振り向くと、一人のお婆ちゃんが小山の武士に突き飛ばされて蹲っている!




な、何て事をするのっ!!



私は足を止めた。




『アンタ、止まるんじゃ無いよっ!!

さっさと逃げるよっ!

って、アンタ何処へ行くんだいっ!!』



私は、その女の人の止める声も耳に入らず、お婆ちゃんの元へ歩み寄った。




『お婆ちゃん大丈夫? 怪我は無い??』



『有難うよ娘さん。

わたしゃ大丈夫だよ。

でも危ないからお下がりなさい。』



『お婆ちゃん歩ける??

危ないから下がってて。』



『まさかこの婆の為に戻って来るとはな……。

小娘、観念して我等に付いて来い。』




こ、こんないたいけなお婆ちゃんを!!




もう絶対に許さない!!



私はキッと睨み付けた!




『ははは! 小娘如きに睨み付けられても怖くも何とも……。』



その瞬間、私が相手を一本背負いで投げ飛ばす!!



『ぐわぁ!!』



受身も取れずに地面に叩きつけられる!




『なっ……!』



仲間の武士達は呆気に取られている。



『くっ……! こっ小娘がっ!!』



投げ飛ばした相手がフラフラと襲い掛かって来る!



『はああぁっ!!』


私の回し蹴りが見事に炸裂し、相手は軒下へ吹っ飛ばされる!



『ちっ! 仕方ないねっ!

ここは強行突破しか無さそうだ!!』



『なっ!? なに言ってるの? あなたには関係無いんだから、あなただけでも逃げて!』



『な~~に言ってるんだよ! それにもう乗りかかった船だ! さあ、始めるよっ!』





そう言ってその女の人は前方の武士達に向かって飛び込んで行った!



『はああああ~~!』



その女の人は敵に構える暇すら与えずに、瞬く間に数人を薙刀で倒した!




つ、強い!




それに薙刀の残像がまるで月の弧を描いている様で美しい。




『斬っちゃあいないから安心しな……。』


そう言って、美しくも力強い眼で相手を睨みつける。



『おっ、己ぇ~~!』


その女の人の一撃で、敵は一気に殺気立ち抜刀する!



『お、おいっ! 皆、抜くな!!

命令を忘れたのかっ!?』



『命令だとっ!? 何を言うかっ!!

ここまで我等の面子を潰されてか!?』



『や、やめろ!!

丁重にお連れしろと命を受けてるのだぞ!!』



私も後から聞いた話なのだけど、この人達の行動は命令違反に思うかもしれませんが、どうやら室町時代は些細な事でいざこざが多くて、人情沙汰がかなり多いらしくて、領主も手を焼いてたそうです……。




『ごちゃごちゃ五月蝿いっ!』


そう叫んで私も武士達に向かって剣を抜いて走り出す!




『はあっ!!』


峰に返して撃ち込む!



『ぐっ……!』


一刀の元に崩れ落ちて行く。



『なっ!己ぇ~~!!』


もう一人が襲い掛かって来るが、ヒラリとかわして後頭部に蹴りを入れる!



『ぐう……。』


そのまま崩れ落ちる。



そして私達は、左程時間も掛からずに向かって来た全ての人達を薙ぎ倒した。





『『『おおっ~~!』』』



私達の戦う姿を見て、街の人達が一斉に歓声をあげる。




『あの二人凄えぞっ!!』



『ありゃ小山の武士達だろ??

やられっぱなしじゃ無ぇか!!』



『しかも見ろよ! 二人共女だぜ!』



武士達は面目を潰されて、更に殺気立っていた。



『やるねぇっ、アンタ!!

しかし、そんなに強かったんだね!

それにしても、女二人にやられっぱなしじゃ、小山の連中も大した事ないねぇ!!』



『な、何だとぉっ!! 己ぇぇ~~!』



『だから駄目だ! お前達まで抜くのか!!

止めるんだっ!! 』



『ならばお主は、ここまで我等を愚弄されて斬るなと申すかっ!』



『気持ちは分かるが、止めろと申しておるっ! これは命令だぞっ!』



『知った事かっ!!

これでは我等の面子が立たんっ!』



そう言って一人の武士が芸も何も無い上段で私に斬り掛かって来る!


こんなの受けるもかわすも必要無い。



『はああぁぁ!!』



私は襲い掛かる相手に向かって走り出し、剣を地面に突き刺し軸にしながら勢い良く飛び込んで、相手のみぞおちに飛び蹴りを浴びせた!


簡単に言うと、走り高飛びの要略だ。



『ぐ、ぐはぁっっ……!』


そのまま勢い良く吹っ飛んで崩れ落ちて行った。



私はゆっくりと起き上がって、残った小山の武士達を睨みつける。



『な、何なんだこの娘達は……!』


『つ、強すぎる……!』



呆気に取られている今が逃げるチャンス!



『さあ、今よっ!』


『あいよっ!』



私達は囲みを切り崩して北に向かって走り出した!







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