第7話 酒場にて⑤ ルーク視点
いつだって凛として他人を寄せ付けない彼女がこんな無防備でとろんと蕩けた表情を僕に見せている。
彼女は美しい人形のように綺麗に整った顔立ちだから、破壊力が凄まじい。
それに彼女は意図していないだろうけれど、男心を擽る色っぽさもある。
そして、いつも弱音なんて吐きそうにない彼女が弱ってその辺の子達と同様に愚痴を吐いている。
僕が知っている彼女の姿と違い過ぎて激しく動揺する。
王城で主催される記念式典で見かけた彼女はいつだって背中をピンと伸ばして、何をやっても何を話させても気品と知性が溢れるどこに出しても恥ずかしくない正真正銘一流の淑女だった。
今日たまたまここに居合わせたのが僕だったから、こんな表情や姿を見られたのは僕だったけれど、こんな姿を僕以外の男に見せるところを想像すると何だかモヤモヤした。
彼女から特別に許されたシルヴィ呼びも同じく他の男に言うところを想像するとモヤモヤした。
――そこまで考えてはっと気づいた。
僕は彼女に惹かれている、と。
彼女とこんなに近づいて会話をしたのは初めてだというのに。
長年ずっと女性不信で女性嫌いだったというのに。
あまりの自分のチョロさに思わず自嘲の笑みが零れる。
今まで立派な淑女の姿しか見たことがなかったけれど、それは理不尽に耐えながら頑張った彼女の努力の賜物で。
その努力を
――決めた。
彼女は僕のものにする。
とりあえずジントニックを飲みながら彼女の質問に答える。
「僕はただ単に飲みたくて。最近ゆっくりする時間もなくて息抜きがてらここに来たんだ。このお店は常連だから勝手もよくわかっているしね。まさかシルヴィみたいな可愛いお嬢さんにこんな場所で会うと思わなかったけれど」
僕はわざとらしくウィンクを飛ばしながら、質問の答えを返す。
「もう……! からかわないで~! ルークだってすごく整った顔立ちじゃないの~」
僕が彼女を可愛いお嬢さんと言ったら照れて僕の胸元をぽかぽかと叩く。
全く力は入っておらず、まるで子猫がじゃれているみたいだ。
それからも僕とシルヴィはグラスが空になる毎にセバスチャンにカクテルを注文し、飲みながら彼女との会話を楽しむ。
お互いの趣味嗜好、お互い行ったことがある外国での体験、最近ハマっているもの等話題は尽きなかった。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、気づけば日付が変わるまであと三十分ほどだ。
「これは私からのサービスです。もう夜も更けて参りましたので、そろそろお姫様はお帰りのお時間ですよ」
セバスチャンがサービスでくれたのはシンデレラだ。
アルコールは入っていないミックスフルーツジュースのようなカクテル。
カクテル名と同じ名前の童話『シンデレラ』は主人公が日付が変わる時間にお城から屋敷に帰る。
童話の内容と今の状況をなぞらえている。
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