第4話 酒場にて② ルーク視点
フィリップの誕生日パーティーは不参加にしたけれど、久々に外でゆっくりと飲みたい気分なので王都の商業地区にある馴染みの
ここは平民が仕事終わりに仲間内でギャーギャー騒いだり、男女のグループで楽しくわいわい酒を飲むのではなく、一人ないしは気心の知れた少人数で静かにお酒を楽しむことを目的としているお店なので、僕みたいなお忍びの貴族令息や令嬢が息抜きに利用することもある。
店の外観も店内も大衆酒場とは全く様相が異なり、敷居が高いと思わせるレトロな煉瓦造りの建物に、店内は高級な木材で作られたカウンター席に照明は控えめという木のぬくもりを感じさせつつもムーディーな雰囲気だ。
中途半端に王弟だとバレて騒がれたくないので、ありふれた茶髪のウィッグをつけて、深めのキャスケット帽子を被り、あからさまな金持ちではなく、ちょっとした金持ち程度に見える地味な色合いのジャケットとスラックスで
お店のドアを押すと客の入店を知らせるベルがチリンチリーンと鳴り、マスターがやって来る。
「これはこれはルーク坊ちゃま。お久しぶりですね。息災でしたか?」
マスターはにこやかに僕を迎え入れた。
この
彼は自分のお店を持つことが夢だったようで、約6年前に執事を辞めてこのお店を開いた。
前職の執事で客人相手のおもてなしの技術はしっかりと磨かれているので、
現にこのお店は客に対する配慮やサービスがしっかりと行き届いており、僕でもまたあの雰囲気のお店でゆっくり酒を楽しみたいと思うほどである。
お店の落ち着いた居心地の良さにそう思っているリピーター客は少なくはないと思われる。
執事を退職した今でも彼にとっては僕は坊ちゃまらしく、来店する度に”ルーク坊ちゃま”呼びだ。
因みに今現在の僕の家であるベレスフォード公爵邸で執事を務めているのはセバスチャンの息子のアーロンである。
「久々だね、セバスチャン。僕は元気にしていたよ。今日は久々にゆっくりここでお酒を飲みたい気分だったから来てみたんだけど、席空いてる?」
「今、お嬢さんがお一人でカウンター席におられますが、それ以外はお客様はおりません」
「わかった。席に案内してくれる?」
「畏まりました」
セバスチャンの案内でカウンター席に連れて行かれた僕はそこで思いがけない人物がいることに驚いた。
一人で飲んでいた女性はシルヴィア・ローランズ公爵令嬢――フィリップの婚約者にして、今ここにいるはずがない令嬢だったから――。
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