序章
序章【プロ々オグ】
鈍い銃声が響いた。
切れかけた緑の室内灯が、レンガ造りのその部屋をチラチラと照らしていた。右足を撃たれた男は、呻き声を発し、床に倒れ込んだ。熱い銃口が白煙を吐いている。
外套の頭巾を目深にかぶった仮面の襲撃者が、部屋の入り口を離れ、撃たれた男へと近づく。
場所は、戦後首都アズマ
だが、と襲撃者は思った――先程の銃声で、この
「待ってくれ! お前の目的は分かっている。これだろう? これなんだろう?」
男はよろめきながら立ち上がり、部屋奥の
「複写生命管理法! 取り下げる! これは、議会に掛け合って取り下げる! だから……」
痛みに涙を流しながら、男は懇願する。
襲撃者の表情はベネチアンマスクに閉ざされて、何を考えているのか、はた目には全く分からない。しばらくの沈黙の後、襲撃者は男の真正面に銃口を向けた。
「っ……!」
男が声を上げる間はなかった。そして銃声。そして血しぶき。
男が持っていた文書の束が宙を舞い、床一面に散らばる。穴の開いた心臓から溢れ出した鮮血が、紙面を紅く染めていく。インキで綴られた大仰な文字列が、黒く滲んでいく。男はその上で、物言わぬ死体に成り果てた。
外套を
二発。二発の銃弾が、国会議員ソウジ・アイゼンの命を摘み取り、事の始まりを告げた。
全てはここから始まった。
複写生命【ふくしゃ‐せいめい】(名)
遺伝子情報を基に、同一の生命体を復元・複製したもの。その総称。
→関連語 複写人【ふくしゃ‐びと】複写生命技術によって作られたヒトの呼称。
引用『大辞界 第十七版』
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