エピソード11 ワルプルギスの夜1
「ここが私の屋敷よ、遠慮せず入って」
ウィッチミカの案内で辿り着いたのは樹々に囲まれそびえ立つ大きく立派な木造の家屋だった。
外壁には蔦がまとわり付いており童話に出て来る魔女の家を彷彿とさせる少しおどろおどろしい外観をしている。
屋敷は母屋と離れがあり敷地もかなり広大だ。
横にはちょっとした庭園があり、様々な草花が咲いている。
そしてその敷地を取り囲むように鬱蒼とした深い森が存在していた。
「『魔女ライフシミュレーション』を謳っているこのゲームはね、魔女として色々な経験と実績を積むと自分の森がどんどん大きくなって更に出来る事が増えていくの……楽しそうでしょう?」
「はい!! そうですねミカさん!!」
「ダメよ、ここではウィッチミカと呼ばなきゃ、ねぇアキちゃん」
「はい!! ウィッチミカ!!」
ミカのイエスマンと化しているウィッチアキマサは瞳を爛々と輝かせ元気よく賛同する。
「おいアキマサじゃなかったアキ、目的を見失うなよ? ナイトオブワルプルギスにはゲームを楽しむために登録したんじゃないんだからな」
「分かってるってコウ、いやウィッチコウそんな怖い顔するなよ」
ウィッチコウの目つきが据わっている。
割り切った気でいても先ほど抱いたミカへの疑惑と疑念が消えないからだ。
「みんな色々あって疲れたでしょう? 今お茶を入れるから少し休むといいわ」
「はい!! ウィッチミカ!!」
「アキマサ……ウザい」
ウィッチシンディのウィッチアキを見つめる目は何か汚いものを観たかのように淀んでいた。
程なくしてウィッチミカが淹れたハーブティーが客間のウッドテーブルに並んだ。
ミントに似た独特な香りが部屋全体に漂う。
「はいどうぞ、疲労回復効果のあるハーブを使ったお茶よ」
「頂きます」
一同はカップを持ちお茶を口に含む。
「あっ、これ美味しい……」
口元を押さえシンディの目がハッと見開かれる。
「へぇ、俺は普段こんな小洒落た物は飲まないんだけどたまにはいいもんだな」
ケンジ、否ウィッチケーンも大層気に入り一気にお茶を飲み干してしまった。
「さあキャシーもアキもどうぞ」
「もちろんですとも!! 頂きます!!」
ウィッチアキはカップの取っ手を持つとお茶を一気飲みをした。
「………」
ウィッチキャシーはちびちびとお茶を啜っている。
「コウもどうぞ」
「………」
ウィッチコウは勧められたにもかかわらずお茶に手を付けようとはしない。
「どうしたの? 飲まないの?」
「いえ、ちょっと気になる事がありまして」
「何?」
コウの表情が神妙なものへと変わっていく。
「この『ナイトオブワルプルギス』に僕ら男がログインできたのはミカさん、あなたの仕業ですよね?」
「どうしてそう思うの?」
「アナザーリアリティが性別を偽ることが出来ない仕様なのはミカさんもご存じですよね?」
「もちろん、サービス内での性犯罪防止の観点からと公式も見解を示しているわ」
「なら何故僕らはここに入れたんです? ここへ来た時にミカさんは僕らも入れると既に分かっていた風に見受けられたのですが?」
「カンよカン、今のアナザーリアリティは正常ではないんですもの、もしかしたらと思って試してみたらたまたま上手くいったのよ」
ミカはにっこりと微笑んでいる。
その表情から内面で何を考えているのかは残念ながら読み取れない。
「まあ今の所はそれで良しとしておきましょう、時間稼ぎにもなりましたし」
「………」
時間稼ぎと言う言葉を聞いた途端、ミカの表情が曇る。
「ふぁっ……何だか眠くなってきたな……」
アキが欠伸をしながら目を擦り始める。
「色々あったからね、疲れたのよきっと……」
シンディもソファにもたれ掛かると目を閉じる。
「スウ……スウ……」
「グォガーーー……」
キャシーとケーンは既に眠りに落ちている。
そしてとうとうコウとミカ以外は全員まどろみの中へと落ちていく。
「さっきのハーブティー、睡眠薬が入っていましたね?」
「気づいていたのね、流石だわコウ」
ミカの表情から笑みが消え失せる。
「ミカさん、僕らを眠らせた後どうするつもりだったんです?」
「……はぁ、分かったわ、全て話します……それはワルプルギスの夜の開催の為よ」
コウに睨みつけられミカも観念したようだ。
「ワルプルギスの夜? それはこのサービスの名称では無いんですか?」
「その単語の意味する所はそれだけでは無いのよ、このゲームの上位ランキング七位までに入った魔女によるお茶会の事もそう呼ばれているの」
「確かに過去の世界の一部の地域で魔女のお茶会の事をそう呼んでいたと資料で呼んだことはありますが」
「流石コウ、博識ね、ただ今日は本来の開催日では無いから緊急招集って事になるけど」
「それでそのお茶会ではいつもは何をしているんです?」
「ナイトオブワルプルギスの運営方針なんかを話たりするわね、大概は話が脱線しておしゃべりタイムになってしまうのだけれど」
「プレイヤーがゲームの運営方針に意見するんですか?」
コウの表情に驚きの色がありありと浮かび上がる。
「普通では考えられないわよね……でもねあまり公には出来ないのだけれど上位ランク不動の一位、ウィッチサマンサは実はこのゲームの開発者、運営側の人間の一人なのよ」
「何ですって!? そんな公私混同した行為が許されるんですか!?」
コウは興奮気味にミカに食って掛かる。
「だから公に出来ないって言ったでしょう? 本来は上位ランカーだけが知っている口外無用の暗黙の了解なんですもの」
「はぁ……今その事を糾弾しても始まらないし建設的ではないですよね、それでミカさんはそのお茶会をこれから開催して何を話し合うって言うんです?」
「ご免なさい、今は言えないの」
「どうして!? この期に及んでそれは無いでしょう!?」
コウはミカの両肩を掴み力強く揺さぶった。
「ミカさん!!」
「分かったわよ……その事については定例会で話すわ、本来は上位七人だけしか入れないお茶会だけれど特例であなたも入れるようにするから同行して頂戴」
それを聞いてコウはミカから手を放した。
「今から会議場に向かうわ、付いて来て」
コウがミカに付いていくと庭先の一本の大樹の前に来た。
幹の中心に大きな穴が開いており、そこには極彩色の渦が巻いている。
「これは私専用のワルプルギスの夜の会場への直通ワープゲートよ、私が入った後に間を開けずに入って来て」
「分かりました」
ミカが穴に吸い込まれたのを見届けたのちコウも後に続く。
「これは……」
軽く眩暈を覚えながら星空の様な空間を高速で移動する。
「気持ち悪い? すぐに着くから我慢してね」
ミカがそう言うか言わないかの内に眩い光に包まれる二人。
気付けば明るい日差しのさす緑の芝生が生える広場に出た。
「どうやら一番乗りの様ね」
芝生の中央には円卓がありそれを取り囲むように七つの椅子が並んでいた。
「ご免なさいねコウ、元々店員が七人だから椅子も七つしかないの、あなたには悪いんだけど私の側に立っていてもらえる?」
「気にしなくていいですよ、無理言ってどうこうさせてもらっている身です、それくらいなんともないです」
そう言ってコウはミカに寄り添うように傍らに立つ。
「あら、先客がいたわね」
ミカに話しかけてきたのは赤紫のローブと帽子を身に着けた小柄の少女風の魔女だった。
「ウィッチタバサ、お久しぶりね」
「お久しぶり、所で隣にいる可愛い子はどなた?」
ミカがコウの脇腹を指でつつき挨拶する言うに促す。
「はっ、初めまして、魔女見習いのウィッチコウです、宜しくお願いします」
妙に緊張してしまい声が裏返ってしまう。
「ウフフッ、緊張しちゃって可愛いわね、この子がミカの弟子って訳?」
「そうね、今日から入ったばかりの新人だからお手柔らかに頼むわね」
タバサはコウのすぐ近くまで近寄ると値踏みする様に彼女の身体を見回した。
コウはさらに緊張し、男だとバレないかと身構え身体が硬直する。
「ふぅん、ミカがここへ連れて来たって事は相当見込みがあるって事なんでしょう
……改めまして私はタバサ、よろしく頼むわね」
「はい」
タバサが離れた途端、一気に緊張が解けるコウ。
「何事なの? 緊急招集なんて」
「きっとAR内の騒動の事でしょう?」
続々と魔女たちが草原に現れた。
そして先ほどのタバサとのやり取りとほぼ同じ事をこの後四回繰り返すことになった。
コウにとっては堪ったものではない。
そして付き添い扱いのコウ以外に六人の魔女が円卓を囲む椅子に着席した。
そして程なくしてもう一人。
最後に現れたのは薄紫色のロングヘアーで右目を隠した赤目の魔女だ。
豊満な二つの胸の膨らみ、キュと締まったウエスト、堂々としたヒップ。
圧倒的な女性としての存在感を放っており、それ以上に威圧感と言うか只ならぬオーラのような物さえ感じ取れた。
彼女の姿を見た途端、全ての魔女が立ち上がり最後の魔女を迎える。
「……コウ、彼女がウィッチサマンサよ」
(……ゴクリ)
これからワルプルギスの夜が始まるのだ。
アナザーリアリティ~もう一つの現実~ 美作美琴 @mikoto
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