詩「残夏と氷」
有原野分
残夏と氷
頭の中に蓄積された静電気は
電灯に透かしたかき氷であり
ひび割れた極小の決して交わらない氷の音の
招いてはいけない砂嵐がドアを叩くのです。
(これらは決して眠ることのない夜
)
お前はわたしたちに何か提示する
お前は一体何を伝えに来たのだろうか。
「乾き切った思い出が一粒あって
顔のない少年が訪ねて来ます。
懐かしの校庭にポプラの葉が揺れて
その上に雨が降ってきました。
玄関のチャイムが鳴りました。
ドアを開けていいかどうか
私はお母さんに聞かなくてはなりません
。
」
夜空に浮かぶお月さまの右上に
あなたの小さな耳についていた
ピアスのような星が浮んでいたから
わたしはそっと手を伸ばして
指をイッショケンメイ伸ばして
お月さまから星の距離を測ってみようと思っ
た
の
「
――約20センチ…
たったその小さな距離の
誰が決めたのかも分からないような
その距離感がわたしたちを苦しめる
2 0 セ ン チ
それは悲しみの距離だ
浴室に水滴が垂れる
真夜中だろうが
留守にしていようが
ポタポタと水が垂れる
その音を聞きつけたムカデが壁を這い
高さ20メートルの絶壁を乗り越えて
かさかさとベランダに卵を産んで
わたしたちに何か提示する
お前は一体何を伝えに来たのだろうか。
お前は一体何を伝えに来たのだろうか。
言葉にできないもの同士のその弾みから触れ合うことのない視線の先に今夜も空には雲が覆い被さっていく
。
頭の中に蓄積された静電気は
電灯に透かしたかき氷であり
ひび割れた極小の決して交わらない氷の音の
招いてはいけない砂嵐が今夜もドアを叩くの
です。
(
)
詩「残夏と氷」 有原野分 @yujiarihara
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