キミの手の中

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キミの手の中

 まずはとりあえず、自己紹介をしておこうかな。

 私はごく普通のシャープペンシルだ。

 メタリック調の赤色のボディに、特徴と言えばアタマの部分をねじると消しゴムがにょきにょき伸びて来るの。ほら、あれ。リップクリームみたいな感じでね。

 一般的なシャープペンの、頭のキャップを外して出てくる固くて小さくて消えづらい消しゴムとは一線を隔す感じで、きれいに消せるし長持ちする。

 カレは私のそこを好きになって手元に置いてくれたのだと思う。


 カレのことにもちょっと触れておこうかな。

 中学三年生。この間返ってきていたテストの点数を見ると、成績は可も不可もなくって感じみたい。

 物静かではないけれど、賑やかすぎもせず、簡単に言えば地味なタイプだ。

 身長は他のクラスメイトと比べると、どちらかと言えば小さくてひょろっとしている。

 でも、手が大きくて指もすらっと長くてかっこいいから、きっとこれから背も伸びるはず。


 そんなカレの手に収まって、私はうまくやれていたと思う。

 カレは私を使ってノートに書いた文字を、付属の消しゴムで消した。

 それは単独の消しゴムを使ったほうが良いんじゃないの? って感じの広範囲の修正も私の頭の消しゴムを使ったりしてた。

 しばらくすればさすがに、小さな部分消しのみにはなったけれど、余分なところを消さずに済むので重宝してもらっていた。

 それなのに、カレはいつしか私を眺めて首をかしげるようになった。

「何か不具合でもありましたか?」

 なんて聞けたらいいけど、実のところ、当たり前だけれど、私の言葉はカレには届かない。

 そして万が一届いたとしても、話しかけて来るシャープペンとかホラーじゃない?

 機能に問題なくても捨てられそうだ。まさかシャープペンに自我があるなんて思ってないだろうしね。

 ということで、カレの考えはわからないまま、とりあえず使ってはくれている彼の手の中で職務を全うする日々だった。



 そんな日々がしばらく続いたあとの休日。

 カレは新入りを連れてきた。新しいシャープペンシル。

 カレはいそいそとノートを開き、その新しいシャープペンでぐりぐりと試し書きをしている。

 どうも、使っても芯が丸くならないという優れものらしい。

 らしい、というのもその新入りは残念ながら私のように自我を持っていないタイプだったからで、その能力を直接教えてもらったわけではなく、新入りが梱包されていた台紙の説明書きをちらりと読み取っただけだから。

 うれしそうに新入りを使うカレを見て私はこっそり溜息をつく。こっそりしなくても、カレには聞こえないけれど、気分的にね。

 短い寵愛だったなぁ。まぁシャープペンの本分は消す方じゃなくて書く方だし、新入りを重宝するのも仕方ないとは思うのよね。実際。

 カレの勉強がはかどるのが一番、おとなしく身を引こう。

 なんてことを殊勝気に考えていた私と新入りの二本を手に取ってカレはしげしげと眺める。

 しばらく見比べていたカレが一つ頷いてにっこり笑った。

 その笑顔に不穏なものを感じた。

 それが正しかったことは、直ぐに判明した。


 カレはカッターを取り出すと、まずは新入りを、文字を書くときに握る辺りで切断し始めた。

 えぇと、すごく嫌な予感がするんですけど、これ。

 新入りは芯を入れる内臓部分はペン先の方へ残して真っ二つという無残な姿にされ、それを満足げに見た彼はおもむろに私に手をかける。

 そうですよね。次は私の番ですよね。知ってた!

 幸い、私は自我はあるけれど痛覚はないから半分にされても痛くも痒くもない。けれど決していい気分ではない。何してくれてるのよ、って感じ。使われなくなっても、平穏無事に天寿を全うしたかったなぁ。

 ……まぁ、半分になっても自我はあるんだけどね。シャープペンの自我はどちらに宿るのかって問題よ、半分になった場合。

 私は消しゴムに特徴があるせいかしら。上半身に意識があるみたい。でも書く部分がないのって変な感じ。アイデンティティにかかわるわよね。消すことしかできないなんて、シャープペンじゃないじゃない。

 そしてカレはばらばらになった私と新入りを接着剤でくっつけた。

 軸の太さがほぼ同じだから見た感じは、それほど違和感はないけれど、私としては落ち着かない。

 とりあえず新入りに自我がなくて良かったけれど。もしあったとしたら、どうなったのかしら。二重人格みたいになるのかな。



 ということで改造された新生「私」はにょきにょき伸びる消しゴムを持った上、書いても書いても芯が尖ったままという機能を兼ねそろえることになって、今日もカレに愛用されている。

「そのシャーペン、良いね。便利そう」

 カレの隣の席の女の子が私を見てにこにこと声をかけてきた。

 カレは満更でもなさそうに笑って、得意げに説明する。

「良かったら、戸ヶ崎にも作ろっか?」

 カレの手の中、こんな風に仲良しのきっかけになるなら悪くないかもねって、今は思ってる。


                                   【終】

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