転生者カモノハシ〜拝啓、母上様。ボクは異世界で聖獣として生きていきます〜

@bai-king

プロローグ

カモノハシ、死ぬ

 ここは、オーストリアのとある動物園。


 なぜオーストラリアが舞台なのか? 至極簡単なことで、ボクみたいなデリケートなは生き物は、日本の動物園にはいないからだ。日本に輸送される間に、死ぬ。というワケで、ボクの姿をナマで見たいならオーストラリアへおいで。

 

 今日も今日とて、ボクのコーナーは大盛況。みんな、ボクの愛らしい姿を見に人間たちが集まっている。


 ……だったら、どんなに良かっただろうか。

 


「このカモノハシ……チョウメイって名前なのね。ヘンな名前」


「なんかジャパンの偉人に因んでいるらしいよ」


 キラキラした女子高生がボクの前で話している。


 そう、ボクの名前はチョウメイ。カモノハシのチョウメイだ。一般公募とやらで決まったらしい。


 この名前自体は、結構気に入っている。他の仲間のカモノハシは、ケビンとか、マックスとかありきたりな名前をつけられているし。ボクの名前は何というか、オリエンタルでいい。



「『カモノハシ』はヘンテコな生き物なんだ! 哺乳類なのに卵を産んで、足には毒の爪を持っていて……」


 

 なんとも軽薄そうな男がボクを指差し、隣の女の子に語り掛けている。あ~あ、女の子の方はウンザリしているじゃないか。さては、今日一日いろんな動物のウンチクを聴かされたな? 『フラミンゴが片足立ちするのは冷え性だから。交互に足を体にくっつけて温めている』とかね。ていうか、フラミンゴもバカだな、自ら水から出ればいいのに。



「ママ~見て、ヘンテコな生き物がいるよ~」



 幼稚園児くらいの子供が、ボクを指差しそう言った。

 

 無邪気な光景だ。だが、その無邪気さが人を……いや、カモノハシを傷付けていることに気付くのはいつになるのだろう?

 

 しかし、ボクにはそれを確かめる程の余命は残されていなかった。

 

 なぜなら、ボクはこの10秒後に檻から脱走したライオンに食い千切られることになるからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る