五人目 最後の復讐は地獄への招待 その五

 今度は、磔にして未だに意識を失っている一ノ瀬。その周りには、無数の様々な形をした剣が地面に突き刺さっていた。


 磔にされている一ノ瀬の目の前に立ち声をかけ起こす。


「起きろ」

「……んっ、あ、あれ? 俺、確か腕と脚が……」

「目が覚めたか?」

「あ? お、大磨弟……!」


 僕を認識すると寝ぼけ眼だったのが一瞬で怒りの形相に変わる。


「よくも、俺にあんなことをしてくれたな! 腕と脚を……ってなんで腕も脚もあるんだ⁉ ど、どうなって……⁉」

「いちいち説明をするのも面倒だな。四肢は治療して元通りだ。だが、またすぐに失うことになるだろうけど」

「な、何を言って……? 失う? ちょっと、待て! また引き千切るって言うのか⁉ 嘘だろ⁉」


 怒りから恐怖へ。相当に、引き千切られるのが堪えたようだな。

 でも、あれで終わりじゃない。あの程度で済むはずがない。


「これから何十回、何百回と死ぬ思いをしてもらう。何度でも治療して身体を再生、意識を持たせて正気でいさせて。そうして、永遠とも思える苦痛と恐怖と絶望を味わえ」

「じょ、冗談だろ⁉ そ、そんな思いしたくない! 俺が悪かったから! 許してくれ! 死にたくない! 死ぬ思いなんてしたくないっ!」


 貴様の意見など聞くものか。


 僕の後ろで控えている三人へ視線を送る。

 始めろ、と。


 僕はその場を離れ、グレモリーが事前に用意してくれた椅子に座りこれから行われる拷問を眺めるだけ。


「それでは始めましょうか」


 グレモリーが引き抜いた剣は先が十字になっていた。


「お姉さんは、これにしようかな~」


 アスモデウスが握る剣はレイピアのように刀身が細い。


「俺はこれだな」


 バアルが肩に担ぐのは大剣。


 それぞれ、剣を握るとその刀身に炎を纏わせる。

 何が起きるのか、想像すらしたくないであろう一ノ瀬は身体を震わせ今にも泣き出しそうに。


 せいぜい、突き刺され斬られる痛み、焼かれる痛みの両方に耐えて見せろ。


 最初に動いたのはバアルだった。大剣を突き出すように構え、躊躇いなく一ノ瀬の腹部を貫く。


「ウッ、ゴブッ! ううぅあががっ! おえっ、ああああああっ!」


 口から血溜まりを吐き、痛みで叫ぶしかない一ノ瀬。肉を焼く音、臭いが僕の下まで届く。バアルは、貫いた剣を一気に引き抜く。腹部は穴が空きそこから血が滝のように流れていく。


「簡単には死なせないから、俺たちを心ゆくまで楽しませてくれよ人間」


 引き抜いた剣に付着する血を舌で舐め取り、涙を流し歯を食いしばる一ノ瀬に言うバアル。


 バアルの次はアスモデウス。細い剣を二本持ち、太ももに突き刺し下へゆっくり引き裂いていく。


「うううぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいっ! ああっ! ああああぁぃぃいいいいいぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!!」


 顔を上へ向けて食いしばる口からもれる悲痛な声。手は痛みに耐えるためか握り拳を作り、磔にした縄が腕に食い込むのも気にする余裕がないくらい力を込める。

 太ももから血が溢れ滴り地面に血溜まりを作っていく。


「もっと泣いて、痛がって叫び鳴いてほしいわ~」


 返り血を浴びようが恍惚とした表情で、腰を揺らし甘い声を出すアスモデウス。

 太ももから足先までくると剣を引き抜きグレモリーへとバトンパス。


「まったく、貴方という悪魔は。でも、痛がり恐怖に染まっていただけないと困りますからね。主の望む復讐、そして私たちが求める魂は生きる意味も理由も何もかもを失い、自ら殺してくれと懇願した、死へと染まりきった魂ですので」


 グレモリーがアスモデウスに呆れつつもそう語る中、十字の剣は肩を刺し、首にも剣先が届き突き刺さる。


「ガハッ……。ヒュッ……。んぐっ、あぁっ、んんんんんんんんんんんんんっ……!」


 首に剣が刺さった影響で、言葉を発することもできず浅い呼吸を繰り返し喉から声を絞り出す一ノ瀬。


 そんな姿を見つめるグレモリーも、アスモデウス程ではないが頬を赤らめ笑顔だった。


 ここまでやっても一ノ瀬は死ねない。傷ついた肉体は再生を繰り返し治療され続ける。いくら血を垂れ流し、出血量が多くてもそれすら悪魔の魔力によって流した分の量が元に戻るのだから。


 目、鼻、口からも血を流す。目の前に広がる光景から視線を逸らすことも許されない。


「ぢ、ぢな……じで、ぐれっ……! ぢ、ぢに……だいぃいいいいっ!」


 悲痛で必死な願い。しかし、その思いすら悪魔にとっては楽しむためのスパイスでしかない。現に、グレモリーもアスモデウス、バアルは嘲笑い手を休めることなく剣を突き立て、斬り刻み、抉り、穿ち、笑っているのだから。


 それに、僕はまだ貴様を死なせるつもりはない。


 死にたいといくら願おうが、殺してくれと懇願しようが、貴様の思いを聞き届けたりなどしてやらない。


 何度も肉体を再生され、剣で突き刺され斬られる地獄が終わる。身体には傷一つない元の状態へ。思考回路は正気へ、全身の感覚は正常に引き戻し次なる地獄へ招待する。

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