五人目 最後の復讐は地獄への招待 その三

 一ノ瀬を連れて来た新たな異空間は、大釜がそびえ立つ場所。その中身は赤く煮え渡る液体だった。人が百人近く入る大きさの釜の中に、一ノ瀬を担ぎ上げ放り込むバアル。


「おい、待て! 冗談だろ! まっ――あっ! あちっ! 熱っ! 熱い熱いっ!!」


 その釜の温度は灼熱。入れられた瞬間、全身を刺されるような感覚と焼く痛みが襲うだろうな。長く入れば火傷では済まない上に、足がつかない深さでもがき苦しむといい。


 グレモリーとアスモデウスは、成人男性の身体程の太さがある長い棒を持ち釜の中身をかき混ぜ始めた。


「あつっ! おい、助けろ! ふざけんなよ!」

「うるさい男ですね。少し、口を塞ぎましょうか」

「はあ⁉ 助けろって言って――うんぶっ⁉」


 叫ぶ一ノ瀬を口を塞ぐために、棒で頭を煮えたぎる液体の中に押さえ込むグレモリー。


「ンガアッ! ブグッ……! ンンンンンンンッ!!」

「お肉をもっと柔らかくしましょうね~。ふっふ~ん」


 アスモデウスは、赤い液体の中で手足を暴れさせもがく一ノ瀬を眺めながら鼻歌交じり心底、楽しそうにかき混ぜる。


 バアルは、

「火力が足りねえな」


 釜の下で燃え盛る炎を調整していた。炎の勢いが足りないらしく、魔力を多めに流し込み火力を強くしていく。釜の温度が上がり、赤い液体はドロドロとしてとろみがつく。


 中で暴れる一ノ瀬はようやく顔を出し息を吸い込むとまだ叫ぶ。


「あっつつぅぅうううぃぃいいいいいいいいっ! ああああっ! いてえっ、いてえっ! こ、ここから、出してくれ! 頼むからぁぁああああああああああああ――っ!」


 とろみがついた液体の中では、腕に纏わりつき脚に重りがついたかのように動きを鈍らせる。上手く泳げない一ノ瀬は、痛い痛いと叫び下手な犬かきをしながら助けを乞う。


 だが、ここにいる誰も貴様を助ける者はいない。


「――――――っ!! ~~~~~~~~っ!!!」


 顔も全身が赤く腫れ上がり、激痛に言葉にならない叫びを上げる。


 このままでも、僕は全然構わないが死んでもらっても困る。これはまだ序の口なんだからな。


「アスモデウス」

「なにかしら~?」

「引き上げろ。まだ殺すな」

「分かったわ~」


 アスモデウスに命じ、釜から一ノ瀬を引き上げる。


 衣服が肌に貼りつき、その上からでも分かるくらい全身が爛れ見るに堪えない姿と変わり果てていた。


 ようやく、釜から引き上げられた一ノ瀬は全身を震わせている。絶え間なく続く激痛で感覚麻痺を起こし、涙と鼻水と汗で顔は汚く醜く笑っているのか泣いているのか判断がしにくい表情だ。


「ひっひぃっ……。ああぁぁっ……。ううぅぅっ……」


 その姿を見ても僕の怒り、辛み、憎しみ、恨み、哀しみは何も晴れない。


「バアル、そいつの傷も感覚も治せ」

「あいよ。まだ序の口だからな。ここで狂われても面白くない。ついでに、思考回路を正常にと強制的に正気へ戻す術も施しておくか」

「傷もすぐに癒える術も施しておきましょう」


 バアルは頭を掴み黒色の魔法陣を展開、グレモリーもそのあとに続き一ノ瀬の身体に赤色の魔法陣を展開させ術を施す。


 さすが、復讐の代行者。僕が言わなくとも分かっている。


 さあ、次の地獄メニューへ移ろうか。

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