四人目 復讐は当事者のみならず その三
…………っ。
ここは……?
意識を取り戻し、目を開けると薄暗い部屋だろうか? 冷たい床に寝転がっていた。天井から吊るされている小さなライトが揺れそれに群がる蛾。
……倉庫? ああ、そうか……。
僕は、罠にかかったわけか……。
部屋の奥へと視線を向ければ椅子と、人の気配を感じた。靴音を鳴らし、部屋を薄暗く照らすライトの下へ来たのは一ノ瀬と佐藤だ。
「目が覚めたようだな」
一ノ瀬が、僕のそばまでくるとしゃがみ込みそう声をかける。
「お前の前で見せたあれな、俺の演技なんだよ。どうだ、騙されただろ?」
「…………」
「驚いて何も言えないか。まあ、そうだよな。土下座して涙まで見せれば、信じちまうよな! で、お前の頭を木材で殴ってここまで連れてきたのは康介だ」
……やはりか。いきなり、衝撃を受けて意識が飛んだよ。
口封じと、消えた三人のことを聞きたいんだろうな。
「さて、お前さ、俺たちの友人をどこへやった?」
「…………」
「だんまりか。お前がその気なら仕方がない。康介」
「いいんだよな? 駿」
「ああ。どんな些細なことでもいい。口を割らせろ」
「任せろ」
そう言い残し、一ノ瀬は倉庫らしき部屋から出て行く。残ったのは、指を鳴らし僕へ近づいてくる佐藤だけ。
後頭部を殴られた影響、事故の後遺症でまともに喧嘩なんてできない僕には不利だ。ただ殴られるだけ。抵抗しようにも、頭が重くて思うように身体が動かせない……。
「素直に答えておけば楽に済むのにな!」
「ぶっ……」
「おら! とっとと、喋れ!」
「うぐっ……」
「おらおら!」
「ぐっ、がはっ……」
僕に馬乗りになって顔を強打する佐藤。
太い腕と、握りしめた拳が何度も頬を殴り口の中を切り血が滲む。視界には、振り上げる拳が映り込み次の瞬間には顔に衝撃が走っていく。
笑みをこぼし、痛めつけることに愉悦感に浸る佐藤。
「あぐっ……、はあっ、はあっ……」
「喋る気になったか? なあ!」
「おえっ……」
う、馬乗りを、やめて顔の、次は……お腹か……。
い、息が……うまく、吸えない……。
「早く吐けよ」
「し……」
「何だって?」
「し、知らない……」
「そんなわけないだろ!」
「がっ、あぐっ……」
お腹を思いっ切り拳で抉るように食い込ませ口から唾と息を吐き出す。身体をくの字に、その背中を佐藤は容赦なく蹴り飛ばす。
「知ってること話せ!」
「いぎっ、ううっ……。し、知らないっ」
靴の爪先が背中、腰周り、脇腹に当たり服が泥まみれに。そんなことお構いなしに何十回と蹴り続ける。それでも、知らないと言い切る僕に苛立ち脚を踏みつける。
「いつっ……。あうっ……」
「喋らないとこのまま脚の骨、折っちまうぞ?」
「し、知らないっ! 何も、知らない!」
「くそっ!」
僕の脚を踏むのをやめたかわりに顔を蹴り上げる。
「うぶっ……」
それからしばらくして、出て行った一ノ瀬が戻ってくる。
「どうだった? 何か分かったか?」
「いや。こいつ、何も知らない、しか言わないんだよ。ここまで殴っても知らないって言うし、本当に何も知らないんじゃないか?」
僕を見下ろす一ノ瀬。酷い顔をしているだろうな……。口の中、血の味しかしないし、顔は腫れ上がっているのか視界は狭いし……。
しゃがみ込み、前髪を掴み上げた一ノ瀬は僕に言う。
「このことを誰かに話せば、今よりももっと酷い目に遭うぞ。神社の一件のようにな」
「…………っ」
「話すなよ?」
「……っ」
僕を脅し、手を放す。床なのか地面なのか分からないが血を滴らせ顔に冷たさが伝わる。
その後、目隠しをされ倉庫らしき部屋から連れ出される。しばらく揺れる感覚と一瞬の浮遊感、砂の音と全身を襲う衝撃。
抵抗させないための腕にされた拘束の布を乱暴に剥ぎ取られ、離れていく足音と消えていく気配から目隠しを取る。
そこは、誰もいない街灯も少なく暗い夜の公園の砂場だった……。
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