三人目 肉好き悪魔は育てた野菜も好む その八
右手と右太ももを切り落とされても終わらない。今度は左腕と脚を切断され、絶え間なく続く痛みと泣き叫び喉が掠れ最初のような大声が出なくなる山内。
切り落とした部位をわざと見せつけ次の行動へ。部屋で待機していたバアルの使い魔のヒキガエルと蜘蛛の下へ向かう。
「ほら、餌の時間だ。好きなだけ喰えお前たち」
ヒキガエルに右手、蜘蛛には左脚を与える。
「こいつらは、俺に似て人間の女の肉が好物でな。しばらく餌を与えていなかったから腹を空かせてるんだよ」
と説明をする。ヒキガエル、蜘蛛はようやく与えられた餌に夢中で貪る。サメのような無数の尖った歯を生え揃え、骨を簡単に砕き肉を引き千切り血を滴らせ咀嚼音がやけに大きく聞こえる。
バアルの魔法陣でも、正気に戻すのは限界がきたようで山内は光を灯さない虚ろな目で自身の身体の一部を、ヒキガエルと蜘蛛に喰われていく様をただただ見つめるだけ。
「あっ……、あぁ……」
もはや言葉を紡ぐこともできなくなったか。心が死んだみたいだな。
「肉体は生きてるが、こりゃあ精神が壊れたみたいだな。なら、もう用済みだ」
バアルは、山内に興味をなくし切り落とした身体の部位を持って、いつの間にか用意したキッチンに持っていく。大きな鍋にこれまた知らない間に準備をしたビーフシチュー。
そして、輪切りにして骨を抜き鍋の中へ投入。
「さあて、これを柔らかくなるまで煮込んで~」
鼻歌交じりに鍋をかき混ぜ嬉しそうなバアル。匂いは美味しそうなビーフシチューなのだが、中身が人肉で食欲がまったくといっていいほどそそらない。
「やはり、人間の女の肉はビーフシチューかステーキに限るな!」
などとテンションが高く、僕からは何も言えない。
「悪魔の好みはよく分からないな……」
僕は首を軽く左右に振り溜め息が出た。
手術台に、四肢を失いそれどころかバアルの料理の材料にされた山内は生に縋る気力も、抵抗する体力も全て失くし目が死んでいた。そんな彼女にもはや興味もないバアルは、調理を一時中断し戻ってくると首を絞め骨を折って殺す。
鈍い音と共に、頭があらぬ方向を向き死んでいく。最期まで苦しめ、痛みを与え続け、恐怖と絶望を迎える。
山内の口に自らの手を突っ込みある物を取り出すバアル。その手には、グレモリーやアスモデウスの時に見た魂とは違う。
その靄は、どす黒い色と煙を巻き上げ見ただけで全身に悪寒が走り冷や汗がどっと流れる。それを口に持っていき吸い込むように喰らう。
あんな色をすることもあるのか魂って……。
だが、これで三人目が終わった。残りは二人。
復讐を終え、異空間から自宅へと戻ってきた僕とバアルの目に飛び込んできたのは、
「何をやっているんだ?」
「あ、主! 助けてください!」
「逃げちゃダメよ~。グレモリーちゃん」
「や、やめなさい! あ、主の姿で私を襲うのは! そもそも、主に失礼ですよ、アスモデウス!」
「いいじゃない~。ちょっとしたお遊びよ~」
「人間相手にしてください!」
アスモデウスが僕に化け、グレモリーの衣服を脱がし襲う瞬間に出くわす。
必死に、アスモデウスからの手から逃れようとするグレモリーを執拗に追いかけ回し僕の姿で笑うアスモデウス。
……ここは悪魔らしからぬ平和さだな。
というか、僕に化けてグレモリーを襲うなよ。
「アスモデウス。そのくらいにしておけ。僕に化けてグレモリーを襲うな」
「ええ~。いいじゃない」
口を尖らせ不満気味のアスモデウス。僕の言葉に本来の姿へと戻る。グレモリーは助かったと、乱れた衣服を整える。
「まったく、アスモデウスは……。お帰りなさいませ、主。復讐は上手くいきましたか?」
「ああ。全部、バアルがやってくれたお陰でな」
「それは良かったです。それで、バアル。その手に持っている鍋は何ですか?」
グレモリーが気になったのはバアルが持つ大きな鍋。鍋から漏れる美味しそうな匂いに、アスモデウスも惹かれ寄ってくると鍋をの蓋を開けて中身を確認。
「あら~、美味しそうなビーフシチュー」
「アスモデウス、お前も一緒に食うか? 俺的に旨くできたんだよ」
「じゃあ、お姉さんもお言葉に甘えて頂こうかしら~」
バアルはビーフシチューの出来にご機嫌。アスモデウスも、ビーフシチューに食いつくが僕は顔をしかめ違う料理をグレモリーに頼むことに。
「グレモリー。僕は別のメニューで頼む」
「主は、いらないのですか?」
「ああ。僕はちょっと、その遠慮したい……」
「主?」
僕の歯切れの悪いことに首を傾げるグレモリー。バアルと、アスモデウスの二人は皿にご飯を盛りつけビーフシチューをかけさっそく食べている。
二人共、肉が柔らかくて美味しい、野菜の甘みもあってご飯が進むと。
「……バアル、一つ訊いてもいいですか?」
「あ? なんだよ?」
僕の態度と肉、肉と連呼する二人の反応からグレモリーも気づいたようで顔をしかめ訊く。
「そのビーフシチューに入っている肉は何ですか?」
「ああ、これか。これはな、復讐相手で殺した小娘の肉だ!」
「それで、血の深みと程よい硬さにコクのいい味が出ていたのね~。豚や牛では出せない違う味だと思ったのよお姉さん」
「…………そ、そうですか」
バアルの満面の笑みと、アスモデウスの感想に言葉をなくすグレモリー。
血の深みってなんだ? 益々、食べたくないビーフシチューだ……。
「なんだ、グレモリーも食いたいのか? いいぜ、夏目もグレモリーも食いたければ食え」
「美味しいわよ~」
「いえ、私も遠慮します。お二人で食べてください。主、胃に優しいものを作りますね」
「僕もいらないから、二人で完食してくれ。グレモリー、助かるよ」
ビーフシチューを満足気に食べる二人をよそに、僕はグレモリーが作ってくれたきつねうどんを食べる。
僕も、グレモリーもあのビーフシチューだけは全力で遠慮するのだった。
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