あくまで復讐の代行者

ゆーにゃん

序章

プロローグ 幸せは奪われ消える その一

 今日は、僕こと大磨夏目おおまなつめにとって特別な一日だ。クリスマスイブと十五歳の誕生日が重なった二四日。

 この日は、両親も祝うはずだったんだけど仕事の都合、一つ上の姉の秋乃あきの姉さんと祝うことに。滅多に怒ることもなく、いつも笑顔で面倒見が良い優しい姉。ただ、心配性で何も言わずどこかに出かけると、すごい量のメッセージが送られえてくるけど。


「今年は、二人だけになっちゃったね」

「父さんも母さんも忙しいみたいだけど、姉さんがいるから気にしてないよ。僕は」

「またまた。強がってるけど本当はお父さんとお母さんにもいてほしかったんでしょう?」


 僕の髪をくしゃくしゃと、撫でながらそんなことを言う姉さん。テーブルの上にはケーキとリボンでラッピングされた箱が二つ置かれている。


 クリスマスと誕生日が重なるとプレゼントも纏めてになるのはいつものこと。姉さんの言う通り強がってはいるものの、毎年この日は家族揃って祝うのが僕たち家族のやり方。だから、いないと何だか寂しい気持ちになってしまう。


「ほら、拗ねてないでケーキ食べよう。夏目」

「拗ねてないよ」

「はいはい」


 手際よく切り分け、僕には一番大きいのを皿に乗せてそれと一緒にプレゼントを渡してくれた。


「はい、これは私からね。こっちがお父さんたちから」

「今年は何が入ってるんだろう!」


 やっぱりプレゼントとなるとテンションが上がる。去年はゲーム機と欲しかったソフトだった。姉さんからは好きなコミック全巻セット。今年もきっと僕が欲しがってる物をくれると勝手に期待していた。


 早る気持ちを抑えつつラッピングのリボンを解き、姉さんからのプレゼントの箱を開けて中身を覗く。そこには、僕が好きな作品のグッズとして発売された公式の白いマフラー。


「……っ! ね、姉さんこれ!」

「ふふっ。驚いた? 夏目がこれ欲しいって言ってたマフラー。プレゼント、何にしようか探してたら偶然、見つけて買っておいたの。喜んでくれた?」


「うん! それはもう! 明日から使えるよ! それに、マスコットでもある黒猫が刺繍されてて男の僕でも使いやすいシンプルなデザインなんだよ。肌触りも良くて、温かいって商品説明欄に書いてあったから気になってたんだ! ああ、本当に肌触り良いし温かい……!」

「急に饒舌になったわね。夏目」


 そりゃあ、欲しかったグッズで冬の時期は毎日、使えるんだよ。それに、姉さんからのプレゼントだから嬉しいに決まってる!

 今度は父さんと母さんからのプレゼントを開ける。箱の中からまた小さな小包みが。なんだろうこれ? ちょっと重い? あ、メッセージカード。


「『夜ふかしばっかしないこと』ってどういう意味? 僕、そんなに夜ふかししてないと思うんだけど……」

「開けてみれば分かるよ」


 姉さんは、中身が何なのか知っている様子。言われた通り、小包みを剥がし出てきた箱を見て驚いた。


「えっ……。これって、最新機種のスマホ⁉」

 まさか、スマホがプレゼントだなんて思いもしなかった! えっ、ほんとに本物? 本物そっくりな玩具ではなく?


「ぷっ。ふふふっ」

「ちょっ⁉ そんなに笑わなくてもいいじゃん!」

「だって、さっきから箱を掲げて見ては振ったり重さを確認したりで変なんだもん。傍から見たらおかしくて。ふふっ」


「なんだよ……。スマホがプレゼントなんて予想できるわけないよ」

「そうよね。それね、もう契約とか設定も全部終わってるからすぐにでも使えるわよ。家族の連先も入ってるしね」

「やること早い。それじゃあ、さっそく」


 箱から出したスマホに電源を入れると画面が立ち上がり、すぐにもでネットに飛ぶことも動画サイトのユアチューブにいくこともできた。

 なるほど。それで夜ふかしばっかしないこと、って父さんたちからメッセージがきたのか。確かに、これは夜ふかししてしまいそうだ。


 プレゼントも開け終わり、姉さんとケーキを食べる。

 そして、来年もきっと楽しいクリスマスイブと誕生日にするからね、と約束を交わす。

 この時の僕は、それを信じて疑うこともしなかった。これが最後の家族、いや姉さんと過ごす大切な時間になるとも知らず――。




 ――その一年後、悲劇が起きた。

 自室で首吊り自殺をした姉さんを僕が見つけてしまったのだ。


「ね、ねえさん……?」


 扉の前で立ちすくみ、何もできずただゆらゆら揺れる姉さんの身体を見つめる僕。

 姉さんを呼びに行って中々、降りてこない僕たちを心配した両親がきて立ちすくむ僕と、姉さんを見て叫ぶ母さん。慌てて姉さんを下ろす父さん。

 何もかも壊れていく瞬間だった……。


 警察や救急車を呼んだけど、姉さんはすでに息を引き取っていた。机の上にページが開かれたまま置かれていた日記から両親も僕も知らないことが綴られていた。

 そこには想像を絶する虐めのこと。


 それを知った父さんの行動は早かった。すぐさま学校側と教育委員会へ訴える。しかし、虐めの事実はない、との一点張り。納得がいかず何度も学校へ趣き、訴え続ける父さん。その場に僕も何度か同行したけど、日記から虐めをしていたと思われる生徒の保護者、理事長から耳を疑う言葉が。


「これ以上、言いがかりをつけてくるうようなら警察に訴えますよ。大磨さん」

「なっ⁉ 訴えているのは私たちの方でしょ! 娘の日記に書かれていたことが全て嘘だと言いたいんですか⁉ 理事長!」


「はあー……。何度も説明したはずです。そのような虐めの事実はないと。生徒たちにも聞きましたがね、そんなことはしていない。彼女の妄想だと。教育委員会でも、そのような事実は確認できないと報告が上がっていました。ですので、これ以上は学校の今後にも関わることになりかねない。私共としても穏便に済ませたいのですよ。騒ぎを起こすとなれば、名誉毀損として警察に相談せざるを得ない。分かるでしょう?」


「……っ!」


 理事長にそう言われ、父さんは拳を握りしめ歯を食いしばる。僕はここでも、ただ見つめるだけで何もできなかった。


 結局、姉さんのことはただの自殺として処理され葬儀が行われた。姉さんの日記は、僕が預かり毎日、その日記を読み続けた。何があったのか、姉さんが何に耐え続け、何を思い自殺を選んだのか。全て知りたくて、日記を手放すことができないでいた。


 その後、父さんと母さんは喧嘩が絶えない毎日が続く。姉さんがいた頃は、喧嘩なんてなくて笑いが絶えず夫婦円満だったけど夫婦仲も最悪になり言い合う。

 いつしか、父さんは家に帰って来なくなり、母さんは姉さんの部屋で泣き続け、僕のことはもう気に留めることもなくなった。

 そんな関係が長く続くわけもなく、父さんと母さんは離婚し家族はバラバラに。

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