メカ幼馴染

@okachann

第1話

教室のドアを触る手が緊張で少し震えている。

今日も無事に1日を過ごせますように。

一度深く息を吐き、呼吸を整える。

「おはよー。」

努めて明るい声で教室の後ろで固まっている彼女たちに声を掛けた。

きちんと笑えていただろうか。

「......あ、おはよ。」

二、三秒間が空いた後どうでもよさそうな声音で返事が返ってきた。

一度彼女たちの前を通り過ぎ、教卓前の自分の机に荷物を下ろす。

手早く一限の授業の用意をした後また彼女たちの所へ行く。

「ね、なんの話してるの?」

自分の存在に気付いてもらえるようにその集団の中にいた一人の肩を軽く叩きながら話しかける。

けれど彼女たちはそのまま今流行っているという韓流アイドルの話を続けた。

ここですごすごと自分の席に戻ってしまっては、私は始業までの後二十分間をボッチで過ごすことになる。それは何としてでも避けたい。

だからよくわからない話でも、輪の中に片方の肩しか入っていなくても笑顔を作り相槌を打った。

ここは酷く息がしづらい。

「そういえばさ、昨日駅前にメカがいてさ。超ダサいの。なにあれ中学の体操服みたいなの着ててさ。もうウチびっくりしちゃって。」

話題が韓流アイドルからメカに変わった。

メカこと立花芽衣加は私の幼馴染だ。マンションが同じで、自然と幼稚園から高校まで共に上がってきた。そんなに長い間一緒にいたのに私とメカは仲が良くない。

いやそれでも小学校の頃は今よりもっと話していた気がする。疎遠になったのは中学に上がって女子特有のグループというものができ始めてからだろうか。

高校二年生の今、同じクラスではあるがメカと最後に話したのはもう数年ほど前だった。

ちなみにいうと、私がボッチを嫌うのはいつもボッチで陰口を言われているメカを見ているからだ。

「ねえ、夏未ってメカと同じマンションなんでしょ。メカって昔からあんな感じ?」

いきなり話を振られて驚いたが、先ほどの韓流アイドルの話題では何も話せていなかったこともありここで挽回しようと私はメカの悪口を言った。

「そうそう、昔っから根暗でさー、ガチ嫌われてた。」

みんなキャハハと可笑しそうに笑う。

よかった、皆笑ってくれている。

「ほんと幼稚園からずっと同じだから勘弁してほしいよ。マジ死ねって感じ。」

もっとみんなに喜んでもらおうと更にキツイ言葉を発した。

その時、ガラッと音を立ててメカが教室に入ってきた。

いつも通りの不愛想な顔で廊下側の一番後ろの席に座り、本を読み始める。

「ちょ、夏未言い過ぎー。」

先ほどまで私と一緒にメカの悪口を言っていた彼女らが一斉に手のひらを返して私を糾弾しにかかった。

皆が嬉しそうに悪口を聞いていたから。

それに、最初に言い始めたのは皆の方なのに。

そんなことを口に出すことなどできない私はただ黙り込む。

「後でちゃんと謝っときなよ。」

まるで私だけがメカの悪口を言っていたかのようなセリフを残して彼女らはトイレに行ってしまった。

どうせトイレでは私の悪口大会が開かれるのだろう。

また失敗してしまった。

そんなことを考えながらロッカーをがさごそといじり、始業のチャイムがなるまでもうとっくの昔に終わっている一限の用意をしているふりをした。




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