月の裏側 第四章・憧れ

『………はぁ』


最近、仕事が上手くいかない。このままじゃただの足でまといだ。


やはりまだ経験などが浅いからだろうか、まだまだ仕事のスピードも遅い気がする。


リザベル少佐は何事も丁寧かつ早く終わらすことが出来て大人っぽくて…それに対して自分はまだ子供で幼すぎる。


『ソフィア?そろそろ会議だ』


考え事をしているといつの間にかリザベルが目の前にたっており、心做しか心配そうな顔をしているように見えた。


『あ…はい!』


心配をかけてはいけないと思いさっきのことを誤魔化すように返事を返した。


こんなしょうもないことで悩んでいたらリザベル少佐のような立派な大人にはなれない。


そう思い、ソフィアは歩くのが早いリザベルについて行き会議室まで行った。






会議室に着くとリトアリア人やゼンゲル人が距離を少し置くように各自座っていた。


ソフィアはリザベルが座った隣に腰をかけた。


こんなにもあからさまにリトアリア人がゼンゲル人に距離を置いているのは差別があるという事実があるからだろう。


『皆さん集まりましたね?ではこれから…』


参謀長によって会議はどんどん進められていく。


ソフィアはふと周りを見渡した。


ゼンゲル人はゼンゲル人で固まっておりリトアリア人も同様だった。


同盟を組んでるはずなのに結局差別や偏見は収まらない現状のようだ。


周りをそう思いながら見ているとある金髪のゼンゲル人男性と目が合う。


『…………………』


ソフィアは咄嗟に目を逸らし手元にある書類に目線を戻す。


『ですが、そうなるとゼンゲル人が厄介なんじゃないんですか?変な力も持ってるし』


会議を進めていると1人の士官がそのようなことをゼンゲル人に向けて言った。


『それは、差別用語ですか?』


さっき目が合った金髪のゼンゲル人男性がそう言った。


『いいえ、差別ではなく厄介だから言ってるんです』


『リトアリア人も十分厄介だと思いますがね』


『今、何と?』


『2人とももうやめてください』


参謀長が止めると会議室は静まり返った。









『ソフィア、そろそろオフィスに戻るぞ』


何かとピリピリした会議だったがようやくして終わった。


『はい』


ソフィアはリザベルのペースに無理やり合わせながら書類をかき集め早々と歩いていくリザベルについて行った。


『ソフィア』


『え?あ…はい』


いきなりリザベルはくるっとこちらに振り向き立ち止まる。


リザベル少佐がこんなふうに自分のことをいきなり呼び止めることなんてなかった。


『さっきから元気がなさそうだが、大丈夫か?』


リザベルが突然そんなことを言った。


『え……そ、その』


ソフィアはいきなりのことでテンパってしまった。


まさかリザベル少佐からそんなことを言われるとは思ってもみなかった。


そこまで酷く落ち込んだ顔をしていただろうか。こんなにもリザベル少佐に心配をかけていたなんて。


『…仕事は自分を追い詰めてまでやらなくていい。自分のペースで進めればいいんだ』


『………で、ですが』


確かに、自分はまだ未熟な人間だ。でもリザベル少佐のような大人から20歳を超えてもずっと守られるなんてただの迷惑だ。


『ソフィアはまだ若くて色々なことを感じるかもしれない。でも仕事なんかのために無理をしなくていい』


そんなことを聞いてふと、前の世界での出来事を思い出した。


高校に入ってから学校に行ってバイトをしてを繰り返す毎日だった。


父親は働ける身では無いため、自分が支えなくてはならなかった。


それでも父はいつもそんな自分に対して『役ただず』や『甘え』と言っていた。


だから、もっとちゃんとやらないといけない、完璧にこなさないといけないんだとずっと思ってた。


でも生まれて初めて人からそんな言葉を聞いた。


『無理をしなくていい』と。


そんな優しい言葉を聞いて目頭が熱くなっているのがわかった。


でも何とか涙をこらえて口を動かした。


『…すみません。ありがとうございます』


何とか笑顔で応対し、泣かないように務めた。


リザベルは何も言わずにコクリと頷くとオフィスの方へと向かっていった。


自分はそのリザベル少佐の後ろ姿を見て何かを決心した気持ちで後を付いて行った。

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