月の裏側

@USA444

月の裏側 第一章・目覚め


『……ッ!!』


小さく漏れた声と共に目を開けた。


さっき父親と知らない少女が出てくる夢を見た。


夢のせいで全身が汗びっしょりだった。


顔や腕や首などについてる水滴がポロリと落ちていく感触がわかる。


それほど自分にとって嫌でそして何故か悲しみを感じた夢でもあった。


汗やその夢のせいで、ぐったりしているとここが何処だとかそういうことを思うことさえも忘れてしまっていた。


目を咄嗟に動かし周りを見てみると冷静を徐々に取り戻してきた。


周りの景色はただ真っ白。


まるで白い箱の中にいるような感じだった。


天井はとても高く床も広くただただ巨大な空間で無機質な感じだ。


仰向けになっていて口元にはガスマスクのような装置が着けられていた。


そのガスマスクの中は汗で湿っておりとても気持ち悪かった。


自分が仰向けに寝ているこのベットのようなものは、少し硬いソファーのような感触だった。


何故こんな所にいるのだろう。


自分は一体いつここに来て何時間、経っているのだろうか。


今はいつ?ここは日本のどこ?なぜこんなところにいるの?


今がどういう状況なのかずっと考えていると恐怖を感じ、暑さの次は鳥肌が立ってきた。


目眩を覚えるほどの思いをしていると、突然ガスマスクのようなものが機械音とともにゆっくりと自分の口から離れていく。


いきなりのことに驚きながらも重たい体をなんとか起こして再度周りを見つめる。


奥を見ても見てもあまりにも広いので吐き気がしてくる。


『うっ……』


吐きかけそうにもなったが胃の中が空っぽなわけで、何にも出るはずがなかった。


口を抑えながらその硬いソファーから離れともかく前へ進んだ。


前を進み続けてやっと壁の方までたどり着いた。


なにかないかと片手でぺたぺたとその壁を触る。


だが、なにかある訳でもなくただ無機質な壁が佇んでいるだけだった。


呆れ果て膝から崩れ落ち絶望の気持ちに変わっていった。


『ガッ!チャン…』


涙を流しそうになるといきなり何かが開いた音が鳴り響いた。


壁の方を見ると壁には割れ目ができておりそれが徐々に開かれていく。


壁が自分でも通れるくらいの幅になるとそこには4人くらいの人が立っていた。


『……!』


びっくりしたのもあったが自分以外の他に人がいたんだという喜びもあった。


『大丈夫ですか!?』


『…え……そ、その……』


いきなりそう言われたので何を言えばいいのか分からなくなる。


『ともかくここから出ましょう。不気味な場所ですから』


『こ、ここは……』


『その事も後ほど話させてもらいますので、今はともかく体調の方はいかがですか?』


『え…えっと』


色んなことが混乱し、情報の処理が追いつかなくなってくる。


『顔色も悪そうだ。おい、手を貸せ』


その軍人のような人が顔をのぞきこんでくると目の色がおかしいことに気づいた。


黄色く、その目は輝いていたのだ。


驚きながら軍人の手を借り、その不気味な空間から解放された。


扉の向こうに行くとグランドホテルのロビーのようなオシャレな空間が待っていた。


そんな空間を見ていると自然に自分の精神も落ち着いていくのがわかった。


『こちらへどうぞ』


軍人に案内されて行くとオシャレっぽいテーブルと複数の椅子がある部屋に着く。


『こちらにお座りください』


言われるがまま椅子に座り、指揮者のような軍人も同時に椅子に座った。


『ではこれから今の状況について説明していきますが、必ず同意してください』


同意するとはどういう意味なのだろうか。今思うにこの人達はどこか別の世界の生命体で私をどうにかしようということなのだろうか。


『あなたは11月3日の土曜日に命を落としています。死因は刃物によるもの』


『…………………』


その言葉で曖昧だった記憶が鮮明に思い出してくる。


そう…父親に包丁で胸を刺されたんだ。


あの時、あの狂った父親に何度も、何度も胸を刺され痛い思いをしたんだ。


『…大丈夫ですか?』


『あ……はい…』


『すいません。少し明確に言いすぎましたね』


『……………』


『…続けてもよろしいですか?』


『はい』


『…我々はあの星で死んだあなたをある特殊な技術と一族の力で蘇らせることが出来ました』


『は、はぁ……』


いきなりSFのようなことを言われつい呆れた声を出してしまった。


彼らが言うにはこういうことらしい。


彼らは違う星にいる人間で人種はリトアリア人というらしい。ほかにも色々な人種があるらしいがリトアリア人は、ある一族と同盟を組んでいるらしくその一族の名前はゼンゲル人という。


だから国の名前はリトアリア=ゼンゲル共和国というらしい。


先程、顔を覗き込んだ、目が黄色く輝いていた人がゼンゲル人のようだ。


ゼンゲル人という一族には一人一人に力が備わっており、その力で人の魂を扱うことができるらしく、それで私を蘇らすことが出来たという。


魂を扱えるというだけでも常人から外れているのに他にも物を空中に浮かすこともできたり、なんと天気さえも変えてしまうという。


そんな色々なことが出来る力を持っているが、ゼンゲル人はリトアリア人よりもずっと感情が薄いらしく喜怒哀楽が彼らには難しいようだ。


でもゼンゲル人にとって喜怒哀楽はない方が力を制御できると考えているようだ。


それにゼンゲル人には力を持っている代わりにルールが存在し、それで一族をまとめてきたという。


そしてそのゼンゲル人という変わった一族の力とリトアリア人の先進的な技術で私を蘇らせてどういう生命体なのか調べるということで私は何億人という人達の中から抜擢されたという。


『なんで…私が抜擢されたんです…?』


『もちろん他にも抜擢される可能性のある人物はいました。ですが一番、人材として良かったのはあなただったのです』


『良かった…?』


『そのことに関しては私から説明することはできませんし権限がありません』


『ですが、理由を聞きたいです。研究されるなら…』


『すみません。権限がないので教えることはできません』


『…………………』


それ以上のことはその指揮官の軍人に言うことは出来なかった。


『それとあなたが着く職業は軍人と決まっております』


『…何故ですか?』


『これは国からの要請であり断ることはできません。たとえ断ったとしても困るのはあなたです』


『私は…これから軍人にならないといけないんですか?』


『もうあなたは今まで住んでいたところに戻すことはできません』


『……………』


『……では、そろそろ移動しましょう』


『移動…?』


まさか宇宙船にでも乗るのだろうか?どこかの映画のような感じだ。


『えぇ…宇宙の中を飛行するので少し気分を悪くするかもしれません』


『………………』


『あぁ、それともうひとつ大切なことをお伝えしないといけません』


『…?』


『あなたの名前をリトアリア人らしい名前に変えさせていただきます』


『名前を…変えるんですか…』


『あなたのこれからの名前は『ソフィア・ローエンシュタイン』です』


『ソフィア…ローエンシュタイン…』


『では、そろそろ出発しましょう』


軍人に囲まれながら広い空間を移動して行った。


軍人達が立ち止まると目の前にあったのは大きな宇宙船のようなものだった。


『準備はよろしいですか?』


『え、えぇ……』


『では、出発しましょう』


そう軍人が言うと宇宙船に入るための階段を上る。


中に入るとまるで飛行機の内装のようだったが窓などはなかった。


『こちらへどうぞ』


彼が指した席に座りシートベルトのようなものを装着した。


数分経つと突然宇宙船が動いた気がした。


『ご気分を悪くされたら言ってください』


向かい側に座っている軍人がそう言った。


『………………』


時間が経つにつれどんどん眠くなってきた。


色んなことがありすぎて疲れたのだろうか。










『ソフィアさん、起きてください』


『…ん』


突然起こされて目を開けた。


まだ眠い。


目を手で擦り、ぼやけている目を何とかしようとする。


ぼんやりとした頭の中で席を立って機内を出た。


外に出ると強い太陽の光が差してきて一瞬周りが真っ白になる。


どんどん視界が良くなってくるとそこは広大な軍事基地のようなところだった。


そして遠い向こうの方には美しい未来的な大都市が広がっている。


『……すごい』


つい、見たこともない光景に言葉を漏らしてしまった。


『ではこれからまた移動が始まりますのであちらの車に乗ってください』


促されるままハイテクな車に乗りまた移動が始まった。


軍事基地のような場所から徐々に都会の風景へと変わっていく。


まるで子供のようにその景色を見ていた。


見たこともない大きな歪な形をした高層ビルが何個も大量に立っていた。


綺麗なガラスが太陽を反射させており、空中にはドローンのようなものが飛び交っている。


空はとても広く思えて、空気も綺麗なのか夕暮れの中に少し見えてきた星空もとても綺麗だった。


歩道であろう道には結構な人が歩いている。


歩いている人を見ると身体も顔も外国人に見えて服装も前の世界を引用したようなものが多かった。


普通のネクタイをしたサラリーマンのような男性。パーカーのような服装の女性もいる。


少し違うように見えても前の世界とあんまり変わらないところがいくつもあった。


ふと目線を上にあげると月があった。


その月は前の世界にいた時の月と同じような感じだった。


景色に夢中になっていると突然車が止まる。


『着きました、士官学校です。ソフィアさんはこれからこの学校で色んなことを学んでもらい士官になってもらいます』


そう軍人が言うと車を降りる。そしてその士官学校の校舎を見渡す。


これから私はこの世界で新しい人生を送る。


心の中でそう思うと校舎の中に入っていった。













『はぁ……はぁ…はぁ…』


『走れ!!ノロノロするな!』


毎日決まっている道を走っていた。約1時間は走らされその後すぐに銃の使い方の勉強がある。


『この銃口を見ろ!3つあるだろう?』


ソフィアは渡された銃をまじまじと見ていた。


銃なんてわざわざ別の世界に来て触るとは思ってもみなかった。


『1番上の銃口は普通の弾を発射する。そして1番下、ここは発射すると爆発弾という弾が出てくる。最後の真ん中は滅多には使わない大規模な爆発が起こる弾だ。これを使うと爆風などに自分も巻き込まれる可能性がある』


説明が終わると銃は使わず次々と回収された。


『このリトアリア銃を使うにはこれを装着しなければならない』


渡されたのは小さな赤い十字架だった。


手に持つとずっしりと意外に重かった。


『これは軍人は必ず持っている飛行装置だ。襟の部分につける』


皆、手に持っていた十字架を首元につけ始める。


『その飛行装置をつけると意思操作で銃口が開き弾を発射できる。そして他にもその十字架は防壁をたてられたり、連絡を取りあったり、探知機もあり、その上、意思があるだけで寒さや暑さにも対応できるようになっている。もちろん空中浮遊も可能だ』


さっきのリトアリア銃が返され銃の構え方を教えられる。


『撃て!』


ソフィアは教官に合図を貰うと目標目掛けて引き金を引いた。


『バン!バン!』


『発射やめ!!』


教官がそう言うと生徒の列を横切りソフィアのところで立ち止まる。


『お前、中々の出来だな。私が説明しただけでもう銃を使いこなしている』


ソフィア『ありがとうございます…』


『お前らもソフィアの模範になれ!』


そう言われるとソフィアはいい気分になった。


こんな気分になったのはいつぶりだろうか。いつも楽しくない毎日を過ごしていたがこの世界に来てから何もかもがキラキラして見える。









そしてソフィアは3年間、猛勉強をして2位という成績を得ることができた。


成績がいいということでソフィアはエリート達が集まる総参謀本部のリザベル・ヴァーグナー少佐直属の副官になることが決まった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る