第7話 良いところ攻防戦

「それじゃあ先攻の私だね。一つ目の真夏くんの良いところは……えっと……」


 そう言いつつ紙にペンを走らせる音が聞こえる。ちなみに書いてるところを見てはいけないらしい。


「よし出来た! 目を開けて良いよ。じゃあ発表します。真夏くんの良いところは」


 藤本さんの口撃に耐えれるように身構える。この後悶えないように。藤本さんに痴態を見せないように。


「一つ、一生懸命で努力家なところ♡」


「っっっ〜〜〜!!!」


 杠葉真夏に1000のダメージ! 戦闘不能に陥ってしまった。褒められたことと、その甘い声に一瞬にして俺のライフはゼロになってしまう。


「私、知ってるんだ。この前のテスト週間の時、黒澤くんたちとテスト勉強してたよね」


「それってつい最近あった中間テストのことだよね」


 うんうんと頷く藤本さんを見ながらその時のことを思い出す。確かに黒澤たちと勉強はしたが、何か特別なことをしたと言う覚えはない。


 それを分かっていたと言わんばかりに軽く微笑み藤本さんは口を開く。


「その時黒澤くんたちに勉強教えてたじゃない? ちゃんと授業聞いてるんだって感じの教え方だったし、真面目で真剣な表情すごくかっこよかったよ」


 オーバーキル。ふつうに勉強していただけでどうしてこんなに褒められるのだろう。褒められ慣れてない俺は身体がむずむずととても痒い感覚に襲われる。今すぐ飛び出して悶えながら全身を掻きむしりたい。


「これで私が一つだね。次は真夏くん! 何いって貰えるのかな。楽しみだよ」


「その前に。なんでそのこと知ってるの? 図書館で勉強してたの俺たちと数人くらいだったはずだけど」


 その数人は全員男子生徒だったはず。うーん。やっぱり不思議だ。どこで見てたんだろう。


「ふっふっふ。真夏くん知らないの? 実は私、図書委員なんだよ。ちょうどその日は当番でじっくり真夏くんを観察することができたのです!」


 全く気付かなかった。そして藤本さんは妖艶に微笑みながらさらに口を開く。


「私って、君が思ってるよりも君のことみてるよ?」


 その瞳は真っ直ぐ俺の方を見ていて。まだ俺が完璧に藤本さんに堕ちていないことは分かってる。だからそこ本気で堕としにかかるからね、そんなことを訴えていた。


「よーし。じゃあ次は真夏くんの番だよ。私は目を閉じてるから」


 そうして目を閉じて可愛い顔を不防備に晒す。少し俺が腰を上げて藤本さんの方によればキス出来そうな距離で。


 浮き上がりそうになる腰を抑えて紙に目を向ける。うーむ。なんて書こう。そこまで藤本さんのこと知らないからなぁ。


 まずは無難にいこうか。やっぱり藤本さんは可愛いらかね。そこを書こう。


「そろそろ良い? よしー。真夏くんはなんて書いてくれたのかな」


 わくわくしている藤本さんに俺は書いた紙を見せる。


 可愛いところ


「藤本さんすっごく可愛いから。最初はこれにしておこうと思ってさ」


「か、わかわっ!? わ、私、真夏くんから見て可愛いと思う?」


 顔を赤くした藤本さん。まさか照れてる? 可愛いとかたくさん言われただろうに。


「そ、そっかぁ。真夏くんに可愛いって言ってもらえて嬉しい。えへへっ。ねぇねぇもう一回言って?」


 おねだりするような視線に押されて自然と口が開く。


「藤本さんは可愛いよ」


 本心だった。藤本さんは本当に可愛い。


 そこから数秒の沈黙が流れる。冷静になった俺は心の中で猛烈な羞恥に苦しんでいた。


(何、クソ真面目に可愛いとか言ってんの!? 恥ずかしいにもほどがあるだろ! 思い出しただけでも恥ずかしい!)


「えへへ。照れちゃった」


(なんなんだよこの可愛い生き物は!?)


 もう精神的に疲れた。次の藤本さんの口撃を耐えれそうにない。誰か助けてくれ。そう思った時、助け舟はやってきた。


「二人ともご飯よ〜」


 そう。カレーを作っていた母さんからのお呼びの声だった。




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