第2話 夏の始まり

 期末テストも終わり、一学期最終日が訪れる。担任の手から一枚一枚、それぞれに渡される。いつも通り、クラス中で一喜一憂が大げさに叫ばれている。別にテストが悪いからといって死ぬこともなければ、今後の人生を左右するようなことでもないだろう。

 自分の、微妙な成績表を眺めていると、前の席の唯一といってもいいほどの友人が爽やかな面をこちらに向ける。

「なあ、千景どうだった」

「どうもこうもないよ、啓太は自信あんの」

 サッカー部の時期キャプテンとささやかれているイケメンが、にやっと笑って見せる。

「ごめんだけど、今回は千景に負けてねーわ」

「僕も」

 去年から変わらないこの前後でのテスト成績の勝敗は、大体五分五分。今回も勢いよく、成績表を同時に机にたたきつける。相手の成績表右下にある総合順位を見る。僕が、34位、啓太は39位だった。大体学年では中の上というところだ。

「ホラ、やっぱりサッカーばっかりしてるやつには負けんよ」

「なんだよそれ、お前だって本読んでるだけだろ」

 実際のところ、サッカーばかりして授業中は寝ていることが多い啓太がこの成績というのは、凄いと言わざるを得ない。

 誰かが、机の隣に立つ。その三人目は、まさかの橘さんだった。彼女は、机の上の微妙な成績表を見てつぶやく。

「千景君が34位で、啓太君が39位ね。二人ともやるじゃん」

 そして、わきに抱えてあった自分の成績表を目の前で開く。ニュースの中のスーツ姿の男性がカメラに向かって無罪の紙を開くようにしてそれを見せる。

 そこに書いてあったのは、21位だった。

「マジで。橘ってこんなに勉強できるっけ」

「意外だよ、橘さんが勉強ができるなんて」

「二人ともして、ひどいなあ。でもこれが負け犬の遠吠えってやつね。気持ちいい」

 もう満足したのだろうか、そのダークホースは高笑いしながらいつものグループに戻っていった。今日は結ってるポニーテールも楽しそうに跳ねている。

「というか、千景と橘って仲良かったっけ」

 首を左右に振る。事実だ。

「この前、図書館で出会ったのが初めて」

 なんだよそれ、とコミュニケーション能力の高いサッカー部が笑う。

「まあなんでもいいや。千景に友達が増えてくれて俺はうれしいよ」

 腕を組んで、啓太が頷く。


 その日から、学生の一年のメインイベントといっても過言ではない夏休みが始まった。さすがにもう会うことはないと思っていた、ラーメンが好きで頭の賢い橘さんと出会ったのは、祖父のお見舞いの帰り道だった。


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