第149話 今後の方針 その3
「コッチにカシネは来なかったかっ?」
「いえ、見ておりませんが?」
俺は掃除中のメイドに礼を言うと、今来た方へ戻って階段を駆け上がる。
「これは…屋敷の外に出たか?」
俺の屋敷は中庭を囲む4階建ての回廊式になっている。
俺の部屋での会議中に逃げ出したカシネを追って屋敷を1~4階にグルグル4周して、
中庭に飛び出した。
四角い中庭は、中央の大きな噴水を中心に対角線状の小路が作られ、
その小路が中庭を東西南北に4分割している。
俺は東の庭からカシネを探し始める。
4つの庭それぞれにはテーマがあり、それに沿った花や樹木が植えられているらしい。
らしい、と言うのは、俺にその方面の知識が全くなく、なんなら興味もないからだ。
その辺りは庭師として雇ったメイドに一任しているが、
全くの門外漢の俺でもわかるほど、丁寧に大切に手入れされている。
今までは人を招くなんて事もほとんどなかったが、
積極的に貴族のお嬢さん達と接触してゆく事になったので、
この庭でお茶会を開く事もあるかもしれない。
『庭師メイドのヤル気も上がるだろう、良い事だ。』
そんな事を考えながら、広い中庭を駆け回り、
南の庭の中央、生垣に囲まれた小さな池のほとりでカシネを見つけた。
「カシネ。」
俺は声を掛けようとして、言葉を飲み込んだ。
『キレイだ…。』
小さな池のほとりの白い長椅子、そこに佇むカシネの姿はとてもキレイだった。
いつもの天真爛漫な明るさは鳴りを潜め、代わりにひどく愁いを帯びたカシネ。
その物憂げな、大人びた表情は彼女の違う魅力を醸し出す。
カシネはどちらかと言うと淡泊な顔の造形だ。
それが寂し気な雰囲気にとても合い、小さな池のほとりというシュチュエーションも加味され、
もはや一枚の絵画の様だ。池に映ったカシネの姿も素晴らしい。
「あ…ハヤト様。どうしたんですか、そんな所に突っ立って?
もしかして、追いかけて来てくれたんですか?」
カシネが俺の視線に気付いて振り返る。
俺が見惚れていたなんて、微塵も思っていないだろう…。
「あまりにキレイだったから、見惚れてたんだ。」
「え?」
「お前にな、見惚れてたんだよ、俺は。」
カシネにちゃんと伝わる様に、俺はゆっくりと伝えた。
俺はお前を魅力的だと思っている、そう伝えたかったのだ。
だが、
「はい?何言ってるんですか?
ボクなんてガリガリの鶏ガラみたいな体で、エッチな気分も吹っ飛ばしちゃって、
好きな人に抱いてももらえない、ダメダメイドですよ?
キレイなワケ…ないじゃないですか…。」
カシネは早口で捲し立てると、池に映った自分を見つめ、
「はは、ほんと、女の子の魅力ゼロだなぁ…。」
『俺が抱かないから…カシネにこんな事を言わせてしまった…。』
俺は胸が締め付けられる。
なんでこんなにイイ子が、こんなに自分を卑下しなきゃいけないんだっ!
「そんな事はないっ!お前は可愛いし、キレイだし、とっても魅力…っ!」
「ウソだっ!」
「ウソじゃないっ!さっきも本当に見惚れて…っ!」
「じゃあなんで抱いてくれないんですかっ!
エスタフを倒した後もっ、ミュールへの道中もっ、あ、あのお風呂場でだってっ!」
「わからんっ!!!」
「ひぇっ?!」
興奮して捲し立てるカシネの言葉を、俺は大声で遮る。
その気迫にカシネが小さく悲鳴を上げる。
「そ、そんな急に大声だしても…っ。」
「知らんっ!うるさいっ!!」
「えぇぇ…。」
俺の大声にカシネが明らかに呆れている。
俺自身何にキレてるんだか…自分でも自分に呆れる。
だが、多分、飾った言葉ではダメな気がする。
「お前を抱けない理由はわからんっ!
だが、俺はお前を魅力的だと思ってるし、大好きだっ!
絶対にお前を俺のモノにするから、もうしばらく待ってろっ!!」
『決まった…。』
いや、決まったワケがない、なんだこの恥ずかしい宣言は???
俺は自分で自分にツッコむ。
自分の余りのバカさ加減に、恥ずかしくてカシネがまともに見れない。
お互い無言で、沈黙の時間が流れる。
「…何言ってるんですか?恥ずかしくないんですか?」
「これは…俺の嘘偽らざる気持ちだ。
俺はお前のそのキレイな体を好き放題したいと思ってる。」
俺はカシネの目を見つめ、もう一度真剣にバカな事をカシネに告げる。
「はぁ~~~~~~~~~~あぁ。」
カシネは長いため息をつくと、
「せっかく追って来てくださったのに…。
ボク、もうちょっとカッコいいセリフを期待してたんですけどね?」
「す、すまん…。」
カシネにじろりと睨まれ、俺はカシネから視線を逸らす。
「はぁ…ボク、もう戻りますねっ。
いきなり会議を抜け出しちゃったから…。
ルヴォーク様とマーサ様に怒られるだろうなぁー。
あー、マイヤー様にも怒られるかもなー。
あー、やだなー、怖いなー。」
カシネが棒読みで俺の方をチラチラ見て来る。
「俺が代わりに怒られてやるよ、安心しろ。」
「ホントですかっ?!
やった!じゃあお礼に、今回の事は水に流してあげますっ!」
カシネは俺を許す口実を作ってくれた。
『意外と大人な面もあるんだな…。』
俺はカシネの事を見直した。
それじゃあ、とカシネが屋敷の扉へ駆け出す。
俺はそれを黙って見送る。
「あ、あとっ!」
立ち止まったカシネが振り返り、手を振りながら、
「ボクはずっと前から、ハヤト様のモノですよっ♡」
カシネは軽やかな足取りで駆けて行った。
それを俺は勃起しながら見送ったー。
つづく
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