第2話 プロローグ 2

ピンク色な妄想をしていた俺を打ちのめすような、

真っ赤な夕日に暮れなずむ図書館。


館内はそこそこ混み合っている。

新聞を読む爺さん。

絵本を読む子ども。

そんな子どもに目をやりながら、小説を読む母親。


しかし一番多いのはやはり学生か。

色とりどりの制服が目につく。

異世界では服の種類も多くなく、色味もあまりなかった。

カラフルなこっちの世界は、まだ目が痛い。


目を瞬かせていると、

「高御座くん、もう眠くなっちゃた?」

向かいの席に座る道祖が覗き込んで来た。

顔が近いよ、顔が。

「こんな可愛い道祖を目の前にして、眠いとは贅沢だな」

神前があのいたずらっ子のような目で俺を責める。


「いやいや、こんな可愛い道祖を見てるからね、目が眩んだんだ。」

「なっ///」

「おーっ、言うねぇー。」

道祖は頬を赤らめオロオロし、神前は切れ長の目を更に細くしニヤニヤしている。

俺としては普通の軽口のつもりで返したんだが、

二人には(特に道祖に)思ったより刺さったようだ。

なんせ俺は精神年齢+5歳だからね、君たちお嬢さんより少し大人なんだよ。


スカした顔をしてしまったか?

ツッコミのつもりか、机の下で神前に足を蹴られる気配が。


無意識で避けてしまった。


完全な不意打ちの、見えるはずのない机の下での蹴りを避けられた神前は目を丸くし、

「何でわかったんだ?」

さっきまでのいたずらっ子のような目ではなく、

いつもの冷静で冷たい目で俺を見つめる。

いや、これは睨まれてるのか?

確か神前は剣道部だったか。

武道家の誇りが傷つけられたんだろうか?


「偶然だよ。」

別にダメージがあるような蹴りじゃない。

女子高生がツッコミでするような蹴り。

無意識とはいえ、避けるべきじゃなかった。

彼女に何か、疑念を抱かせてしまった。


「そんな偶然があるかっ。お前、一体…。」

武道家の勘か、何かを感じ取ったのだろうか。

神前の追求は続くようだ。


『面倒だな』

風魔法でスカートをめくって話題を変えようか。

闇魔法で辺りを暗くしてそのスキに帰ろうか。

水魔法でパンツを濡らしてパニックになったスキに逃げようか。

火魔法は物騒だ。

土魔法は…。

『使えねぇ』


[死ねっ!!]


土の精霊グノーに殴られた。

脳内(精神世界?)で殴られた俺は、実世界にも少し影響が出る。

ダメージで目の前が少しチカチカする。

「っつ。」

頭を押さえてよろけた俺を見て、

「高御座くんっ?!」

道祖がわざわざ駆け寄ってくる。

「大丈夫かっ!」

さっきまで怪訝な顔で俺を追求しようとしていた神前も心配そうに身を乗り出す。

これはチャンスだ。

「こないだまでの影響かな?少し頭痛が…。」

行方不明中の影響を匂わせる。

これで神前の追求も止むだろう。

まだ追求してきたら鬼だな。


「今日はもう帰ろ?」

「そうだな、高御座がこんな状態ではな。」

道祖の提案で勉強会はお開きに。

美少女二人との勉強会イベント、何とも勿体ない幕切れだ。



図書館からの帰り道。

万が一に備え俺の両サイドに歩いてくれる道祖と神前。

優しい二人の美少女を両脇に侍らせた俺。

「文字通り、両手に花だな。」

「えっ///」

俺の不意打ちの一言に道祖が過剰に反応する。

身を翻した結果、持っていたカバンが俺にあたり、結果俺が反対側、

神前の方に押し出された。

「おっと。」

さすが剣道部、体幹がしっかりしている。

よろけた俺を難なく受け止めた。

「ごめんね、神前さん。」

すぐに体勢を戻そうと神前から離れ…。


あれ?


俺を支える神前の腕に力が入り、俺の腕を離さない。

「もしもし、神前さん?」

「ちょっと、凛!」

俺たち二人の声が聞こえないのか、神前は俯いたまま腕を離さない。

「柔らかくも引き締まった筋肉…。」


どうした神前。

怖いぞ神前。


そんな神前が腕を掴んだまま顔を上げると、

いつものクールな彼女とは程遠い、頬の上気した痴女がいた。

「高御座…。」

「お前、着痩せするタイプだったんだなぁ///」

おおよそ女子高生の口から出ないセリフに道祖も少したじろぐ。

そうか神前、オマエ筋肉好きだったのか。


5年間異世界のダンジョン攻略で鍛えたこの体、

こちらに帰ってきた時にサイズダウンしたとはいえ、

そこらの高校生に比べれば、"雌"には刺激的だろう。

現にあのクールな神前が蕩けた顔で俺の腕をサスサスしている。

親友のハズの道祖も引いている。

どうやら筋肉好きは彼女にも秘密だったようだ。


道祖が神前を引っ張るが離れない。

一向に離れる気配のない神前に、

「神前。」

もう一度、さっきより強めに声をかける。

「ふえ?」

「もう大丈夫だから、離してもらえる?」

「!!!!!!!!」


神前の顔がみるみる青くなる、

それに対して周りが突如に明るくなる。


「二人ともっ!俺から離れろっ!!!」


無数の光の粒が俺たちにまとわりつく。

「え、えっ!?何なのっ?!」

「なんだコレはっ?!」

二人の声が響く。



またコイツか!

5年前、俺を異世界へ召喚した光!!


慌てて神前を振り払おうとするがっ!

…どうやら間に合わなかったようだ……。



また、あの、面倒な異世界へ召喚される…。

ただ、

今度は俺だけじゃない。

二人のクラスメートを連れて。

異世界召喚のおかわりが始まる…。


つづく

『転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜』という作品も投稿しておりますので、そちらもお読みいただけると幸いです。

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