涼宮ハルヒの虚栄

ミカン箱

第1話 夢

この日俺はようやく朝の全校集会が終わり体育館の壇上の隅にこっそり隠していた物を回収にしに行った。

誰も近くにいないか周囲を確認しつつ、俺は第一巻「涼宮ハルヒの憂鬱」を手に取った。

だが、そこに描かれていたキャラクターはうんざりするほど見慣れた人物でなかった。

「なんだこれ?」

題目には「涼宮ハルヒの虚栄」と書いてある。

現在刊行されている涼宮ハルヒと名の付くタイトルの全シリーズを欠かさずそろえているはずなのだが、このタイトルは知らない。

しかも、巻数が15と現在刊行されているものより5巻も多い。

俺の知らない間の5巻も発売していたというのか。

日ごろ、このシリーズの発売日をチェックしている俺に限ってこんなミスはあり得ないのだが、実際に今手元に持っているものは「涼宮ハルヒの虚栄」15巻である。

信じられないのと、実際中身が気になり始めていたところ、他所の女生徒が話しかけてきた。

「あの・・・、それ私のなんですが・・・」

申し訳なさそうに俺の手に持つ書物を指さしてそういうのだが、俺はその彼女を見て驚いた。

涼宮ハルヒシリーズの表紙には毎度のごとくその物語を代表するキャラクターが描かれているのだがそこに描かれているキャラクターと今俺の目の前にいる彼女が一緒なのだ。

「お前は誰なんだ?」

「・・・・・・・」

そう質問したのだがなかなか返事がない。

いろいろ考えながら微妙な空気感が漂ってきた


「それ、わたしが書いたの!」


「長門・・・?」

絵でしか見たことのないキャラクターが今の前にいる。

「これは夢か?現実か?」

それを確かめた目に俺はほっぺたをつねってみた、長門の。

「ひゃっ!?」

触った感触は紛れもなく現実だ。

どうやら夢じゃないらしい。

じゃあ、この目の前にいる本やら画面で見たことのある人物はいったいどういうことなんだ。端正に作られたAIロボットか。

「おいおい、いきなりそれは失礼なんじゃないか。女の子のほっぺたをつねるなんてよ」

今度はまたどこかで聞き覚えのある声がやってきた。

「お前は・・・」

「一体どういうわけ知らんが、つねるなら自分のほっぺたにしたらどうだ。夢か現実か確かめたいのならまず自分からだろ。言い訳は聞きたくない。セクハラまがいの野郎にはまず謝罪ってもんだろ」

なんかすごく怒ってる。

このキャラってこんなに感情をあらわにするような奴だっけ。

じめじめ長ったらしいセリフを愚痴っぽく言うような奴だったろ。

「もしかしてキョン?」

「あ?なんで俺の忌々しい昔からのあだ名を知ってるんだ?顔も知らないやつにそんな風に呼ばれたか無いんだが」

「いやだって」

俺の言いたいことを言わしてくれない。

「まあ、そんなことは今はどうでもいい。見てみろ、長門がこんなにも怯えてるじゃないか。詫びの一つでも言わんか」

長門は彼の背後からくっつくように顔だけ半分だけ覗かせて、不審者を警戒するような目で俺を見る。

「ああ、ごめん。ちょっと今混乱してて目の前のことが信じられなかったんだ」

キョンの吊り上がった目と眉はやがて平行になり、怪訝な表情へ変わった。

「いったん、話を整理しようか。お前はなんで長門の頬をつねった」

「そこに長門がいたから」

ぐはっ。

間髪入れずに普通に殴りやがった。

俺は尻餅を付いて意識が飛びかけた。

「いってーな。いきなり殴るなよ!」

「それはこっちのセリフだ」

「このご時世、なんとかハラスメントだのうるさく言われてる時代によくもまあ痴漢スレスレのようなことができたな」

「待ってくれ、言い方が悪かった。俺の話を聞いてくれ」

「待って、キョン君」

キョンの背後から長門が不穏な空気が漂う二人の間に割って入ってきた。

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涼宮ハルヒの虚栄 ミカン箱 @asitaarata

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