純潔絶頂聖女伝 奔放な純潔聖女の聖水は万能です

沖石絃三

売り出し中の新米聖女です

 私の名はフランソワーズ・モレル。今売り出し中の新人聖女です。

 

 聖女も勇者も『一人だけで引退すると次代が現れる』というわけではなく、職業の一つであまり多くはありませんがそれなりにおります。ただ資格を賜るためには条件があって、それを満たさなければなりません。

 私は学校の聖女科で学び、神殿の魔鏡の判定で聖女の資格を賜ることができました。


 聖女の条件では純潔であるということが最大の条件です。つまり処女であるということです。生涯を聖女として過ごす大聖女様も珍しくありませんが結婚などで引退する方もたくさんいらっしゃいます。

 聖女ではなくなってもヒーラーの能力は残りますので、修道女や回復師などに転職される方が多いです。

 

 私は正真正銘の聖女なのですが、異性の友人も多く派手に見えたり遊んでいると思われることもあって、学生時代は誤解されることも多く『どうせ聖女の資格は得られない』などと陰口を叩かれたりもしました。体つきも良いため、服装も聖職者らしいものでなく踊り子的なものを好んでいたことは、誤解を招く大きな要因であったかも知れないと反省しております。


 最近、私の作る聖水がとても評判が良いのです。超聖水などとも呼ばれております。あまりに評判が良いので教会や冒険者ギルドにも少し卸しております。伝説級ポーションであるエリクシールのような欠損を復活させるような治癒力はありませんが、通常のケガの治癒やアンデッド系への効果は十分です。


 今日もフラン治療院に冒険者の戦士が聖水を求めていらっしゃいました。治療院と名乗っているのはちゃんと光魔法での治療もできるからなのですが、聖水が優秀すぎて傷なども聖水をかけたほうが治るのに効率がいいのです。魔力にも自信のある私としては光魔法で治したいのですけれど。

 

 お昼前にお茶をいただいていたら、聖水を求めて冒険者のお客様がいらっしゃいました。


 「やあ、フラン様。ゴーストやレイスのいる迷宮にいくので、剣士の俺としてはフラン様の聖水が必要なんだよ」

 「シンさま、いらっしゃいませ。ゴーストやレイスのような幽体には物理攻撃の剣士さまだと困りますわね」

 「そこで、剣の鞘に聖水を仕込んでおくのさ」

 「!」

 「そうすると抜いたときに刃が聖水で濡れた状態になり、幽体を切り裂くことができるんだ!」

 「そんな使い方が……でも」

 「うん、もちろん剣を二本持って一つをアンデッド用にしておくんだよ。聖水には治療効果があるからね。普通の敵には切っても傷を治しちゃうかもしれないからね」

 「冒険が終わったらアンデッド用もちゃんときれいに洗ってさやも乾かしてくださいね」

 「もちろんだよ!」


 聖水をまとわせて斬るなんて、そんな使い方があったなんで、思いつかなかったわ。


 しばらくして、高ランク冒険者の常連のお客様がいらっしゃっいました。


 「やあ、フラン様。今日は上級の超聖水を売ってくれ。今回の行き先はやっかいなアンデッドが出るところでね、上級のものが欲しいんだ」

 「ムタさま、いつもありがとうございます。でも上級は高いですし、確実に浴びせればふつうの聖水でも効果は十分かとおもいますが」

 「今回のところはリッチが出るらしいんだ」

 「まあ、魔導士がアンデッド化したリッチですか、それは強敵ですわね」

 「以前偶然リッチに襲われたとき、お守りとして持っていた上級の超聖水で助かったんだ」

 「まあ、どんなふうに?」

 「パーティ全体に麻痺の魔法をかけられてね、絶体絶命だったんだけれど、倒れたときに上手いこと超聖水の瓶が顔の近くに転がってきて、顔は動いたから口で栓をはずして口に超聖水を含むことができたんだ」

 「まあ、口に!」

 「リッチが俺の魂を吸おうと顔を近づけてきたときに、霧吹きのようにして超聖水を浴びせたんだ!効果は抜群だったよ!」

 「それはよかったですわ」

 「さすが超聖水、水のようだが変な味はしなくて不思議な感覚だった、あれが光の刺激なのかな」

 

懐かしそうに話す遠い眼を見て、私は少し恥ずかしかいような気持ちでした。


 ちなみにギルドや神殿では、私の作る普通の聖水は「上聖水」、上級聖水は「超聖水」として売られているようです。

 私が普通の値段で売っていたところ、神殿にクレームを言う方も出てきたりする騒動にもなったので、神殿とギルドに納入することになりました。値段も決められてあちらに合わせた価格で売ることになりました。

 私としては今までよりも高い値段で売れて良いのですけれど、いわゆる「並聖水」を作っているほかの聖女からは快く思われていないでしょうね。学生の頃の噂もありますし。

 

 学校で習う一般的な聖水の作り方は、水魔法で作った純水を容器に入れて、手で包むなどして聖女の神聖な魔力を巡らせて聖水にします。

 純水を使うのは不純物の浄化に強い魔力が必要なためです。その代わり不純物が浄化された聖水はより強い聖水になります。

 

 家族を失って悲嘆に泣き続けた聖女の涙が聖度の高い聖水であったという伝説もあります。ふつう聖女の涙はたとえ聖女の魔力のある体を巡った水分だとしても、そのまま高聖水になるような高い聖度はありません。伝説の涙は聖女の体を巡り感情とともに魔力が高まって流れた結果の聖水なのでしょう。わたしにはよくわかります。


 午後になると、小鳥のように見える妖精が、勇者トモからの手紙を届けてくれました。アンデッドに狙われた村を救出する依頼を成功させたため、もうすぐ戻ってくるとのことでした。勇者も聖女同様、今代に一人とかではなく、何人もおります。

 勇者トモドールは私の幼馴染です。トモくんは幼い私が初めて口づけを交わした相手でもあり、仲がよく恋人のような関係だった頃もあります。

 私が聖女の資格が認められなかったら結婚していたかもしれません。聖女学生なのにふしだらな関係だと誤解する人たちもいましたが、私は神殿で聖女と認定されましたので、今ではご近所様にも『家族同様に仲の良い同郷の幼馴染』と認められています。

 再会が楽しみです。冒険の疲れを癒してあげないと。


 夕方になりました。そろそろ夜営業まで店じまいです。近いうちにトモくんが帰って来る、たくさん癒してあげよう、と思いながら閉店準備をしながら魔力を巡らせます。今日の分の聖水もちゃんとできるように、もうひと頑張りです。朝からお茶を飲んでいましたので水分は十分です。なるべく聖女の神聖なる魔力を宿らせるのです。魔力量も高まってきました。限界も近いかと思いましたがまだ頑張ります。限界だと自分で感じてあきらめてしまっては聖水には高められず元も子もなくなってしまいます。

 私自身の力ではあらがえない限界を超えてこそ神聖なる聖水はあらわれるのです。まだいける!と、プルプル震えながらも思った時に、ついに神聖な魔力の高まりが私の意志の限界を超えました。


 すぐに準備していた容器に聖水を収めました。限界まで頑張った私はしばし放心状態です。落ち着いてからスポイトで出来立ての聖水を判定魔道具に一滴たらします。きちんと聖水と判定されました。判定色も上聖水になっていました。人の力で魔力の高まりに限界まで耐えるのは大変なのですが、限界を超えた後の神聖なる聖水生成の瞬間のすばらしさにやめられなくなってしまいました。

 苦難の後にこそ神聖なる悦びがあるのです。聖水の評判も良く、いいこと尽くめです。


 三日後に勇者トモが聖都に帰ってきました。ここ聖都ヨルサルームは神官のいらっしゃる神殿があり、私が聖女科を卒業した王立学校もあります。とても栄えていて私も卒業後に先輩から店舗を譲り受けて治療院を開いています。神殿もありますし、冒険者向けのポーションや聖水も手に入りやすく、魔法の都といった趣です。

 この国で一番大きな町は王宮のあります王都ヒルサルームで、商業の中心です。ここヨルサルームからは馬車で二時間ほどの近郊です。学校の同級生のうち、鍛冶など生産職や王家の近衛騎士や貴族の騎士を目指す戦士職は王都に、僧侶や賢者、魔法使い、聖女と言った魔法系と、戦士でも冒険者は聖都にとどまる人が多いのです。

 結婚したり家を継いだりで故郷に帰る人も多いので、私のように先輩から店舗を譲られることもありふれてます。先輩は「脱聖女しちゃった婚」で旦那様の故郷で回復師として治療院をやるそうです。そこでは最近迷宮が発見されてヒーラーはとても歓迎されているようです。実習でお世話になったときに私があみだした「脱聖女しない癒し術」を教えて差し上げたのですが、おそらく準備不足と、魔力の高まりかなにかで、脱聖女してしまう状態になってしまったようです。


 トモくんはミュドレアの実をお土産に治療院に来ました。ミュドレアの花はその香りで人を魅了状態にしてしまう珍しい花なのですけれど、その実はさらに珍しく解呪のポーションの材料となるのです。毒を以て毒を制すみたいな感じでしょうか。

 診察寝台のトモくんの全身を調べて、物理的な傷の治療をします。光魔法で内臓も走査すると毒を吸い込んだのか肺にダメージがありました。診察にあたって、自分の体への集中力を高めるためにアイマスクをしてもらっています。私の治療院での決まり事です。


 「肺を浄化しますね、体から力を抜いて深呼吸の準備をしてくださいね」


 わたしはトモくんに人工呼吸の要領で神聖呼気を送り込みます。肺が浄化できました。

 仕上げに邪気の浄化の癒しを施術します。パーティのみで孤独にモンスターと死線を超える戦いをすると魔力に邪気がまとわりついてしまいます。それを聖女の神聖な魔力で魔力を高め、自浄効果との相乗効果で浄化を行うのです。強制的に浄化するのでなく、癒しで使われない魔力も活性化させるのです。


 「トモくん、浄化の施術をするわね」


 トモくんの邪気が集まりやすい部分を調べます。やはり邪気が溜まっています。手で包み魔力を込めます。邪気がつられるようにやさしく邪気が絞れるようにすると勇者の魔力も引きあげられ、雑邪気が浄化できました。

 次は淀んでいる魔力を吸い出します。体をめぐる魔力が邪気を中和しようと変化したものですが、邪気を浄化したのでこちらも余分になるので吸い出します。吸い出されていく感覚から勇者から「おおぅ」とうめき声が出ましたが、おかげで彼自身の淀んだ力が活性化し、浄化に成功しました。


 「ねえトモ、お客さんから聞いたんだけどね」


 トモくんに剣士のシンさんから聞いた剣に聖水を塗るとゴーストも斬れるという話をしました。


 「今さらだよ、俺はずっと使ってるよ。フランの聖水は素晴らしいからな!」

 ムタさんの霧吹きで聖水を浴びせたエピソードも伝えました。

 「俺は剣の鞘に聖水を入れてるわけじゃないんだ。口からの霧吹きで剣に吹きかけてるんだぜ」

 「トモくんも私の聖水を口に含んで霧吹きしていただなんて初めて知ったわ」

 「それで、霧吹きするために含んでるとちょっと飲んじゃったりするんだけど、毒や呪いで弱ってるわけじゃないので、聖力が溢れ気味になっちゃうんだ。それで今日はどうせならフランに返したくて」

 「あら、討伐して感謝された村で発散して還元してくればよかったのに」

 「フランに返したかったんだよ」

 「ありがとう、じゃあ、ありがたくいただくわね」


 体勢を変えてトモの勇者の聖魔力を受け入れます。こうなることは予想していたし、期待もしていたのであらかじめ準備はしていました。しばらくして私の魔力も極大化し、その瞬間に超聖水も聖成されたので準備していた容器で無事回収できました。


 トモくんのおかげで超聖水が聖成できてよかったわ。


 トモくんはよっぽど滞留聖力があったのかそのあと3日続けて治療院を訪れました。超聖水も買っていき、今は落ち着いて次の依頼の準備をしているみたいです。


 今日は幼馴染のマルセルが治療院を訪れました。マルセルは王都で騎士をしています。

 「マルセル、久しぶりね。聖都に出張なのかしら」

 「出張というか、アンデッドとの戦いの戦術研修みたいなものでね。こっちでトモに会ってフランの聖水を使った戦い方の話を聞いたんだ。そのときフランが治療院をやってるって聞いたから」

 「マルセルは卒業と同時に騎士に採用されて王都に行ってしまったから、わたしが治療院を引き継いでやっていることを知らなかったのね。ごめんなさい、てっきり連絡したと思っていたわ」

 「アンデッド対応の部隊にいてね、アンデッド討伐実績のある冒険者との情報交換の研修でトモと一緒だったんだよ」

 「じゃあ、ケガとかに呪いのかけらや邪気がまとってないか診察するわね」

 「よろしく頼むよ」


 マルセルはアイマスクをして診察台に横になります。全身の細かな傷を治していくと左ももの傷跡に呪いが残っていました。


 「ここの傷は呪いが残っているわ」

 「そうか、どおりで治りにくいと思った」


 メスで少し傷を開き、超聖水で解呪と治療をします。すっきりときれいになったわ。


 「すごい! 痛みが残って常にそこが気になっていたのだけれど何ともないよ! フランありがとう」

 「他には邪気や呪いはなさそうだわ」

 そこへ手紙妖精の小鳥が入ってきました。この色は神殿からね。

 「どうしたんだい?」

 「神殿から上級の聖水が品切れになって、納入してくれないかとの打診だわ」

 「そうか、それは我々のせいかもしれないな。トモからの情報で槍や弓矢でアンデッドや幽体に有効な攻撃ができることが分かったんで、買い付けていろいろ試しているんだよ」

 「幸い今は在庫がたくさんあるの、返事を出して使いの運び屋さんに来ていただくわ。」

 「それなら僕が一緒に持っていくよ。収納袋もあるしね。戻ってきてからゆっくり浄化をしてほしいんだ」


 収納袋と言っても異次元ポケットのようなものはありません。保護や軽量化の魔法がかかった鞄といった感じです。

 マルセルの収納袋に上聖水と超聖水を入るだけ入れて二人で神殿に向かいました。


 神殿で上聖水と超聖水を50本ずつ納入すると神官さまに大変喜んでいただけた。


 「騎士をたぶらかせて人足にして運ばせるだなんて、さすがビッチ聖女だわ」

 見知った顔の修道女が陰口をたたいていました。これにはカチンときました。私はともかく、マルセルのことをそんな風にいうなんて!

 「あら、聖女科の委員長だったセリーヌさん。それならあなたは張形ディルド聖女かしら? いや、張形ディルドのせいで聖女になれなかったのだから違うわね、ディルド・修道女ナムかしら?」


 元同級生のセリーヌが顔を真っ赤にしてわめきだしました。学生時代は悪口も受け流していたのでまさか的確に反論してくるとは思いもしなかったのでしょう。彼女は張形ディルドを使ったオナニーで純潔を散らし、快楽にふけっていたのです。それでも男女間の交わりではないので聖女資格を賜れると信じていたようですが張形ディルドに作成者の男性の魔力が宿っていたので純潔とはみなされなかったのです。

 彼女が神官の護衛の修道士たちにとらわれながらもわめき続けていると声がかかりました。


 「なにやら騒がしいようですね」

 「大聖女様!」


 神官が驚いて手を広げています。

 お声の主は神殿最長老の大聖女、ロザリー・シモン様でした。いつも神殿の奥にいらっしゃってロビーの方までいらっしゃることはほとんどありません。


 「フランソワーズね。あなたの聖水は素晴らしいわ。わたくしの全盛期のものを上回るくらいね」

 「お姿は存じておりましたが、お初にお目にかかります、フランソワーズ・モレルでございます。大聖女様に覚えいただき光栄の限りでございます」


 お若く見えるロザリー大聖女様に驚きながらご挨拶していると神官様が補足しました。


 「ロザリー様は、あの伝説の聖水『聖女の涙』の伝説のもとになった、霊魔王スペクターを浄化した聖水を作られたんだ」

 「あれは好き勝手に尾ひれがついてあんな風にいわれているだけなのよ」

 「すごいですわ、伝説が生まれるほどの効能ではあったのですよね」

 「そうね、でもあなたの超聖水もそれほどのものよ。世が世なら伝説を塗り替えていますよ。今は人と魔族や霊族との大戦争もなく平和なので真価がわかりにくいですからね」

 「身に余るお褒めの言葉です。大聖女様がもたらした平和こそが最上でございます」

 「フランソワーズ、あなたも聖魔力が高まって限界のいただきになると聖水をもたらしてしまう体質かしら」


 言葉を選びながら大聖女様がおっしゃった。


 「ではロザリー様も!」

 「そうよ、私は涙も流れてしまうので、あのような物語ができたのね。今日もたくさん持ってきてくれたけれど、体調管理はしっかりとね」

 「ロザリー様……」

 「わたくしは魔力はあるけれど、もう集めて高めることがむずかしいわ。私を支えてくれた勇気ある者ゆうしゃはみな亡くなって、生きているのは大神官エドモンだけね」

 「ロザリー様、これを」

 「これは……ミュドレアの実?」

 「幼馴染の勇者トモドールのお土産なのですが、たまたま超聖水がもたらされるときに私が握りこんでいたのです。解呪薬の材料にしようとしたのに聖力がしみ込みすぎて使えなくなってしまったのです。大聖女様なら活用法をご存知かもしれないと思いまして」

 「まあ、あなたの聖力が封じ込められているミュドレアの実とは貴重だわ。久しぶりに調薬の意欲が湧いてきたわ」

 「喜んでいただけて何よりです、それでは失礼いたします」


 伝説の大聖女様に会ってお話してしまいました。

 よかったわ、私の方法でも間違っていなかったのでした。


 軽やかな足取りで神殿奥に戻っていかれるロザリー大聖女様を見送っていると、先ほどの神官が聖水代を持ってきてくれました。


 「こちらが聖水代となります。フランソワーズさんは魔力が大きく集中力があるようですけれど、あれだけの聖水を作るのは恐れ入ります」

 「魔力をお手伝いする方がいれば基本のやり方でも効果が上がると思いますわ」

 「しかし聖水は一人の魔力で作らないと聖水になりませんので……」

 「直接にではありませんわ。聖水に魔力を込めている聖女に魔力与えて手伝うのですわ。聖女でなくとも聖女が信頼する方であれば、魔力の強い神官様や修道士殿でも効果があると思いますわ」

 「なんとそんなことが! そういえばかつて大神官様も大聖女様が伝説の聖水を作られるのにお力添えをされたと聞いたことがあります」

 「ええ、でも聖女は純潔な乙女です。信頼できる相性の良い方でないと難しいと思いますわ。場合によっては女性が補助するのがあっている方もいると思います」

 「そうですね、聖女付きの修道女を通じて聖女たちの気持ちを探ってみます」


 聖女の負担が楽しくなる方向で改善されれば、私への風当たりも和らぐかしら。でもあまり相性が良すぎると聖女を寿引退してしまうかもしれないわね。


 マルセルと治療院に戻り、浄化の続きです。

 「魔力というか聖力が滞留して淀んでいるようだわ。マルセルは魔力はあるけど魔法は使えないから身体強化に使うぐらいなのね」

 「うん、アンデッド相手だと物理攻撃はあまり効かないし、霊体には全く効かないので消化しきれていないのかな。これからは聖水をつかったやり方で動きまくるけどね」

 「マルセルはニーナと仲が良かったわよね。付き合っていないの?」

 マルセルは同郷のニーナと仲良しで将来は結婚すると思っていました。マルセルが騎士に決まって婚約するかと思ったのですが、故郷のニーナからはそういった話は聞いてません。

 「うん、ちょっと勇気がないというか、悩みもあって」

 「じゃあ、その話は淀んだ魔力を吸い出してから聞くわね」


 魔力を彼の衣類をずらして吸い出す準備をすると、マルセルは慌てたようで、アイマスクの下の顔が赤くなっています。

 聖力が滞留しているそこは苦しそうでした。包みこんで表面を丁寧に浄化します。

 《ここが狭くて解放されないのだわ》

 狭くなっているそこから差し入れて丁寧に浄化していると、滞留した聖力が噴出したので吸い取ります。まだまだ滞留しているようですので根気よく吸い出していると、二度目の噴出がありました。


 マルセルの耳元で語り掛けます。


 「ねえ、マルセル。あなたの苦しそうな問題を治療できると思うの。それも治るのに時間がかかるような方法ではなくて。私を信じて任せてもらえるかしら」

 「う、うん。フランなら傷なんかもすぐ治せるし、信じるよ」

 「大丈夫、痛いとかはないと思うわ。ちょっと熱く感じるくらいよ」


 わたしは脱脂綿に超聖水を含ませてメスの刃を濡らし、そのまま脱脂綿をメスに巻いたまま持ちます。これで常に超聖水が刃を濡らします。この状態で患部の皮膚を切ると傷口がすぐに治療されるはずです。

 あとは完成形を思い描きながら正確に切って治療するだけです。治療中は予想通りちょっと熱く感じただけだったようです。

 仕上げに聖水を浸した脱脂綿で拭いて、衣類を戻してアイマスクをはずします。

 

 「マルセルお疲れ様」

 「フランソワーズ!」

 真っ赤な顔のマルセルに抱きしめられました。

 「治療の後の様子を見たいから、あさってまた来てね」

 「ありがとう、フランソワーズ」


 まだマルセルは興奮冷めやりません。


 「治療できたからって、調子に乗って色街に行ってはダメよ」

 「……冗談はよせよ、フラン」


 マルセルは落ち着いたみたいです。



 二日後、マルセルがやってきました。とても晴れやかで自信に満ちた表情です。


 「じゃあマルセル、確認するわね」


 診察台のマルセルにアイマスクを着けて確認に入ります。

 治療後の様子は問題ないようです。この二日間で滞留した聖力を吸い出します。

 そして最終確認です。


 「マルセル、仕上げの確認をするわね。聖なる魔力が高まってくると思うけれど限界まで魔力を高めるように努力してね。私も引き出すようにするからお互い頑張りましょう」


 マルセルを受け入れます。アクシデントが起こらないよう、カットした専用の大きな絆創膏まえばりでガードも万全です。マルセルの緊張が伝わってきますがすぐに魔力の高まりを感じます。

 魔力を集中し限界を超えたのかマルセルが聖力を放出しました。私も魔力が高まり、超聖水はもたらされませんでしたがとても満足感がありました。トモの時と違って限界を高める役目は私ではなく故郷の親友にまかせるわ。

 マルセルは頼もしい輝く笑顔で帰っていきました。

 イエス!フラン治療院クリニック



 翌週、マルセルとニーナの婚約と、大聖女ロザリーが大神官エドモンのサポートにより私の超聖水以上の伝説級の神聖水を聖成したとの二つの知らせが届きました。


 私もがんばらないと!



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