第63話 多方面作戦
多方面作戦
1903年 1月-朝鮮半島北東部海上-
此方にも宣戦布告声明文が到着する。
「宣戦の布告を確認、攻撃を開始する、目標、ロシア艦隊最奥部、各艦主砲撃てっ!」
遂に号令が飛ぶ。
ロシア艦隊も砲を撃って来て居るが、届かない距離を確保して居る為此方には届かない。
一部の軽巡洋艦が此方に船首を向けて突撃体制を取るが、すぐに機雷の餌食となって火災が発生する。
更に大日本帝国艦隊砲撃第一波が着弾する。
最奥に陣取って居る数艦が大破、轟沈する。
泡を食ったロシア艦が退避する為に方向を転換するが、浮足立って隊列を無視して居る為に味方艦に体当たりをしてしまい当たり所の悪かった方の艦が浸水、中破し沈んで行く。
もうこうなってしまうと砲撃戦どころでは無い、混乱が生じロシア艦隊は既に針の筵である。
そこへ、ロシア艦隊には無い回転翼機、”八咫烏”が上空に現れ、対艦用ロケット弾による追撃、これには流石のロシア艦隊提督も負けを認めた。
「駄目だ、日本には勝てない、降伏をするのだ、白旗を上げろ!」
しかしそれを良しとしない者も居る。
「臆したか、提督、貴方のちじこまった肝っ玉では勝てる戦争も勝てたものではない。」
副長が提督に反旗を翻し提督を射殺。
ところがそれを見ていた総舵手が背後から飛び掛かり副長の手から拳銃を奪い取ると副長を射殺。
次席指揮官にその判断を委ねる事と成った。
そしてこの次席指揮官、実はレーニンに弟を開拓送りにされ、国家主席を信用しては居なかった。
「当艦隊は、降伏をする、残存艦で我に賛同する者は全艦白旗を上げ、全ての戦闘行動を停止せよ。」
これが手旗信号にて全艦へと伝えられ、白旗を上げる事と成った。
賛同した艦は残存艦の凡そ三分の一であったが、裏切り者として味方艦よりの砲撃を受けその半数が撃沈、白旗を上げなかった艦船は、八咫烏による対艦ロケット弾の餌食となって行く。
そうこうして居る内に、八咫烏の対艦ロケット弾の火力に屈し、遅ればせながら白旗を上げる艦も徐々に出て来る。
そして最終的に、全体の三分の一程度の艦船が鹵獲されるに至った。
7隻追従して居た補給艦を2艦だけ、人員の輸送に残した大日本帝国艦隊は、機雷の除去を済ませると鹵獲艦の全てを済州島へと輸送したのであった。
この鹵獲艦は帝国艦隊の船と比べて既に2世代程も過去の設計思想である為、解体され、資源として再利用される事と成るだろう。
そうこうして居る内に、秘密裏に富山港で開業して居た益田造船の建造中であった空母が水浸式を迎えるのみとなって居た。
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-旅順港-
八咫烏第一師団による航空攻撃が開始して居た。対馬県最北端の国境付近に先行して居た補給部隊による給油と弾薬補充で、3部隊に分けた波状攻撃で対地ロケット弾による攻撃と対艦ロケット弾による艦船の処理を行って居た。
更には第2潜水艦隊による旅順港より出航せんとする清国籍軍艦(ロシア軍によって鹵獲されて居る)の撃沈を目的とした雷撃を狙った行動によって完全に旅順港は沈黙させられていた。
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-時を少し遡り、宣戦布告3時間前-
第二潜水艦隊は、旅順港を目指していた。
当然、この港を完全封鎖する為である。
「報告します、当艦隊以外のスクリュー音を検知しました。」
「何だと、それは大型艦船か?」
「いえ、大きくは無さそうなのです。」
「数は?」
「は、恐らくは1艦だけと推測します。」
「合衆国当たりの小型偵察艇辺りだろうか?」
「その線が濃いかも知れません、もしくは完全潜航が不能の潜水艇かと・・・。」
「ああ、あの噂の潜水艇か、我が軍の済州島基地に補給を求めて立ち寄ったと言う・・・」
修一の作り上げた潜水艦は正に規格外であったのだ、凡そ40mも潜れる物を作ってしまったのは正にヤラカシであった、この時代には潜水艦と言う名は有っても精々艦船自体は完全に海底に有っても艦橋は1m程海面に突き出し、潜望鏡で海面を確認しながら航行する形になるのである。
修一が開発した潜水艦に馴れてしまっている彼らからすると非常にお粗末な物でしか無かった・・・
「それでは艦隊に指示を出して全機関停止。」
「は、了解しました。」
艦の叩音盤(こうおんばん)を叩き、叩音信号で指令を伝え、全艦の動力を停止する。
音響探査官よりヘッドホンを奪った艦長が確認する。
「うむ、成程、スクリュー音がハッキリ聞こえておるな・・・これが他の艦船のスクリュー音か。」
確かに近くに感じる。
「合衆国であれば同盟国だが、万一の事も有る、一番二番、魚雷発射準備。船首上げ、五度。」
「該当艦と思われます、叩音信号検知しました。」
「読み上げろ。」
「は、読みます!合衆国潜水艦アリゲーターより大日本帝国潜水艦隊、当艦は貴艦隊へ合流し作戦に参加するものである。 だそうですが・・・」
「何だ、我らの潜水艦術を習いにでも来たのか? それではこう返すとしようか、 了解した、8ノットで先行するべし。」
これを送ると暫くして、こんな返答が帰って来た。
「貴艦隊が何処に居るか見えない、正確な位置を送って欲しい。
との返答が返ってきましたが・・・」
「教えてやったらよかろう、 当艦隊は貴艦の艦の真下30m付近を航行中だと・・・。」
「宜しいのですか? いくら同盟国と言え、恐らく彼らの船は潜れる物では有りません、ならばこの艦は軍事機密に該当するのでは?・・・」
「そうか、そうなってしまうか・・・どうしたものか・・・」
悩みに悩んだ結果、艦長の出した答えはシンプルかつ単純な物だった。
「では、こう送っておけ、 我ら大日本帝国潜水艦隊の秘匿性を損なう情報は送れない、貴艦の位置は把握して居るので目標の旅順港へ向けて先行されたし、我々は常に貴艦の背後にて警戒を続けている、と。」
まさに苦肉の策であった、それに対し、アッサリと了承して先行するアリゲーター。
そして、確かに背後を追尾してはいたが、水深は30mを上回る事は無かった潜水艦隊であった。
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旅順港ではロシア軍によって清国海軍巡洋艦が乗っ取られて既にロシア軍によって運用され始めていた。
合衆国潜水艦アリゲーターはその情報を本国へ持ち帰る為の任務について居るだけであり、普通に武器等は積んで居ない、むしろ武器を積める構造には無かった。
清国の巡洋艦が少しだけデザインの変更がされて居る事を確認し、同行した日本潜水艦隊にも情報共有を促し帰路に就こうとしたのであろう、叩音信号で知らせて来たので、此方は
『貴艦は早々に下がり退却せよ、我が艦隊は貴艦を逃すべく戦闘を開始するものである。』
アリゲーター内ではどうして潜水艦が直接巡洋艦クラスに攻撃が出来るのだと喧々諤々で戸惑って居るようだ、何だかにわかに騒がしい。
仕方が無いのでアップトリム5度で深度10mまで浮上し、魚雷発射、ロシアの手に落ちた清国艦には、早々に退場して貰う事にしたのであった。
既に実践経験も有る彼らは、魚雷を全弾命中させ、轟沈させる事に成功。
何が起こったか判らないアリゲーターは尻尾を巻くようにして逃げ帰ったのであった。
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-アリゲーター-
「何だ、一体何が起こった?日本の潜水艦はどんな性能なのだ?そもそも何処に居るのかまるで分らなかったでは無いか。」
「艦長落ち着いて下さい、今はそんな事よりもこの海域から脱出する事が先であります、後でごゆっくりお考え下さい!」
「ああ、そうであったな、巡洋艦クラスの船が轟沈したとあっては血眼になって探しておるはずだ、そうなっては見つけられても不思議では無かった、急ぎ反転、全速離脱!」
水面から目だけ出して近付いて、夜間であれば時限装置付き爆薬を敵艦に貼り付けて離脱する、正にワニと余り大差の無い攻撃手段しか無いアリゲーター乗組員には到底理解が出来ない事であった。
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-その頃、本土-
修一の指示で、新潟県阿賀野地区と、秋田県内に確認されている油田の再調査が行われて居た、他にもまだ確認されて居なかったが富山県の礪波(となみ)、秋田の鮎川及び由利の地質調査も行われ、油田が見つかって居た。
他にも、ガス田が数カ所発見された為に、火力発電及び都市ガスの為に開発が始められて居た。
この発見に関して、元神童が啓示を受けたのだ等と噂される事も有ったが、吾輩は新潟地方と阿賀野地方で油田が見つかった経緯から、東西方向へ向かって他にも油田が出る可能性が有ると言う計算が成立するのだと学問的に導き出したと言い訳をしたのだが、本当はちょっとした雑学的に前世で聞きかじって覚えて居ただけである。
それに、国内の油田をうまく開発できたとしても、質も余り宜しくなく、軍事行動で使用すれば生産の追い付く物でも有るまい。
吾輩は仕方なく、現在英国領となって居るカリマンタンに、英国軍との友好の為の駐屯基地を作れないかと陛下にお願いした所、思いの外簡単に英国側からの許可、と言うかむしろ歓迎するとの返答が帰って来たので、早速陸軍施設課大隊3個と輸送艦5隻、護衛巡洋艦4隻を向かわせるよう、各関係各所へ連絡を取る。
英国海軍は都市バリクパパン付近に駐屯して居るので、我々は北側のブルネイ付近に港を作る事にした。
何故そこかと言うと、ブルネイには油田が有るのだ。しかもブルネイだけでは無く、一山超えたミリと言う地域にも油田が有るのだ、駐屯軍の基地の近郊の開発は我々に委ねるとも英国側から許可を貰って居るので、敢えてわざと此処にしたのだ。
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1903年 2月
-ロシア・モスクワ-
「何だとっ! 我が軍でも最強の火力を誇る第1第2混成艦隊が壊滅しだたと!?」
「はい、帰還した者達の証言では、日本の艦隊は我が軍の方が届かない距離を余裕で届かせる大砲を有しており、その上以前にウラジオストク等に式設されて居た物と同等の機雷、そして空を飛んで来る奇妙な兵器による攻撃、未知の兵器で構成された日本軍は敵に回してはいけないのでは無いか、との事でしたが。」
何だと!日本は何時の間に攻撃機を完成させたのだ! 私の他にも逆行転生をした者が居たと言うのか?
レーニンは、いや、前世でスターリンの側近を務めた狂人、ラヴレンチー・パーヴロヴィチ・ベリヤであるのだが・・・
彼は今頃ようやく益田修一の正体に気が付いたようである。
ええい忌々しいサルめ、奴が一歩先の技術を提供して居る未来人であると言うならば、ここはやはり何としても奴の技術を盗み出さねば成らん!幸いにも今回朝鮮半島に駐屯して居る隊が居るのだからそこから何とかその技術を盗み出そう、早速諜報部に連絡を取らねば!
こうして対馬県陸海合同基地に偵察部隊が派遣される事に成るのだが、ここにも、帝国軍諜報部伊賀組が配置されて居るのは言う迄も無い事であった。
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-パリ戦略参謀室-
「うむぅ・・・ロシアすら手も足も出ずに艦隊を食われたか、一体何なのだ、あの異常な戦艦は・・・」
次々と再開発され、スクリューすら廃しウォーターポンプ式ハイドロジェット推進に切り替わり、側面推進すら実現した戦艦、重巡洋、軽巡洋、更には新造駆逐艦は、既に他国と比較しても2世代も先に進んだ代物である為、無理も無いのだが・・・
その上、日本のスクリュー船技術を学び建造された英国艦隊にも最近では後れを取って居た。
「しかもあの回頭式の砲台は何なのだ、凄まじい命中力で手も足も出ん。」
頭を抱えるパリ・コミューン政府。
その陰で、パリ・コミューンの牛耳るこの現政府と軍隊の失態を、陰で虎視眈々と狙う組織が有った。
それは、英国や合衆国との連絡を密に取る、反社会主義組織であった。
彼等もまた、合衆国よりアサルトライフルを入手し、着実にクーデターを企てていたのである。
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-日本 技術開発省-
第二世代スーパーコンピューターに計算をさせ、第三世代スパコンの開発。
但し、既にコンデンサもICも、予定以上の高性能を発揮するようになって来て居たので、ここまで揃えば少し大きめなサイズになっても格段に性能の向上した物が作れると見て、最低限欲しい性能ありきで計算をさせている。
そして今、航空機がとうとう政府に認可を貰えた事により、量産型の設計を開始して居た。
「閣下、考え事してる時って何時も謎の鼻歌謳って居りますよね、先程のは何という曲なのですか?」
今では吾輩の副官になっている井上少佐が突然聞いて来る。
「う、煩いな、何でもいいでは無いか・・・」
まさか、バン〇リの曲だったなんて言えやしないだろ・・・
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