『カプセル』

サトウ サコ

『カプセル』

 ※の両親はいつも、水素化合綿で、摂取している。随分非現実的トリップだと考えるが、三十路を越えると主流なのだそうだ。それ以外のトリップを知らないと言えば嘘になるが、それ以外のトリップを信用していない。

 水素化合綿の毒を存知ない、悲しい大人の末路である。

 ※も両親から散々 窒素液吸入器を馬鹿にされた。煙が出ないのが悪いらしい。煙が全てを払ってくれるとでも思っているのだろうか。※は気分を害される。

 他の※たちだってそうだ。みなこぞって、大人の悪口を言う。


 五十年前に営業を終了させたカプセルホテルを占領した大人たちは、密閉された空間で※らを産み落とした。※らはだから、外の景色を知らないままに、窒素吸入器と水素化合綿の酸っぱいニオイを嗅いで大きくなった。


 やがて色彩が失せ、全てが灰色か白かになると、※たちは大人を反面教師として営みを終了させることに話が落ち着いた。つい五年前のことである。

 以降、カプセルの中に産声が響き渡ることはない。行為の代わりにトリップする。

終焉だ。※らは自分らを嘲笑うことはしない。だってこれは、全て※らの責任では無いからだ。

 全てお前が悪い。そうなんだろ?


「さんざん支配するだけ支配しておいて、監視下に置いておいて、それで何にも無くなったら手放して、※らの人生の総決算みたいに、そう言って、自立しなさい」


 -------だなんて-------


 ある日、かつての倉庫から一枚のポスターが出てきたので、みんなで分け合うことにした。

 ※が持っているのは、マントルの部分だ。輪郭が見えないから、大して感動はしないが、この月は、綺麗である。

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『カプセル』 サトウ サコ @SAKO_SATO

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