第39話 重荷
「今日は何でここに?」
永太が問う。確かに、こんな所なんて物好きしか来そうにない場所なのに、失礼だが如何にも無頓着そうな部長と蒼哉くんがここに居るなんて…。
「蒼…那岐原くんが一緒に行きたい場所があるって言うからさ、着いてきたんだ」
「どうしてもここ来てみたかったんだよねー」
蒼哉くんが笑いながら言った。にしても、世間とはなんとも狭い様で、こんな辺境の地にこの面子が揃うとは、何とも偶然とは気まぐれらしい。
「二人は何でここに?」
「あーそれはデ…」
「そ、蒼哉くんと一緒です!ここ来てみたくって…」
永太、今…なんか言いかけたよな?俺が無理矢理被せたけど…。なんかよからぬ事を察したので少しデカい声が出てしまった。
「あ、すみませんちょっと見て回りたいところがあるのでこの辺で…」
「あ、うん、またね」
俺は若干硬直している永太を引き摺って物陰の方へ連れて行く。少し問い詰めねば。
「…永太、なんか言いかけた?」
「イエナンデモナイデス…」
「なんで片言…?」
「…というか、吃音症治ったの?」
「あ…」
言われてみれば、確かに言葉の詰まりがない。調子がいい日とかはあるけど、それでも多少は詰まる。でも今は何故か全く詰まる気配がない。
…吃音症か。
◆
吃音症。
それは言葉が連発して出てしまったり、ある時は声が出なくなってしまう時もある。俺はまさに、この吃音症に苦しめられていた。
小学生の頃だったか。初めてこの症状が出たのは。みんなの前で発表する時、最初の言葉が連発して出てしまい、クラスメイト全員に変だと笑われた。
後にこれは吃音症なのだと知った。この症状になる原因は解っていないらしい。原因不明と言い渡された。
吃音症は簡単には直せない。ゆっくり喋る練習などをして改善しようと思ったが、あまり効果は出なかった。
そんな俺の状況を、母親は許してくれなかった。
「いい?幸牙、もう友達と話しちゃダメよ」
「な、なんで?」
「その喋り方よ、そんな喋り方じゃ人前に出せないわ。親として恥ずかしいわよ」
「で、でも、お、お母さん…」
「あーもう、聞いてるこっちがイライラするわ。もう黙ってなさい」
「……」
それ以来俺は誰とも話さなくなった。まだ精神的に幼かった俺にとってあの言葉は重すぎた。あの言葉が今も脳裏にこびりついて、剥がれない。剥がれてくれない。
俺が暗い性格になってしまったのもその頃からだっただろうか。中学、高校もそんな調子だった。おかげで友達の一人もまともに作れないまま卒業してしまった。
そんな時だったかな、あの人が俺の目の前に現れたのは。
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