第5話 けいちゃん

 ※注意 今回は一部暴力的な描写があります。閲覧の際は注意してお読み下さい。




 俺は蒼哉の作った朝飯を食べて、洗い物の手伝いをしていた。蒼哉の作った飯、めっちゃ美味かったなぁ…。


「あ、部長。この後どうするっすか?」


「どうするって…2人でどっか行くとか?」


「お、良いっすね!どこ行きます?」


 …ん?これデートな感じの流れ?


「んー…あ、俺、観たい映画があるんだよね」


「お!映画っすか!俺も観たいっす!」


 デート決定、やったぜ。


 俺達は10時過ぎ頃家を出て、映画館へ向かった。蒼哉と初デートか…でも蒼哉はデートとは思っていないんだろうな…。


「あ、部長。観たい映画のタイトルってなんすか?」


「あぁ、深海機コヴァンゲリヲンって言うやつだよ」


「あーあれっすか!今話題っすよね~」


 やはり話題ということもあって蒼哉も知っていたようだ。…にしても、会社以外でも部長呼びは少し硬いな…。蒼哉には「部長」としてではなく「虎島啓二」として見てもらいたいと言うか…。


「あ、あのさ」


「ん?どうしたんすか?」


「その…会社以外では…その…ふ、普通に名前で呼んで欲しいなって…」


「え?良いんすか?名前呼びして」


「う、うん…俺的にはそう呼んでもらいたい」


「…。映画楽しみっすね。」


「うん、楽しみ…え?」


 え?け、けいちゃん?え?まさかのあだ名で?


「え、け、けいちゃん…?」


「覚えてないんすか?俺達が小学生の頃、俺がけいちゃん呼びしてた事…」


 確かに俺は15歳までの記憶が全くない。そして俺が蒼哉からけいちゃん呼びされていた事も…。俺と蒼哉は幼なじみだったのか?会社での出会いが初対面じゃなかったのか?そもそも俺の記憶が無いのはなぜなんだ?俺は何も分からなかった。


 けいちゃん、本当に覚えてないんだ…。前々から薄々思っていた。俺が入社した時、けいちゃんは完全に初対面な感じだったから。俺はけいちゃんが記憶を失っている理由を知っている。それは、俺が小2、けいちゃんが小6だった時の話だ。


 俺とけいちゃんは小学生の頃、とても仲が良かった。毎日の様に日が暮れるまで遊んで、時々喧嘩もして、でもお互い1番の友達、いや、それ以上の関係だった。


 ある時、俺が居残りだった為、いつもより遅く学校を出た俺は、少々急ぎ足で帰っていた。片側1車線の道路に出た所で、俺は見てしまった。


 けいちゃんが虐められている所を。


 多分、けいちゃんのクラスメイトだと思う。確か3人居たはずだ。殴ったり、蹴ったり、暴言を吐いていたり、とても痛々しい状況だった。


 俺はけいちゃんが虐められているのを見ていられなくて、助けようと走った。


 その時。


 いじめっ子達が、けいちゃんを車道に突き飛ばしたのだ。遠くから車が走って来るのが見えた。俺は火事場の馬鹿力でけいちゃん目掛けて猛ダッシュした。そして、車道に突っ立ったままのけいちゃんを思いっきり突き飛ばした。


 ピピーッ!!


 俺の意識はそこで途絶えた。


 次に俺が目を覚ましたのは、病院だった。左目が開かない…眼帯をしている様だ。頭にも包帯が巻かれている。


「蒼哉!目が覚めたのか!」


「あぁ…神様…!」


 両親が横で泣いていた。でも俺は、何で病院に居るのかが分からなかった。俺は後々、自分で色々考えて、何とか思い出すことが出来た。


 俺は母親にけいちゃんは無事かを聞いてみた。


「けいちゃん…今、抜け殻の様になっているそうよ」


「え、何で?」


「多分、ショックだったんでしょうね。「自分のせいで友達が大怪我をした」みたいな感じでしょう。学校には来ているけど、目は完全に正気を保っていないそうだけど…」


「そう…なんだ…」


 正直、俺は親友が無事で良かったという気持ちしか無かったのだが、けいちゃんは俺が大怪我をして、その原因がけいちゃんにある事が相当ショックだったみたいだ。確かに俺は左目と額に一生物の怪我をした。でも俺からしたら「親友を守れた」と言う名誉の傷だ。


 俺は幸い後遺症もなく、前のように学校に登校出来るようになった。俺は復帰した初日、学校に着いたら真っ先にけいちゃんの元へ向かった。


「けいちゃーん!」


 俺はけいちゃんのクラスまで向かって大声で呼んだ。


「おーい啓二~親友がお呼びだぞ~」


 けいちゃんのクラスメイトがけいちゃんを呼びに行った。けいちゃんが俺の前まで虚ろな目をしてこちらに来た。


「けいちゃん久しぶり大丈夫だった?」


「…君、誰?」


 …え?


「…え?冗談言わないでよ、俺だよ、蒼哉だよ!」


「…知らない」


 そう言ってけいちゃんは自分の席へ戻って行ってしまった。俺はその晩、大泣きした。

 けいちゃんはもう俺のことを覚えていない、もう一生俺の事を思い出すことは無いかもしれない…そう考えると、涙が止まらなかった。


 その後けいちゃんは、16歳の頃、恩師に巡り会い、今のように元気になった様だ。一方俺は、小、中、高、大学を無事に卒業して、就活に打ち込んでいた。正直けいちゃんを失って、高校卒業時でも、かなり精神はやられていた。


 そして6社目で自分の就職先が決まり、俺は大喜びしていた。

 そして入社初日、俺はけいちゃんと奇跡の再会を果たす。


 そして現在に至る…という訳だ。

 本当に、けいちゃんは思い出せないの?

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