魔法少女になりました!

瀬木蜜柑

第1話

私の人生は、後どのくらい続くのだろうか。100年?1000年?10000年?どれだけ長くても構わない。ただ、いつ終わりが来るのかを教えてください。







魔法少女。というものに憧れた事はあるだろうか。私はもちろんある。高校生になった今でもアニメの影響で憧れてしまう。ふわふわの可愛い衣装を身にまとって、魔法を使って悪い事をする怪物をやっつける。それが、魔法少女。



その日の夜、やけに満月が綺麗だった。綺麗すぎて、何かが起こる、と思ってしまうくらいに。だから、ベッドの上で窓の方に体を向けて両手を合わせて祈りながら目を瞑る。



どうか魔法少女にさせてください。と。



朝の日差しと目覚まし時計の音で目を覚ます。欠伸をしながら背伸びをした。その時、視線の端に何かが映った。眼鏡をかけて見てみると箱だった。小さい箱。可愛いらしいリボンによって閉じられていた。クリスマスでもないのに何だろう、と疑問を持ちながら恐る恐る箱を開ける。


そこには、月の形をした綺麗なペンダントが入っていた。思わず手に取ってしまった時、ペンダントが光を放っていた。驚きながら見ていると、その光は強まっていく一方で、部屋全体が光に包まれた。眩しくて瞑ってしまった目を開いたその先には立った白いうさぎがいた。

「やあ、こんばんは。いや、おはようかな?うん、そっちだ。初めまして、おはよう柊雪乃。」

「……喋った。」

「そりゃあ喋るよ。おらっちも口があるし。」

なるほど。と納得しかけたが、うさぎが人の言葉を話すはずが無い。階段を昇る音が聞こえてきて、急いで謎の生命体と箱をベッドの下に隠す。

「おはよう、雪乃。どうしたの?」

「あ、いや。眼鏡落としちゃって。」

「眼鏡って…ああ、ブルーライトカットのね。お母さんもう仕事行くから、下に降りてきてね。今日土曜だからってゲームしすぎないように。」

「はーい。行ってらっしゃい。気をつけてね。」


下で鍵の閉まる音を聞いて、ベッドの下から先程隠したものを出す。

「…それで、君は誰?それにこのペンダントも。」

「おらっちの名前はアストラって言うんだ。ちなみにそのペンダントは君の物だよ。」

「なんでこんなものを私にくれるの?」

「そりゃあ、君がおらっち達にお願いしたからじゃないか。魔法少女にしてくださいって。それは変身する時に必要な物。」

確かに、昨日の夜お願いをしたけれど。まさか叶うなんて思ってもみなかったから心の整理が追いついていない。夢かと思ってほっぺたを引っ張っても痛いから、目の前に立っているうさぎも本物なのだろう。そう思いながらうさぎをまじまじと見つめる。

「おらっち達は君の願いを叶えたけど、もちろんその願いの対価を要求させてもらう。」

「え、えっと。何をすればいいの?」

「ある魔獣を退治して欲しいんだ。おらっち達が与えた君の魔法じゃないと倒せないんだよ。」

「そういうことなら。分かった。やります。」

「やけにあっさりと承諾してくれるんだね。助かるけど。」

私にしかできないこと。それは私にとって凄く魅力的な言葉で。だから何も考えずにOKを出してしまった。



「それで、その魔獣とやらはどこにいるの?」

「鏡の中だよ。」

「鏡…?」

「そう。鏡の中。まあ見た方が早いかも。ここに大きい鏡はある?」

「そこに置いてあるよ。布がかかってて気付かれにくいけど。」

可愛らしいふわふわのお尻を私の方に向けながらふむふむ。と鏡を見つめる。

「これならいけるね。初めてだから、おらっちと手を繋いで行こう。」

と言いながら、小さい手を私に差し出す。手を取り、一緒に鏡の中に入っていく。ぶつかると思ったけど逆に、水の中に入っていくみたいに不思議な感覚になった。



目を開けると、先程私達がいた部屋と同じ光景がつながっていた。困惑していると、

「こっちだよ。」

と、うさぎの走り方をしながら部屋から出ていって、階段を降りていく。違和感を覚えながら玄関の鍵を開けて外を見てもやはり変わりはないように感じる。

「ここが鏡の中の世界。さっき居た場所とは左右逆になってるはずだよ。」

その説明を受けて、自分がさっき感じた違和感はソレだったのと理解する。


ふと、獣の咆哮が辺りに鳴り響く。

「来たようだね。ペンダントは持ってきた?」

「うん。ちゃんと持ってるよ。」

「よしよし。ならそれで魔法少女に変身するんだ!方法は簡単。思いを込めながらそのペンダントを握るんだ。」

言われた通りに、あの夜祈った時と同じようにペンダントにも願いを込める。すると自分の体が光り、気がつけばアニメで出てくるような魔法少女の服装をしていた。

「おお…!」

思わず、声が出てしまった。私は今、本当に魔法少女になってるんだって実感したから。

視線を前に向けると、黒い獣のようなナニカがいた。手にはステッキがいつの間にか握られており、ナニカに対してそれを向ける。力を込めると、ステッキの先端に光が集まり、光線となる。

「えいっ!」

その光はまっすぐそれに向かっていって、ナニカは灰になって消えていく。

「すごいよ。これなら今後も君に任せることができるね。」

「ほ、ほんと?」

肉球で拍手をするものだから、ぺちぺちと可愛い音が聞こえた。

『君に任せることができる。』ということはもしかして今後も魔法少女になれる。ということなのだろうか。もし本当だとしたら凄く嬉しかった。周りの人とは違って、私だけが使える特別な力。その事が私に高揚感を与えた。


その他の魔獣とやらを何体か倒して、私がいた―逆さまではない―部屋に戻ってくる。

「それじゃあ、また魔獣が来たらよろしくね。」

「次はいつ来るの?」

「いつだろうね。明日かもしれないし1週間後かもしれない。でも長い間魔獣が来ないってことは無いんだよ。規則性はないけど、定期的に来るものだから。」

「そうなんだ。」

その後何を話そうかと思い考えていると、アストラが口を開く。

「そういえば。そのペンダントはずっと持っててね。いい事を引きつけるお守りにもなるんだ。」

そう言われ、先程首にかけたペンダントを見る。初めて見た時と同じようにそれは綺麗に輝いていた。どこぞのアニメみたく、黒く濁るようなことも見られないことから魔法少女になる副作用はないのだろうと思う。









それから2年。私は魔法少女として鏡の中にいる魔獣を倒し続けていた。高校三年生になり、卒業もいよいよ近づいてくる季節となった。

「雪乃ってずっと変わらないわねぇ。高3になるのに1年生の時と同じ顔で。もちろん凄く可愛いんだけど。」

ふと、お母さんがそう呟く。それは私も考える時がある。他の皆は写真を見ると大人っぽい顔つきになってきているのに、私だけあまり変化がないように感じる。でも正直、その分若く見えるということだから嬉しいと感じるのだ。身長はもう少し欲しかったけど。




おかしい。そう思うようになった時点で本当は手遅れだったのだろう。




あれから5年。5年だ。なのにずっと、ずっと同じ顔をしている。社会人になって大人っぽくなってきているわけでもなく、1年生の時から何1つ変わっていない。

「アストラ、どういうこと。」

「どういうことって、逆にどういうこと?」

「私の事しかないでしょ。アストラと会った日から私の見た目が何1つ変わっていない。何かしたの?」

違うと思う。だけど聞いておかなければいけないってそう思ったのだ。

「何かしたって人聞きの悪い事を言うね。おらっち達はただ、君の願いを叶えただけじゃないか。魔法少女になりたい。というその願いを。それに雪乃、ここ数年最近魔獣を倒してくれる日がどんどん少なくなってきてるんじゃない?」

当たり前だ。魔法を使うというのは未だに魅力的な言葉だ。だけど私にも生活がある。お金を稼がなくてはいけなくなっているのだ。そんなことに余裕はなくなってくる。

「雪乃の見た目に変化が無いのは何故か。そう聞いたよね。」

「ええ。そう聞いたわ。」

「それはさっきも言った通りだけど、君が魔法少女になりたいって願ったからそれを叶えた。魔法少女の少女は幼い女のことだ。だから、雪乃の姿が変わらないことにおかしいところはないんだよ。」

「……え?」

魔法少女になると見た目が成長しない。正直それなら、それだけならまだ何とか耐えられたかもしれない。でもソレはもう1つ爆弾を落とした。

「おらっちと会った時に言ったけど、君には魔獣を倒してもらわなくてはいけない。これからもずっと、永遠に。あれは人間にとって良くないものだから。」

「…永遠、に?」

それは私は死ねないという事だろうか。家族にも友達にも置いてかれて?私はずっとこのままの姿で?

「聞いてない。とは言わないよね。だって無償で貰ったものより高いものは無いと言うし。これは正当な対価だよ。人間が一生かかってもたどり着けない神秘をおらっち達は君に与えたんだから。」

それを聞いて、目の前にいるソレが酷く恐ろしいモノに見えた。






アストラの言葉は本当だった。愛した人も関係ない人も、時代も皆、私を置いていった。





私は今日も、これからもずっと、得体の知れないナニカを倒すために戦っている。






……ああ、誰か。私に終わりをください。それだけが私の望みです。

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