3 路地裏に散る
3-1 冷血のシャルロッテ
ジェダイトが魔法の講義を受けいてるとき、アーダルベルトは一人で喫茶店にいた。彼はシャルロッテの婚約者であるが、普段、二人が一緒にいるところはあまり見られない。街の噂では婚約破棄も目前だと言われるほどだ。
実際は、街では一緒にいるのを見ないというだけで、互いの家で休日を過ごしたり、街の外に護衛付きで買い物に出たりしている。その時も、シャルロッテがあまり楽しそうではないので、彼は自分は少なくとも好かれてはいないのだろうなと考えている。だからそこ、喫茶店に誘う相手はジェダイトだった。
のんびり、紅茶を啜りながら、ケーキを食べ、街を行きかう人々を眺める。領主の息子である彼が、こうして街の中でものんびりしていられるのも、父の政策やそれに従ってくれる市民あってのことである。魔獣討伐はできないが、彼は既に父と共に街の外で色々と人脈を作っている。表立ってはのんびりしているようだが、裏ではその人脈を使って、街のために色々と細工をしているのだった。
それが上手く機能しているのは彼が臆病であるからだ。危険をいち早く察知し、街を守る。それが出来るというわけだ。街が平和であるから、市民も領主たちを悪く言わず、色々な政策に従ってくれているのだった。
それでも、彼はシャルロッテの街での評判を上げることはできなかった。婚約者だからと言うわけではない。単純に努力と人への優しい厳しさを持っている彼女が誤解されていることが納得していないだけなのだ。まぁ、単純に好きな人が貶されてたら誰だって、どうにかしたいと思うだろう。
のんびりしているように見えて、様々なことを考えている彼はまだ、のんびりしているように見えた。
そのころ、シャルロッテは一人で森の中に来ていた。弓の練習ではなく、魔法の鍛錬の為だ。彼女の魔法の実力は一人でも魔獣を倒せると教師に言われているため、森に入ることには躊躇がない。
彼女は森に入る時点で魔法を使っていた。その魔法は、彼女の周りの魔気の温度を低下させるというものであった。
彼女の得意とする魔法は氷を扱う魔法だ。氷を扱うには、火と水の魔気を扱わなくてはいけない。火の魔気で水の魔気の温度を下げることで氷の魔法を使えるようになるのだが、一般的にはこういった魔法を扱える人はいない。火と水の魔気は相性が悪く、かなり繊細な魔気の操作を要求される。失敗しても爆発しないが、かなりの魔気を喪失して、魔法も消失するのだ。
それを長時間やってのける彼女の魔法の才能はかなりのものである。いや、斎野だけでできることではない。彼女の努力がそうさせていた。彼女は自身が強くなくてはいけないと考えていた。
シャルロッテは森の中で魔法を連発した。木を的にして魔法を放ったり、とにかく大きな氷塊を作り出したりしていた。彼女の鍛錬の後の森は氷で埋まっている場所が出来ていた。その氷が街中で彼女があらぬ噂を流される原因でもある。理解できない強さも持つ者は崇められるか、弾かれるかだ。彼女はその愛想の悪さのせいで集団から弾かれていた。彼女は、街の中の噂も全部ではないが知っていた。それでも彼女はその態度を変えることはない。
彼女は街に戻ってきたが、彼女は表通りを歩くのが嫌いだった。彼女は愛想が悪く、言葉遣いは丁寧だが、彼女の言葉自体には相手の心を考えるということはしない。気になることはスパッと言ってしまう性格なのだ。だが、彼女の言っていることは正しく、そのアドバイスに従えば、確実にいい方向に向かうだろう。だが、彼女の言葉に素直に従うものは少ない。彼女が店主の機嫌を損ねて、出禁になっている店もある。そのため、彼女は表通りでそういう店の店員にじっと見られるのが嫌だった。だから、令嬢であるにもか関わらず、彼女は裏路地を普段の通路として利用していた。
「シャルロッテ嬢じゃあないですかぁ」
彼女の前に現れたのは男三人だった。真ん中にいるチンピラ風の男が、挑発するように、彼女の名を呼んだ。横に並ぶ二人は下卑た笑みで、彼女を見つめる。
「また貴方達ですか。昨日の今日でよく顔を出せましたね」
シャルロッテはその冷たい目を彼らに向ける。彼らはそれでも引いた様子は見せず、むしろ好戦的な視線で返した。街中での魔法の使用は禁止されていない。だが、彼女の魔法はあまりに強い。三人はそのことを知っているはずなのに、それでも恐れずに向かってくる馬鹿であった。
男たちはポケットからナイフを取り出して、建物の間から振る太陽光が反射する。シャルロッテはそれを見ても驚きも、怖がりもしない。既に戦うのも二回目だ。それに一回目も勝利している。ただ、彼女は油断はしていない。こんな馬鹿者でも、何か策を練っている可能性はある。彼女はそれを経験で知っていた。
彼女の周りに冷気が漂う。相手にもそれが理解できているはずだ。彼女が戦闘時に周りの温度を下げるのは、すぐに氷の魔法を出現させることが出来るからだ。少し考えればそれが理解できるはずだが、目の前の三馬鹿は素直に彼女に向かって一直線に走り出した。
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