愛の囁きを辞める時

俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き

愛の囁きを辞める時

「好きです。付き合ってください。」


なんてベタな告白なのだろうか。

自分で言っておいて、バカバカしく思えてきた。


「えっ、あの……その……」


学校の屋上。

そこにいる僕以外の唯一の存在である彼女が、戸惑いながらつぶやいた。


彼女の名前は橘 凜花。


クラスで一番かわいい学園のヒロイン。

そんなものではなく、そこそこかわいい女子。


順位で言ったらクラスで7番目。

告白されたら嬉しいけど、振られるリスクを省みず自分から行くかと言われたら、少し考えてしまうような女の子。


それが彼女という存在だ。


「その、気持は嬉しいんだけど……。」


自分の右手を左手で弄びながら、彼女が言った。

僕にはその続きの言葉が手にとるようにわかった。


というか、世の中の男子ならこの先の言葉をわからない人はいないのではないか。

それくらいに、彼女の返答は使い古されたものなのだ。


「ごめんなさい!」


律儀に頭まで下げて、彼女は僕を振った。


「いや、大丈夫。じゃあまた。」


僕は彼女を一瞥して、屋上をあとにした。


「えちょっ!!」


何かを言ったような気もしなくはないが、そんなの僕に関係ない。

男子が橘 凜花に告白した。

その事実が必要なのであって、返答はどうでもいいのだ。


というか僕は早く家に帰りたい。

帰って、冷蔵庫にあるであろうアイスを咥えながら、FPSがしたい。


この学生の貴重な放課後の時間を、無駄にしたくはなかった。


「ただいま。」


学校と我が家はかなり近いから、5分もうすれば帰宅することができる。


「アンタ………」


姉貴が、呆れたような責めるような顔で見てくる。


「あっ、それ僕のアイス。」


僕は姉の咥えるオレンジの物体を見て言う。

僕が楽しみにとっておいたみかんバーを食べるなんて…………許せない…。


「あぁごめん。あんたのだっけ?」


姉は全く悪気がなく言う。


「…………もういいよ。」


僕はこれで12回目と心のなかで思いながら、そう返した。


「そんなことはどうでも良くて、アンタまたやったの…?」


いやどうでもよくないし。

何加害者のほうが開き直ってるわけ?

食の恨みは深いんだからな?


「…………別に…。」


僕は彼女から目をそらして、靴を脱ぎながら言った。


「………アンタはそれでいいの?女の子は救われるかも知れないけど、アンタはまた……。」


姉が悲しげな表情で僕を見つめる。


「良いんだよ。」


僕は彼女の顔に目をやらず、その隣を通り過ぎてつぶやいた。


「…………好きでもない子に告白して、自分が周りから悪く言われても良いっての!?」


目に涙を浮かべて姉が半分叫ぶように問いかけてきた。


「本当にバカな文化だよね、告白の回数でいじめのターゲットが決まるなんて。」


僕は肩をすくめて、おちゃらけたように彼女に問いかけ返した。


「……………………」


何を言わない姉を見て、僕は話は終わったと解釈してリビングに続く扉を開けた。


「……………バカ…。」


僕が冷房の効くその部屋に入る直前、涙混じりのそんな優しさ十割の罵倒が聞こえたような気がした。


「さて、明日はどの子に告白しようか。」


僕はアイス代わりの氷をしゃぶりながら、つぶやいた。

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