1992年5月30日(土曜)27歳の未亡人は煩悶する。
ふいに店内で歓声が沸いた。
カウンター内、入り口寄りの場所、高い台の上に設置してあるテレビの中で広島カープの背番号20北別府学の投げた球を阪神の背番号00亀山努が打ち返したのだ。
打球が右中間を抜けてゆく。
亀山は2塁を蹴って、一気に3塁へ。
亀山が3塁ベース手前で頭から飛んだ。
砂ぼこりが舞う。
判定はセーフ。
「強いなぁ、今年の阪神は」
奥に4席ある座敷席の一つに座る二人組のサラリーマン客の一人が噛み締めるように言った。
それを皮切りに、亀山だ、新庄だ、マイク仲田だ、中込だ、久慈だ、と阪神タイガース討論会が始まった。
またか、と多笑は思う。
毎夜のパターンだ。
今年、1992年は阪神タイガースが強い。
例年なら定位置(最下位)に開幕早々座ってしまうのが常だが、今季は5月現在、首位ヤクルトスワローズと2ゲーム差のリーグ2位につけている。
17年振りの奇蹟を信じ、関西は盛り上がっているのだ。
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