1992年5月30日(土曜)27歳の未亡人は煩悶する。

 「好きって、あんた、どうせあっちの方が、やろ」

多笑は突き放すように言った。

「この発情期の猿」


「綺麗で長い黒髪やろ」

片目を瞑り、コテで多笑を差しながら暴馬が言う。

「白い頬っぺた。薄い唇、気ぃ強いの丸出しやけど、時々優しく垂れる、切れ長の目ん玉、みぃーんな大っ好きゃで、多笑ちゃん」


思考が停止した。前頭葉がぽわわーんとした。

どないしよ、具体的に言われてもた、どこが好きか。

髪の毛は入念に洗い、サラサラ感と艶がキープ出来るように毎日努力している。

肌も少し高い化粧水を毎晩寝る前に叩き込み、ケアには余念が無い。

褒められてしもた。

きゃあ、嬉し!

って、完全にこの悪童のペースに嵌まってるやん、あたし。

こいつとのセックスに溺れて、こいつに毎晩のようにタダでお好み焼きを喰わして、何してんねん、あたし。

ジゴロや。この歳でこいつは完全なジゴロや。スケコマシや。

いずれ、あたしはこいつに全てを吸い上げられて、破滅を迎える。

あぁ恐ろしい。

早目に縁を切らなければ。


「お、なんやウマちゃん、愛の告白かいな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る