かえるもってかえる

透明 桃

かえるもってかえる

スーパーの帰り道。小学校の裏の神社の横を通る時、足元でケケケッと鳴き声がした。

下を見てみると、真緑のペットボトルの蓋くらいのサイズのカエルがいた。その横には、薄汚い紙が落ちている。よぉく見るとこっくりさんで使う五十音が書かれた紙の切れ端。字が幼い。小学校の児童のものだろうか。やけにカエルと目が合っている気がしたので、じぃっと見つめてみる。カエルはしゃくれていた。カエルはその紙へ飛び乗ると歩いて、文字の上に止まる。何か伝えたいのか?と買い物後の袋をよいしょと担ぎ直して、カエルの元へしゃがむ。一字一字とまるこどに、こちらを見つめる。


『か、え、る、も、つ、て、か、え、る』


「...かえる持って帰る?あははっ連れて帰って欲しいの?」尋ねると、靴の上へ飛び乗ってきた。


しゃくれたカエルとの共同生活が始まった。

カエルはなぜか字が読めるみたいだ。家に帰ってすぐ、カエルと話したかったからさっき落ちてたみたいな五十音が書かれた紙を作った。


『め、し』

「何食べんの?」

『む、し』

「うち、虫むりなんだけど」

『め、し』

「えー、じゃあさっきのトコ連れてくから自分で取ってきてよ。近くで待っとくからさ。」


そんなこんなで、カエルとは上手い具合にやってこれた。カエルはご飯の要求だけ激しかったが、それ以外は大人しく一緒にテレビも音楽も楽しんだ。いや、カエルは居ただけだけど。唯一カエルがガン見してくるのは、私が化粧してるとき。

初めのうちはただアイシャドウの隣でこっちを見ているだけだったが、最近は色も選んでくれるようになった。センス悪いから、選ばないけど。


ある日突然、『たしゅけてー、たしゅけてー』と助けを求める声がした。ハッとして、声の方を見るとカエルが鳥に睨まれていた。

「鳥、とんでけー!」と叫ぶと、鳥は飛び去った。


「カエルごめんな、窓開いてんの気づかんかった大丈夫か」

『ありぎゃたい』

「喋れるようになったんだ」

ペットと言うより共同生活の方が正しい気がする意味がわかった。カエルなのに、やけに人間味があると思っていたのだ。カエルがしゃべることに何の驚きも今までの生活からなかった。強いて言うなら、しゃくれているからちょっと癖がつよいこと。


喋れるようになってから、カエルに色んなことを聞かれた。

テレビは箱の中で人を飼っているのか、カエルに種類はあるのか、どれもしょうもないことばかりだったけど、一つだけ気になった質問があった。

『なんで、まいにちかおにいろつけるん?』

「あれは、化粧つって女の人は毎日あれをして社会に出るんだよ。なんでそんなこと聞くの?」

『かおにいろつけるまえもしゅきだから』

『いろつけたら、わらったときのかおがかわるから』

というと、冷蔵庫へぴょーんと飛んでって、磁石で留められてる写真へ着地する。

『このかおもしゅきやぞ』


その写真は、わたしが何百万円もかけて整形する以前の醜い顔だった。鼻は低く、目は重苦しい。醜くて、忌々しい。この時の辛さと、顔が変わった今でも、お金をかけただけで何も変わっていないのだと自分自身を戒めるためだ。

理想の顔に近づくため、そのために何万円も費やして自分をかえていったのに、一向に心は晴れない。美人ですね、なんてずっと言われたかった言葉なのに今更言われても素直に受け取れない自分。なのに

ブスの過去を一緒にいるカエルは褒めてくれている。

悩みはわらったときの顔がどうしても、この時の顔の面影チラつくことだった。だから、外に出る=化粧をする時は人前で笑わないように無意識にしていたのだった。


いつの間にか涙が流れていた。ずっと醜いと思い続けていた過去と未だに好きになれない自分のことをカエルの一言でこんなに救われた気持ちになるなんて。

『なんでなくん。なんでじぶんをしゅきにならんの。』

「なれんかったし、好きになる為に整形したつもりやったんに、ずっと囚われとったみたいやわ」

『あんたは、カエルがしゃべらんくてもずっとしゃべりかけてくれて、いえにもつれてかえってくれて、ほんとにいいひとよ』

「カエルは自分のこと好きなん?」

『もちろん。しゃくれてるのもあいきょう。いいひとにであえたのも、であえたじぶんもしゅき』

「カエルちょーさいこうじゃん」

『知ってりゅ』


カエルが勝手に住み着いて始まった共同生活で、私には今までなかった自分を好きな気持ちが、少しずつ芽生えてきた。きがした。

まずは自分が自分を好きにならないと、誰も認めてくれないじゃん。ずっとかわいそうで、鎧を着たブスのままだ。カエル気づかせてくれたんだね。



『まちがえたじぶんもしゅきっていうの』

「塩と砂糖まちがえたことも?」

『ていばんのまちがいするじぶんもしゅき!ほらいってみろ』

「定番とかいうなし」

「間違える自分も、カエルにであえた自分も、カエルも、しゅき」

『これから、しょれでいこう』

「サイコーじゃん、自分もカエルも」



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かえるもってかえる 透明 桃 @toumei_mm

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