第195話頼み

ハーパーは大人しく使者と収容所を出口に向かって歩いていく。


「おい、ハーパー今度は何をやらかしたんだ」


連れていかれるハーパーに収容所の皆が檻の中から笑いながら声をかけた。


「うっさいな、なんにもしてねぇよ。ちょっと野暮用で王都に連れていかれるんだ」


「えっ!?王都に?」


皆が驚きながら心配をする。


「大丈夫なのか…」


「俺達になにか…って出来るわけないか…」


連れていかれる仲間に何も出来ずに項垂れる。


「気にすんな、自分で選んだんだからな。じゃあなみんなの事頼むぞ」


ハーパーは笑って散歩にでも行くように去っていった。


「ハーパー…大丈夫なのか…」


ケイジ看守長とハーパーの見送りに途中まで来たジョンがこっそりと声をかけた…


「ああ、大丈夫だ。これを…後で読んでみろ」


ハーパーは気付かれないように手紙をジョンに渡した。


「ではジョンはここまでです、戻りなさい。この先は駄目ですよ」


「はい」


ジョンは頷くと素直に自分の牢屋へと戻って行った。


看守に鍵をかけられると大人しく部屋の壁に寄りかかる。


看守がそばを離れるとハーパーから貰った手紙を確認した。


そこには懐かしい文字が書かれていた…


「これは…ミラの字!?」


何度も練習する字を見てきた、可愛いあの子の字体は忘れもしない。


「ふふ、少し上手くなってるな…」


ジョンは愛しそうに手紙の字を指の腹で撫でた。


そして内容を確認すると…



『王都に来て、助けて欲しい。お兄ちゃん達へ…』


「これだけ?しかもお兄ちゃんってなんだ?」


ジョンは意味がわからずに手紙を何度も眺めていた。




ハーパーは馬車に揺られながら外の景色をじっと見つめていた。


あの手紙の内容を見て笑みがこぼれる。


あのお兄ちゃんと言う言葉は俺とミラとノアだけの秘密だった。


しかし、ミラが王宮を通して手紙を出せる立場にいることに驚きを隠せなかった。


あいつ…王都なんかで何やってんだ…


ミラの事だから大人しく目立たずに幸せに暮らしていると思っていたがどうもあの娘は俺達の想像とは違う何かをしようとしてるみたいだった。


でも久しぶりにあの子に会える。


今はどんな用事よりその事が嬉しいハーパーだった。



ハーパーとノアちゃん来てくれるかな…でも迷惑だったかも…ハーパー人の言う言葉聞くの嫌いそうだし…


ミラは手紙を出したはいいがハーパーの重荷になってはいないかと落ち着かなかった。


ソワソワと部屋の中をうろつくミラにビオスが苦笑して声をかけた。


「あいつらはちゃんと自分で考えられる。他人の頼みなんて自分に反するなら断る奴らだろ」


「そ、そうだね」


ミラはビオスの言葉に少しほっとした。


そんなミラの様子を見てビオスはそっと顔を背ける。


他人ならそうだろうが…ミラの頼みならあいつらは脱走しても来そうだがな…


だがそんな事は絶対にミラに言う気はなかった。

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