第132話誘拐

ミラがいなくなった事はあっという間に町に広がった。


知らせを聞いたイーサンとクロードは店の奥の事務所で唖然と立ち尽くす。


「おい!ミラが居なくなったと言うのは本当か!」


事務所には仕事を放り投げてビオスとパッドが怒鳴り込んできた!


「どうなっとる!?ミラはなんで居なくなったんだ!」


「わ、分かりません…ミラの存在はまだ世間にはそんなに知られてないはずなのに…」


こうならないように注意してきたのにとイーサンは苦々しげに拳を握りしめた。


「すまないがミラと言うのは誰だい?」


すっかり存在を忘れていた、ファイ王子がイーサンに聞いた。


「あっ…申し訳ございません。ファイ王子…ミラは私の娘でして…今混みあっておりますので予約の件はまた後日でもよろしいでしょうか?」


イーサンはショックのあまり顔色を悪くしてファイに頭を下げた。


「それはいいけど…俺でいいなら力になるよ。貴族の娘の失踪となれば大変な事じゃないか?」


「ありがとうございます!お願い出来ますか!?」


ファイのありがたい提案にイーサンは喜んだ!王子が味方となってくれればありがたい。


「ああ、その代わり見返りは期待するよ」


「もちろんです!ミラは…あの子がいないとこの店も続ける意味がない…大切な娘なんです」


「そりゃ尚更探さないと…ひとまず俺は王宮に戻って兵を連れてくる。それまでにある程度情報を集めておいてくれ」


「お願い致します!誰か王子を王宮へお連れしろ!」


イーサンは従者に命令した。


「店は閉店だ!こんな時に開いてられるか!」


クロードは店内に客に事情を説明すると案の定苦情がおきた。


「金を払っているのに帰れとはなんだ!」


「今日来るのにどんなに楽しみにしていたと思ってるの!」


貴族達がクロードを睨みつける。


「申し訳ございません…今日の代金は一切頂きません。後日改めて招待を…と言いたいところですが…」


クロードはジロっと顔をあげると


「イーサンの娘…ミラがもし見つからなかった場合…この店は閉店します。この先この店の料理が食べられ事はありません」


「な、なんだって!それは困る!」


「そ、そうよ!ここの料理を食べられなければ何を食べればいいのか…」


店の閉店を聞いて貴族達が狼狽えると


「その代わり…ミラを見つけてくださった方にはこの店で何時でも好きな時に食べられる権利をお渡し致します…」


「それは本当か!」


「はい、金銭も要求は致しません」


「わかった!すぐに馬車をだせ!屋敷の者を全て使って町中探すんだ!」


「な!先に見つけるのはうちよ!行くわよ!」


「ミラは薄紫の髪と瞳です。長さは肩にかからないほど…歳は六歳です…見つけ次第ご連絡いただけると助かります」


貴族達はミラの特徴を聞くと従者達に命令して店を飛び出して行った…


「こんな形でミラ事を広めることになるとは…」


悔しそうにクロードが肩を落とした。


「それでも見つからないよりはいい!ここに数名残しておくから、私は出るからここの事は頼んだ」


イーサンがクロードに声をかけると店を出ていこうとする。


その後ろをビオスとパッドも包丁を持ったままついて行った。


「ミラ…どこにいるんだ」


クロードは誰も居なくなった店内で呟いた。

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