第116話久しぶり

「ビオスさん何かしたんですか?」


仕込みの手伝いをしていた囚人達が笑って声をかける。


「なんにもしてねぇよ…多分」


ビオスが自信なさげに答えると


「あとは俺達がやっておくんでいいっすよー」


仲間の声にビオスは頼むとエプロンを脱ぐと看守の後をついて行った。




「看守長!ビオスを連れてきました!」


看守が声をかけて扉を開けると、中に入れとビオスは促される。


看守長室に入るのなど初めてだった…ビオスは恐る恐る足を踏み入れる。


そこには微笑むケイジ看守長がいた…


この人に会うのは…ミラが出ていった時ぶりかな…


ビオスはペコッと頭を下げると


「お呼びでしょうか?」


「ビオス、久しぶりだね。少し痩せたかな?」


ケイジ看守長がビオスを上から下までじっくりと見ると…


「これは…心配させちゃうかな…」


ボソッと呟いた。


「はっ?」


ケイジ看守長の言葉が聞こえなかったビオスが聞き返すと


「君は刑期はあと何年だったかな?」


「えっ…俺…いや私はあと五年です」


「そう、そのくらいならまぁ大丈夫かな」


ケイジは満足そうに頷くと


「ビオス、一週間後に出所が決まりました。それまでに身辺整理と体重を五キロ増やしておいて下さい」


「はっ?」


ビオスはケイジ看守長の言葉の意味をじっくりと頭の中で反芻する。


「出所…俺が?」


「ええ」


ケイジ看守長が良かったですねと笑うと


「なぜですか?まだ五年も残っているはずなのに…」


「ここでの仕事の功績と日々の行いからまぁ早めに出所してもいいと判断しました。しかし少し条件があります。一応早めの出所となりますので監視を付けます。その人の元で最低五年は働いて下さい」


「それって…務める場所が変わっただけでは…」


ビオスの顔が曇ると


「それでも外の世界ですよ。ある程度は自由もききます、それに…会いたい人もいるんじゃないですか?」


ケイジがじっと見つめると


「それは…無理…です」


ビオスは顔を逸らした。


ビオスは最後に別れた時の事を思い出す。


「あんな…つけ放す様にしたのに今更どの面下げて会えるんだ…」


ビオスの苦々しい顔を見てケイジは苦笑すると


「まぁそれはビオスの自由ですが…とりあえず出所とその後の事はきちんと守って下さい」


「わかりました」


ビオスは頷くと部屋を出ていこうとして思い出したように振り返る。


「でも五キロは無理ですよ」


すっかり流していた事を思い出すと


「それもできる限りやってください」


有無を言わさない顔にビオスはなぜだと思いながらも頷いた。


その日からビオスは仕込みをしていた囚人達に自分のあとを頼むと朝昼晩と飯を食らった。


「そんなに食べてどうしたんだ?」


みんなに心配されながらも自分でもわからずに飯をかきこむ。


そして出所の話を聞いたジョン達が挨拶に訪れてた。


「ビオス、ちょっと太ったな」


ジョンが笑うと


「ですが前よりは痩せてますね。あの時一気に痩せてしまいましたから」


ローガンが苦笑する。


そう言うジョン達も皆少しだけコケていた。


「お前らだって変わらんだろ」


ビオスがジョン達を見比べる。


「しかし早い出所となりましたね。おめでとうございます。向こうでは何を?」


ローガンが聞くと


「いやなんか仕事をしろと言われた。監視の元でな…」


「ふーん…そんな事あるんですね。ここに入ってから初めて聞きました」


ローガンがジョンとメイソンを見ると同じように頷く。


やはりみんなも初めての事のようだ。


「まぁそれでもここよりはいいでしょう。頑張って下さい」


ローガンが手を差し出すのでビオスは服で手を拭くとその手を掴んだ。


ジョンやメイソンとも言葉を交わして…あっという間に一週間がたったのだった。

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